ウォークラリーのため息・1
曇り空。季節は夏に移行しようとしているので、生ぬるい空気があたりに漂っている。
今日はウォークラリーだった。
学校全体のイベントで、全学年が10キロを歩く。10キロ‼ 信じられない!
でも私は学級委員なので、実行スタッフの特権で歩かなくてもいい。その代わり、その10キロの間に設置されたチェックポイントで通過していく生徒の体調を見たり、塩分チャージタブレットを配ったりする。
歩かずに済んだ! と喜んだのもつかの間……
その日、私は生理になってしまった。
しかも、生理痛のおまけつきで。
うう……お腹が痛い……
私の生理痛は月によって波があって、ほとんど痛くない時もあれば、めちゃくちゃ痛くて立っていられないってくらい重い時もある。
そして、よりによってこのイベントの日はかなり重い日、だった。
……とりあえず良かった、歩かなくていいだけかなりましだ……。こんなので歩いたら、絶対私途中でぶっ倒れちゃうよ……
今日も、こんなにお腹が痛くて学校に行ける? 休んじゃう? とも少し思ったんだけど、生理痛って波があるし、薬も飲んだし、私はチェックポイントで椅子に座ってればいいから、それなら何とかやりすごせそう、と思ったので登校した。
私と同じチェックポイント係の同級生と一緒に、おしゃべりをして何とか痛みから気をそらす。気を……そらしているつもりなんだけど、お腹の痛みですぐに会話が止まってしまう。
「うーん、お腹痛い……」
「彩ちゃん大丈夫? 救護テントに行ったら?」
「座ってるからなんとか大丈夫やと思う。さっきまた薬飲んだから、それが効いてきたら痛みもマシになるやろうし」
「ほんま、今日なるなんてついてへんねえ」
ああ、今日こそはかっこよくしっかり自分の役目を果たすんだ! と思っていたのに、ほとんど同じ係の同級生に頼りっぱなしだ。情けなし……
そういえばさっき、めっちゃ勢いよくカナくんがやって来たな。
チェックポイントで自分が一番にここに来たかどうか私に聞いて、一番じゃないって分かったら、くそー負けるか! と言って走っていった。なんて元気なんだ。
晴くんはゴールにある本部で仕事をしている。晴くんが頑張っているんだから、私も頑張らなくちゃなあ、と思うんだけどね……
ああ、お腹が痛い。それに貧血気味かも。頭も痛くなってきた。
薬、効いてこないなあ。
私が椅子に座り、お腹を押さえてうぐぐぐ、とうなっていると、係の女の子が本格的に心配しだした。
「彩ちゃん、ほんま無理せん方が良くない?」
「うーん……」
「絶対救護テント行って横になった方がええって!」
ええ、でもそんな……ただでさえ役に立ってないのに……彼女一人に役目を押し付けるのはなあ……
私がうつむいて何とか痛みを逃がそうとしていると、係の子が通りかかった生徒にちょっと! と声をかけた。
「君、ちょっとこの人救護テントまで連れて行ってくれへん? 私は先生に携帯で連絡しとくから」
「はー? 俺っすか?」
めんどくさそうな声。
うう、これは……
私は顔をあげることもできなかったけれど、うん、声で分かる。ユウくんだ。
うあー、何でこういう時にやって来るかなあ。またかっこ悪いところを見せてしまった……。一回くらいはこう、さっそうと仕事をこなしている姿を見せたいのになあ。
チェックポイントにやってきた数人の男子がざわついている。ユウくんのクラスメートかな。
「なんや悠太。病人か? 怪我人?」
「さあ? ……あれ、彩さん?」
「緊急やったら俺らで連れて行ったらなしゃーないやろ」
ユウくんと一緒にいたらしき男子が、私の方に歩いてきた。
「大丈夫っすか? 歩けます?」
男子が私の腕を引こうとしたところで、触んな、とユウくんが言うのが聞こえた。
男子を押しのけて、ユウくんが私のそばに来て膝をつき、私の顔を覗き込もうとする。
「彩さん? 動ける?」
「うーん……」
動け……動ける、かな? 私。少なくとも救護テントまで歩いていくのは無理そう……だから、むしろここで座ってる方が体は楽なような……
「こら埒あかんな」
ユウくんが言って、膝をついたまま私に背中を向け、私の腕を引いた。
う、痛い。私の体を動かさないでほしい……
そんな私の願いもむなしく、私はユウくんの背中に乗せられた。




