虹の帰り道・2
何だか最近、ユウくんに助けられてばかりいるような気がする。
本人はあんまりそんな気はないみたいだけど……結果的にね。結構助けられてるような。
偶然が重なっていると言えばそうなんだけど、ユウくんに借りばかり作っているとしたら申し訳ないなあ…
その分グミとかお団子とか報酬をねだられてはいるんだけどね……そう考えると、別に借りを作っているわけでもない? 私は助けてもらえて、ユウくんは食べ物にありつける。Win-Winな感じ?
でもまあ、あんまり迷惑をかけ続けるわけにもいかないよね。私がちゃんとしなくては。
そんなことをぼんやり考えていると、晴くんがやってきた。
「彩、悪い。だいぶ遅くなった」
「え、全然平気やよ!」
晴くんに会えたのがうれしくて笑顔になる。毎日会ってるんだけどね。でもやっぱりうれしい。こうやって少しでも一緒にいることができる時間がすごく大切なの。
私たちはゆっくりと歩き出した。
「だいぶ暑くなってきたなあ」
「ね。この湿気が……髪の毛ぶわーってなるんが嫌やねんよね。そろそろ髪くくろっかなあ」
「くくったりもするんか?」
「え? うん、体育の時はいっつもくくってるし。湿気でむわむわなる時はもうずっとくくってよっかなって」
「そうか……」
口に手を当てて少し考えている風の晴くんに、どうしたんだろう? と不思議に思う。
「どうかした?」
「いや、そんな彩もかわいいんやろうな、と思って」
「え!」
突然の晴くんの発言に驚いて顔が熱くなる。
ただ髪をくくろうかなって言っただけで、そんなこと言ってくれる!? 恥ずかしくなってしまう。
顔が熱くなっているのをごまかすように、私は手のひらでぱたぱた、と顔をあおいだ。
「あ、えーっと、そういえばさっき玄関のところでハンド部の子たちに会ったよ」
私は恥ずかしくなったことを悟られないように早口になってしまった。
「そうか。あいつらまた余計なことしとらんかったか?」
「え、別に……ていうか、またユウくんに助けてもらって……」
「悠太が?」
晴くんが首をかしげる。……あ、そういえば、ユウくんに助けてもらった話って、全然晴くんにしてなかったっけ?
「あのさ、こないだ晴くんに送ってもらった虹の写真あるやん? あれ、私が見てたら、画面覗き込んできたハンド部の子たちにちょっとからかわれて……それをユウくんが自然に話題変えてくれてん。もしかしたらユウくんはなんも考えんとしゃべってただけなんかもしれんけど、助かったなあって思ったから」
ユウくんが本当に虹から連想して食べ物のことしか考えていなかったのか、助けてくれようとしたのか、はっきり分からなかったけど。でもそれで私が助かったのは本当だからなあ。
「そうなんか。また、ってことは、前にもあったんか?」
「うん、この前は、掲示板にお知らせ貼るの、高い場所に貼るのに手が届かんくて困ってたら、通りかかったユウくんが貼り付けてくれてん。その後重たいフラスコ運ぶんも手伝ってくれて。めっちゃええ子! って思ってたら、その後しっかりお団子要求されてんけどさ」
あの時は、視聴覚室の席取りを犠牲にしてまで手伝ってくれてたなんて……! って思ったのに、結局お団子が目当てだったって分かって、何だそりゃ! ってなったけど。
優しいんだか打算的なんだか、いまいちよく分からないんだよね。
「そうやったんか。あの時、俺を待っててくれたら俺がやるって言うとったのに」
その晴くんの言葉ではっと気付く。……そうだ、あのユウくんに手伝ってもらったこと、結局私一人じゃ仕事をこなせなかったって白状することになっちゃうから……気まずくて晴くんには話せなかったんだった……!
そんなことすっかり忘れてしまって今ばらしてしまった。
ああ、やってしまった……
がっくりと私はうつむいた。
「あ……その……そうやんね。結局私、一人でちゃんと仕事できんくて……誰かに頼らんとあかんくって……晴くんに、一人でできるって言ってしまったから、その後結局できませんでしたって言えんくて」
私がしどろもどろになって話していると、晴くんがきゅっと私の手を握った。
そのあたたかい感触が伝わってきて、晴くんの顔を見上げる。
「なんも彩のこと責めてへんよ。自分で頑張るんやって彩が思ったことが大事やねんから。俺がおらんところで困難に遭った時に、その時おった他の誰かに頼ることやってちゃんとした対応の仕方や。それでしっかりと自分のやるべき仕事をこなせてんから、彩はちゃんと仕事を完遂できたんや」
晴くんがしっかりと私の目を見つめてそんな風に言ってくれるから……私の心はふわっと軽くなった。
晴くんはいつでも私を認めてくれる。私がうまくできなくても必死で行動したことを、すべて肯定してくれる。
私は晴くんの目を見て笑った。
「うん……ありがとう」
晴くんも私を見つめたまま、にっこり笑った。
「そうか……でも、悠太が……」
晴くんが小さな声で言う。
「どうしたん? ユウくんがなに?」
「……いや、まああいつも、彼方とは別の人間や言うても、DNAは同じやもんな」
「え? どういうこと?」
DNAが同じ? 二人は双子だし……一卵性なら、そりゃそうなんだろうけど。
晴くんを見て首をかしげている私を見て、晴くんは笑顔になって私の頭をなでた。
「なんもない。こっちの話や」
何だろう? 部活の関係で、彼らに何かあったのかな?
……でも、そんなことはどうでもいいか。
今はこうやって、晴くんと二人で過ごすこの時間が何よりも大切だから。
私たちはしっかりと手をつないでいた。
その晴くんの手の確かなぬくもり、強さ、心を感じて、私は湿った初夏の空気の中、幸せに浸っていた。




