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きみと私の放課後  作者: はる
双子と彩
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花と団子・2

 二人で特に話題もなく理科準備室に向かって歩いていた。

 自分が荷物を持っていないので、周りの風景を見る余裕もある。

 廊下の窓から、外の植え込みが見えた。


「わ、めっちゃ花いっぱい咲いてる!」


 独り言のつもりだったんだけど、声に出していたのでユウくんもちらっと窓の外を見た。


「花?」


「そう、今年園芸部がめっちゃ頑張っとって、植え込みにずーっと花咲かせるって言って、ほんまにめっちゃたくさんの種類の花咲いてるねん。いろんな色のがあってきれいやねんで」


「ふーん」


 ユウくんが少し窓によって外の植え込みを眺める。


「食えるんやったらすげえって思うけどな」


「え、そこまで食にこだわる? そら食べられる花とかもあるやろうけど……ここに植えてる花に食べられるんはないんちゃう?」


「あっそ」


 全然興味なさそう! いや、男子なんてそんなものかな……


「ユウくんはあれやろ。花より団子ってことやろ?」


 私は笑いながら言った。ここまで徹底的に食べ物のことばっかり考えてるなんておもしろいなあ。それとも成長期の男子はみんなこんな感じなのかな?


「団子か……」


 ユウくんはお団子のことを思い浮かべたのか、宙を見て少し考えるようなそぶりを見せた。


「団子ええな。食いたい。彩さんのポケットに団子入ってへんの?」


「え! ポケットにお団子? さすがにそれは……」


 ポケットにお団子仕込んでるとか、どんな女子高生よ、それ!


「彩さんのポケット、四次元ポケット並みにいろいろ入っとるから団子もあるかと思って」


「いやいや、無理やって。お団子は……購買かどっかで買ってよ」


「つまんね。団子の話したらめっちゃ食いたくなってきた。つーか腹減った」


「え、だってさっきお昼食べたんやろ?」


「もう消化した」


 お、恐ろしい……男子高校生の胃袋……


「えーと……お団子はないけど、飴なら持ってるけど……」


「それでええ。くれ」


 まあ、そうなるよね。ユウくんでもカナくんでも、この二人に会って私のお菓子が減らないはずがない。

 私はポケットから飴を取り出した。

 ……あ、でもユウくんは荷物を持ってくれてるから……


「あー、ユウくん両手ふさがっとるよね。ユウくんのポケットに飴入れとくから、後で食べてくれる?」


「嫌や、今食いたい」


「えー」


 わがままか!

 そしたらいったん荷物を私が受け取って、と考えていると、ユウくんがびっくりするようなことを言った。


「食わせてくれ」


「え!」


 どこまで子供みたいなの……!

 あきれる気持ちと、男子に飴を食べさせてあげるとか……何そのカップルみたいなやりとり、という困惑の気持ち。

 いや、私とユウくんの間にそんな雰囲気皆無ですけどね。

 でもそういうことをしていいのか考えてしまう。

 口を大きく開けて待ち構えているユウくんを見て、でもこれは……と考えを改める。

 何ていうか……これ、そんなことを意識する方がおかしいっていうか……これだけ何も考えていなさそうな子供っぽいユウくんに対して、男子に女子がそんなことするなんて、って考えている私の思考が失礼なような気がした。

 馬鹿みたいだなあ、私。いつも変なこと考えすぎちゃう。

 私は肩をすくめて、飴の袋を破り、ユウくんの口元に持っていった。

 私の動きに気付いたユウくんが身をかがめて私の方に顔を近付ける。

 うーん、だから近いってば、と思いながら、袋をユウくんの口に近付け、中身の飴を指で押し出した。

 カラン、ときれいな音がして、飴がユウくんの口に入る。

 ちょっと指がユウくんの口に当たってしまったけど、これは気付かなかったことにしよう。


「よっしゃ飴やー。マスカット味か」


「うん」


「この甘さが血糖値爆上げしてくれてええねんよな」


「それってええの?」


 ほんとおもしろい子だなあ、と思って笑ってしまう。


 理科準備室に着いて、私が扉を開けようとしたところで、私たちが今やってきた方向から男子生徒たちが歩いてきた。


「あれ? 悠太、お前なにしとん」


「おー」


 ユウくんの答え方を見ると……クラスメートかな?


「ちょっとな、先輩の手伝いや」


「お前アホやん、次の時間寝たいから早めに視聴覚室行って一番後ろの席取っとく言うとったくせに。今行ってももう後ろの席埋まっとるぞ」


 その言葉にえ? と思ってユウくんを見る。

 ……それでユウくんは一人であそこを歩いていたのか。


「あー、まあしゃあないな。別に真ん中でも前でもどこの席でもええわ。どこでも堂々と寝るんが俺のポリシーや」


「どんな自慢やねんそれ!」


 男子たちが笑っている。


「そしたら俺、この荷物置いたらすぐ行くからお前ら適当に席取っといてくれ」


「おー」


 男子たちはワイワイ言いながら私たちを通り過ぎて行った。

 私は驚いたままユウくんを見つめた。

 そんな私を見てユウくんが首をかしげる。


「はよドア開けてや」


「え、あ、うん」


 私がすぐにドアを開けると、ユウくんはすっと中に入って箱を中のテーブルの上に置いた。


「ユウくん、用事あったんやね、ごめんね付き合わせて」


「は? 別に……」


 そう言いかけたけれど口をつぐんで、ユウくんはニヤッと笑った。


「全然かまわんで。彩さんが気にすることちゃうし。俺が好きでやっただけやし!」


「え、でも」


「このあと団子が手に入るんやと思えばぜーんぜんなんてことないし! あー楽しみやなあ!」


 機嫌良さそうに腕を組んで私を見下ろすユウくんに、やられた……と思う。

 これ、私が絶対断れないって分かって言ってるよね……

 そうだった、ユウくんはとにかくいつもお腹を空かせていて、私を見るとお菓子! お菓子! とねだってくるような人だもの。私の手伝いをしたら、その分普段よりも報酬を欲しがるのなんて当然だった……!

 これは……仕方ない。後で購買に行ってくるしかないか……

 ユウくんは鼻歌を歌いながら理科準備室を出た。

 そして廊下の窓から外を見る。


「あー、花がきれいやなあ」


 う……思ってない。絶対思ってないでしょ、それ!

 何ていうか……憎たらしいんだけど憎たらしくないというか。あきれちゃうけど仕方ないなあと思ってしまうというか。

 まあ、今の私の気持ちを一言で言うと、とほほ……って感じだった。

 ユウくんは私を見て勝ち誇ったような笑みを見せた。


「いやあ、団子もええけど花もええな。腹は減っとるけどええ気分やわ。じゃ、彩さん、またあとで!」


 ぱっと片手を上げ、ユウくんは悠々と視聴覚室の方へ歩いていく。

 もういろいろとあきらめてしまった私は、ユウくんの後ろ姿を眺めながら、ため息をついて笑った。


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