花と団子・1
お昼休み。私は学級委員の仕事に奮闘していた。
いつも晴くんに頼りきりだけどね! たまには私も活躍するのですよ。
今日は晴くんは担任に別件で呼ばれていた。だから私一人。でもやる時はやるんですよ私も。
……と言っても、やはり一筋縄ではいかなかった。
私の仕事は二つ。学年のお知らせを掲示板に貼ること。もう一つは、大量のフラスコを理科準備室に運ぶこと。
どっちも晴くんが、待っていたら自分がやるから、と言ってくれたんだけど、いやいや、こう見えても私だって学級委員の端くれなんですよ。みんなもう私が学級委員だってこと忘れてそうだけど……。晴くん一人に何でもかんでも全部やらせるわけにはいかない。だから、全然平気! 晴くんはもう一つの担任にお願いされた仕事の方に集中してください! と宣言して、私はこの仕事に取り掛かった。
でも……
まずこの箱に入ったフラスコ。意外と重い。
ガラスって重いんだね……落としたら絶対に割れちゃいそうだから、落とすわけにはいかない。
こういう力仕事こそ晴くんに頼めば良かったのかもしれないけど、女だからこの程度の仕事もできないんだ、ってのも何だか悔しいので、私はありったけの腕力を振り絞ってフラスコを運んでいた。
理科準備室に行く途中に掲示板があるので、お知らせは途中で貼っちゃえばいいや、と思い、掲示板の前で立ち止まる。
でも……掲示板はいろいろなお知らせのプリントでいっぱいだった。
私が持っている学年のお知らせを貼りたくても、掲示板のかなり上の方に貼らないといけない。
背伸びをしてうーん、と手を伸ばすけれど、届かない……!
ああ、どうして私はこう何もできないんだ……
重たい荷物を持つのも、高い場所にお知らせを貼るのも、晴くんに頼らないとできないなんて情けなさ過ぎる。
難しいことは無理でも、こういう雑用っぽいことこそ私がちゃんとできるって見せたいのに……
どうしようかなあ、このフラスコが入っている箱の上に乗る? いや、箱がつぶれたら?それでフラスコが割れたら? 私が足を滑らせて落ちて怪我をしたら?
私が覚悟を決めて箱に乗ろうか……と真剣に考えていると、背後からのんびりした声が聞こえた。
「彩さんやん。なにしとん」
くる、と振り返ると、そこにはユウくんが立っていた。
「あ、ユウくん」
彼は一人だった。いつも一緒のカナくんがいない。ポケットに手を突っ込んで、ちょっとだらっとした砕けた雰囲気で立っている。
「一人? カナくんは?」
「はー? なんでそんな四六時中あいつと一緒におらなあかんねん。そもそもあいつとはクラスも違うし一緒におらなあかん理由なんかないし」
くだらなさそうに話すユウくんに、そんなものなのか、と思う。
まあ、そりゃそうか。いくら双子だからって、高校生男子が兄弟とずーっと一緒にいるなんて不自然? 私の中のイメージでは彼らはいつも一緒なんだけど。
「彩さんはなにそこで垂直飛びして遊んどるん」
「す、垂直飛び? ちゃうって! このお知らせ貼りたいねんけどちょっと手が届かんくて……どうしようかなって思ってただけ」
「あー? なにそれ。見せてみ」
ユウくんはぱっと私の手からお知らせのプリントを取った。
「なになに。3年のお知らせか。講演会と……弁論大会の参加者募集?」
「そう。3年は全員このプリント配られるねんけど、1、2年も参加してええよってお知らせ。ユウくんも出る?」
ユウくんは鼻で笑った。
……まあそうだよね。彼が講演会や弁論大会に真面目に参加しようとするとは思えない。
「で? これ、この上の隙間んとこに貼ればええん」
「え、手伝ってくれるん?」
「彩さんが垂直飛びしとっても、そのジャンプ力やったら永遠に貼るん無理そうやからな」
ユウくんの言葉にぐ、と詰まる。
……確かにそうかもしれないけど……。でも身長なんて持って生まれたもの、どうしようもなくない!?
ユウくんはゆうゆうとプリントを掲示板の上部に貼った。さすが高身長。余裕だなあ。
「ありがとね! ユウくんはもうお昼ご飯食べたん?」
「当たり前やろ。昼休み入って五分後には食い終わった」
五分!? それは早すぎなのでは……ごはん足りてるのかなあ。
あ、でも今日は今のところお菓子をねだられていない。ということは、ご飯を食べたばっかりでお腹いっぱいだから今は大丈夫ってことなのかなあ?
私のポケットには……今は飴しかないけど、教室に戻ればもう少し食べ応えがあるグミがある。それなら後でお礼にグミでもあげようかな。
「そっかそっか。食べ盛りやねえ。そしたらね」
私は足元の箱をえいやっと気合いを入れて持ち上げた。
くー、重い……。自分の腕力のなさが恨めしい……でも気合い入れてるからきっと大丈夫!
「今度はなんなん、それ」
「これもね……仕事で……運ぶねん。ちょっと重いけどね。私もやればできるねんよ!」
そう、これくらい、ちょっと頑張ればいけるはず!
私がえっちらおっちら歩きだしたら、ユウくんがため息をついてすっと私が持っていた箱を持ち上げた。
「えっ?」
突然私の腕から重さが消えて、もう体が浮いてるんじゃないかってくらい軽くなったような気がして私は驚いた。
ユウくんがめんどくさそうな顔で箱を持っている。
「どう見てもできるように見えへんし」
「え、いや、それ運ぶん私の仕事で……ええよ、そんなんしてくれんくて。返してくれる?」
「彩さんがこれ持っとっても、数m歩いたところで落としてフラスコ床にぶちまける未来しか見えんけど。ここの床割れたフラスコのガラス破片まみれにしてもええん」
「えー! いや、そんなんならんし。私けっこう力持ちやねんで? 平気やって」
「あんな持った瞬間腕ぷるぷるさせといてなに言っとん」
ユウくんの言葉にぐぐぐ、となってしまう。
確かにすごく重かったけど……
「でもそれ、私の仕事やから」
「意味分からんけど。頼れるもんはなんでも頼ればええやん。そんなんで意固地になって意味あるん。俺にしたらこんなもん発泡スチロール持っとるんかってくらい楽勝に軽いし」
発泡スチロール……!
ああ、男子との腕力の差が憎い。
それでもまだ戸惑っている私にユウくんは何でもなさそうに言った。
「それにここで彩さんに恩売っとけば、またなんかうまいもんもらえるかもしれんからな」
それかー!
ユウくんのこの優しさは思いっきり打算……!
……それならもういいかあ。ユウくんにはあとで持っているグミを全部あげよう……それで足りないとか言われたら困るけど。




