双子・初恋事件・5
「あークソ、腹立つ! なんでこの俺が落ちこぼれやねん! ふざけるにもほどがあるやろ!」
腹立たしげにずっとブツブツ言っている彼方が引き返してやばい行動を取らないように、俺は彼方と肩を組み、密かにホールドしながら歩いていた。
あーおもしろかった!
やっぱこうじゃなくちゃなー。彼方が暴走して、頂点越えて、そして急転落下。ちゃんとオチがつかなくちゃおもしろくない。
いいものが見れて俺は満足していた。
カナと彩さんの噛み合わなさっぷりはすごかった。二人とも思い込み激しすぎだろ。
どっちもこうと思い込んだら相手の話をまるで聞かないで暴走する。彩さんがあんな人だとは知らなかった。おもしろ。
俺は彼方の頭を小突いた。
「ほんで、カナは彩さんが初恋やったんか? 初耳やけど。小1の時のマリンちゃんはどこ行ってん」
彼方は不機嫌そうにうなった。
「はー? なに言うとんねん。俺の初恋は保育園の時のミアちゃんじゃ!」
「あ? 新キャラか?」
「アホ! 俺にカッチカチの泥団子の作り方教えてくれたミアちゃんがやっぱ初恋や!」
「……あー、はいはい、あの卒園と同時に南アフリカに行ってもうた子か」
こいつの初恋はどれだけ多いんだ。初恋の価値が大暴落してる。
「そうや! 俺はこれから、めっちゃハンド強くなんねん。そんで死ぬほどええ女に成長したミアちゃんがテレビで俺見て『きゃあ! 彼方くん、超イケメン! 結婚して!』って連絡してくるんを待つんや!」
「……ほー。でも南アフリカやろ? テレビでハンドの試合放送なんかやるか? それやったらまだ芸能人とかの方が見つけてもらえる可能性ありそうやけど」
俺の言葉に彼方はぴた、と歩みを止め、腕を組んでしばし考えた。そして何かに気付いたのか、はっと顔を上げた。
「……おいユウ、俺らにはすんばらしい目標があったやんか!」
俺の方を向いてにやり、と笑う彼方を見て、すぐに俺も思い出した。
「……ああ、あれか」
「そうや! 俺らはプロハンドボーラーと漫才師、二足のわらじで一世を風靡するんじゃ!」
鼻息荒く自信満々に語る彼方に笑い転げそうになる。
ひー! アホや! マジもんのアホや! おもしれー!
「もちろん、俺らの未来の姿、忘れてるわけないやろ?」
俺は不敵な笑みを見せ、彼方にウインクする。
「おっしゃ、そしたら俺ら、しゃべりはなんも問題ないからな! まずはプロハンドボーラーに近付くために、今日の練習は筋トレ回数を倍、いや3倍に増やすで! ユウ、お前ついてこいよ!」
「は、なめんな。俺、筋トレ得意やし。お前の先を行ったるわ」
「そんなら勝負や!」
「受けて立つ!」
俺たちは二人してこぶしを天に突き上げた。
意気揚々と歩き出した彼方と肩を組み、ふと体育倉庫の方を振り返る。
……それにしても不思議というか、疑問だ。
彩さん。あの人、本当に、ひとっかけらも彼方の気持ちに気付かなかったのか?
まあ彼方の言うことに信憑性がないのは仕方ないけど。
でも、彼方にあれだけ迫られて揺らがない人間がいるとは。
よっぽど鈍いのか、本気で天然なのか……
……いや、それもあの人の防衛本能なのかもしれない。
あの人はそんな雰囲気出してないけど、おそらくかなりもてる。性格のきつくない美人がもてないはずがない。でも、あの人の性格からして、言い寄ってくる男の気持ちを一つ一つまともに受けて断るのはかなり大変そう……というより、あの人自身が消耗してしまうだろう。
だからあの人は、無意識に自分を守るためにそういう気持ちに一切気付かないようにしているのかもしれない。
まったく気付いていない、自分はそんな想いを受け止める用意は一つもないのだ、と表明し続けていれば、それをかいくぐってまで言い寄る男はそう多くないだろう。基本的に男は臆病だから。彼方みたいなやつを除いて。
……ま、そんなこと、どうでもいいか。どうせ今は部長があの人を守っているんだろうし。俺が考えることじゃない。
ああ、昼休みのほとんどをこの彼方劇場に費やしてしまったから腹が減った。めちゃくちゃ減った。さっきから腹がぐうぐう鳴っている。
さっきせっかく彩さんに会ったんだから、飴の一つでも貰えば良かった。
俺たちにくれるためにいつも菓子を持ち歩いているんだ、と自慢げに言って笑っていた姿を思い出す。
いつでも俺たちに穏やかに笑いかけて、食い物をくれる人。
彩さんは美人だ。
美人に優しくされて勘違いしない男なんかいない。でもあの人は、周りが見ても丸分かりなくらい部長のことが好きで、そんな彼女を見て本気で自分に惚れているなんてうぬぼれるやつはいない。
そう、俺だって。




