双子・初恋事件・4
「え……え? えーと、これは……なに? ドッキリ? 晴くんとユウくんはいつからいたん?」
私はわけが分からず晴くんに尋ねた。
晴くんは私を見て少し笑った。
「ドッキリでは……おそらくないねんけど。俺と悠太は最初からおったで。彩が教室でなんやらメモを渡されて、それ見て深刻な顔して教室出て行ったから、こっそりついてきとってん。そしたらここで悠太に会った」
「そしたら……私とカナくんの会話も聞いとったん?」
「ああ」
ええー! それなら……晴くんはどう思ったんだろう。カナくんの気持ちを知って。
私は慌てて晴くんに言った。
「あの……晴くん、ごめんね」
「ごめん? なにが?」
「私……意地悪やから……カナくんが晴くんのこと好きで、私にあきらめろって詰め寄って来るのに、絶対嫌やって思って……めっちゃカナくんに冷たいこと言ったと思う。ごめんね、晴くんの大切な部活の後輩やのに」
「え」
晴くんが大きく目を見開いて私を見る。ああ、晴くんの視線が痛い。晴くんの後輩にひどいことをしてしまった私を、晴くんはどう思うだろう。
晴くんは私の手を取ってぎゅっと握った。血の気が引いて冷えた私の手に、晴くんの手はあたたかかった。
「彩はずっと勘違いをしとってんなあ」
「勘違い?」
「俺にしたらなんでそんな思考回路になるんかよう分からんけど……彼方は彩のことが好きや言うとったんや。俺ちゃう」
「え⁉」
何それ? え? カナくんは晴くんが好きだと思っていたのに、逆だったの!?
カナくんが私を好き?
……いやー、それは……どう考えてもないでしょ……
「晴くん、それはないよ。カナくんが私を好きとか、ちょっと意味不明やし。もし私を好きなんやと思ってたとしても、きっとそれ気のせいやと思う。ほら彼ら、晴くんのこと尊敬してるから……だから晴くんに憧れるあまりに、彼女の私もよく見えてしまっただけなんちゃうかな」
晴くんは私を見つめたまま、ゆっくりと頭をなでた。
「彩は、他人からの好意に少し無頓着すぎるんちゃうかな」
「……え?」
「俺が彩に告白した時もそうやったやんな。自分が告白されたことに全然気付いとらんかった。俺がむきになって彩に好きやって訴えて、ようやく理解してくれた。彩は他人が自分に対してそんな思いを向けると想像しなさすぎる。
……でもそれは、きっと彩の良さでもある。彩自身が、他人と接する時に基本的に好意を持って接しとるやろ? だから他人から自分に向けられた好意も、普段自分がやっとることと同じものを向けられただけやと判断する。きっと彩にとって好意は特別なものやなくて、自然にそこにあるものなんやろうな」
晴くんに言われて思い出して、恥ずかしくなってしまった。
……そうだ、最初晴くんに告白された時も、そんなこと思われているなんて想像もしていなかったから、驚いて……全然実感がわかなかった。
そして今回も、晴くんの言うことが本当であれば、私はカナくんの気持ちにまったく気付かず、むしろ恋のライバルだと思って……何とか彼に勝たなくちゃ、と思ってしまっていた。
……私って、もしかしてものすごく失礼?
「それ……いいところなんかなあ。それって他の人を傷つけてない?」
「大丈夫。あの二人も、そうやって彩が普段、いつも好意を持って接してくれとることがきっとうれしかったんやと思うで。部活でボロクソ言われても、腹減って苛ついとっても、彩と顔を合わせればいつでも笑顔で菓子をくれる。そういうんは小さな救いになってあいつらの中にどんどん溜まっていったんやろ。それで想いが募ってお前に告白しようと思うくらい」
告白⁉
晴くんの言葉にぎょっとしたけれど、……そうか、カナくんは私に告白しようとしていたのか……
ずっと勘違いをしていて、悪いことしちゃったなあ……
でも……
私は晴くんの服の裾をぎゅっと握った。
「……それ、私、ちゃんと返事せなあかん、よね……」
「いや? もうええんちゃうか?」
「えっ?」
晴くんの言葉に驚く。晴くんならそういうの、きっちりけじめをつけろって言いそうなのに。
「なんか最後の方、あいつえらい怒っとったしなあ」
「あ……私が落ちこぼれなんて言うたから……」
晴くんはその時のことを思い出したのか、おかしそうに笑った。
「はは。彩にかかればあいつらも落ちこぼれになるねんな。あいつら、ハンド界隈では最強ツインズとか呼ばれとって、めちゃくちゃ強いし人気あるねんで」
「え……そうなん⁉」
普段、晴くんに怒られている二人しか見たことなかったから……そんなこと知らなかった。
そっか……そりゃ、落ちこぼれの私と一緒になんかされたら怒るか……
じゃあ、プライドが傷つけられたし、私のことはもう嫌いになっちゃったかなあ。
「ああ。それが彩にはそんな風に見えるんや、なんてこと分かったら、今頃彼方のやつ燃えとるんちゃうか? もっとハンドで力つけて、自分を知らんやつなんかおらんようになるくらい有名になってやる、くらいのこと考えてそうや。もう彩とどうこうなんて考える暇もなくなっとるやろ」
「……なるほど」
さすが晴くん。すごくカナくんのこと分かってるんだ。
そう考えると……やっぱり二人の間には、私には入り込めない何かがあるのかなって思っちゃうな……
「……晴くんにとって、やっぱりカナくんって特別なん?」
「え?」
私の言葉を聞いて、晴くんが驚いて私の顔を覗き込む。
「そういう……同じ部活をやってる人たちにだけ分かる絆とか……分かりあえるものがやっぱりあるんかなって……」
「気になるか?」
「……うん……」
こんなことで拗ねるなんて馬鹿みたいだけど。分かってるけど。
でも、大好きな晴くんの、私の知らない姿をたくさん知っている人がいるんだって……思うと、やっぱりそれは寂しい。
晴くんは笑ってそっと私の頬に触れた。
「そうか、そしたら今日の帰り、彩にたっぷり教えてやる」
「え……部活のこと? それともカナくんのこと?」
「いや、俺にとって彩がどれだけ特別か。なににも代えられん、絶対に離されへん存在なんか。たとえ苦しみを一緒に乗り越えた絆がなかったとしても、どれほど彩とすべてを分かち合いたいと思っとるか。夜を徹してええくらいじっくりたっぷり話して聞かせてやる」
私を見つめてそう話す晴くんの言葉を聞いたら、ぶわっと私の心にたくさんの花が咲いたような気がした。
……この人は、私のことを大切に思ってくれている。
同じ部活をしている彼らほど一緒にいることができなくても。辛いことや楽しいこと、乗り越えることを共有できなくても。
それでも……ただ何気ない日常を一緒に過ごしているだけの私たちだけど……
私の心に咲いたたくさんの花を、たとえいつか枯れてしまう日が来るとしても、その前に、ちらりと散る花びら一枚一枚を拾って、押し花にして、そして残していつでも取り出せるように。押し花を見たら、いつでも花が咲いた時の気持ちを思い出せるように。
そんな風に、今のこの一瞬をずっと大切にしてくれるこの人と、私は一緒にいるんだ。
私は晴くんの手を握って微笑みかけた。
「うん……。そしたら私も晴くんのことどれほど大好きなんか、他の人に渡したくないって思ってるんか、いっぱい説明するね。晴くんに負けへんくらい、めっちゃ語り尽くす」
「そら困ったな。時間がいくらあっても足りんなあ」
「そうやで? 晴くんのこと、家に帰してあげへんから!」
晴くんは歯を見せて笑った。
「それはこっちのセリフやのに、先に言われてしもたなあ」
私たちは体を寄せ合って笑った。




