双子・初恋事件・3
ふたりともよく分からなくなって一緒に首をひねっていたけれど、カナくんはひとまず分からないことを考えるのはやめたようで、んん、と一つ咳払いをして話し出した。
「いやいや、ちょっと順を追って話しましょうや。彩さん!」
またカナくんがずい、と私に近付いた。
私は怖かったけれど、でも今逃げちゃいけないんだ、と思ってぐっとその場に踏みとどまってカナくんの視線を受けた。
「彩さん、あんたは俺の初恋なんすよ!」
カナくんがきっぱりと言う。
……ん?
やっぱり話がよく分からない……
それに私が初恋? いやいや、そんなことないでしょ。
「待って、カナくん、こないだ『俺の初恋は小1の時同じクラスやったマリンちゃんや』って言うてたよね?」
私の言葉を聞いて、カナくんは動揺したように視線を動かした。
「はー? なにを! いや、んなわけない!」
「え、だって確かに……」
「男にとってはいつだって目の前におる女が初恋なんす!」
「はあ……」
よく分からないけれど、それでどうしてこの状況で私が初恋だ、なんて言いだすの?
初恋……
私だって、晴くんが初恋だけど……
その時、ある考えが私の頭をかすめた。
……初恋は実らないもの。
だから晴くんのことをあきらめろって言ってるの?
カナくんの初恋は私だって主張することで、カナくん自身は初恋をあきらめる。だから私もあきらめろって……そう言いたいの?
そんな……そんな回りくどい言い方しなくても……
「それから、彩さん、いっつも俺に優しくしてくれるでしょ! 部長に怒られてる時もかばってくれるし、会うたびにお菓子くれたりするし。そこまでしてくれる人、普通おらへん。それで俺の中でどんどん彩さんが特別になっていったんすよ!」
だってそれは……
……それで、何?
私は優しいから、晴くんもカナくんに譲れるだろうって言いたいの?
私なら、大好きな晴くんとも笑って別れて、カナくんとの仲を応援できるでしょって言いたいの?
……そんなの嫌だよ。
みんな私のこと優しいって言ってくれるけど、私は全然優しくなんかない。
私はうつむいて唇をかんだ。でももう一度視線を上げて、カナくんを見つめた。
「私、別に全然優しくないよ。カナくんは私が君たちに優しくしてるって思ってたんかもしれんけど、あれは……私は二人に共感してたっていうか……同類やなって思ったから、同情心で接してただけやねん」
「ん? どういうことっすか?」
首をかしげるカナくん。私は自分の手をぎゅっと握りしめた。
「私は勉強とか苦手で……落ちこぼれやから。だから、二人の気持ちが分かるなって思ってただけやねん。私、いっつも試験とかでもいい点取れんくて、先生にあきれられてるから……だからいつも晴くんにあきれられてる二人の気持ち、分かるなって思っててん。落ちこぼれやけど、なにやってもうまくいかんけど、でもお互い前向いていこうよって気持ちで接してただけ。私たち、同じ落ちこぼれ同士やし、って思ってた」
ああ、こんな風に、私の現状を知らない後輩に、自分が馬鹿な人間だってことを告白するのってすごく勇気がいる。わざわざそんなことを知らせる必要なんてほんとはないもんね。でも……私が優しい人間だって誤解されたまま、私なら晴くんをあきらめられるだろうって思われている方が嫌だから。
分かったでしょ? 私はあなたたちに優しくしてたわけじゃないの。ただ共感していただけ。だから……優しくない私は、晴くんをあきらめない。
私の言葉を聞いたカナくんは、一瞬黙った。
私がじっとカナくんの顔を見つめていると……みるみるうちに、カナくんの顔が大きくゆがんだ。
「はああ~~~~~~~~⁉」
ものすごく大きな口を開けて不満の声をあげるカナくんに、私はめちゃくちゃひるんだ。
カナくんはつかみかかりそうな勢いで私の方に身を乗り出した。
「ちょ、誰が落ちこぼれやねん! 誰に物言うとるねん! 俺のどこが落ちこぼれや! 俺はハンド部のエースでプリンスでアイドルやねんぞ! ボールの魔術師! コートの帝王!」
ものすごい勢いで怒鳴るカナくんに、私は恐怖のあまり固まった。
え、え……
すると突然私の前にすっと人が出てきた。
……晴くん!
晴くんがカナくんと私の間に立って、壁になってくれている。
そしてカナくんの背後からも声が聞こえてきた。
「どうどうどうどうどう!」
私につかみかからんばかりだったカナくんは、これまたいつの間にか現れたユウくんに背後から羽交い絞めにされていた。
二人とも……いつからいたの!?
私が驚いて二人の顔を見ると、なぜか二人はものすごく笑いをこらえるような表情をしていた。
「いやーびっくりするわ、ここまで嚙み合わんもんやねんなあ」
がっちりカナくんをホールドしたままでユウくんが言う。
「はー? ユウ、さっさと離せや、クソ! 俺がどれだけすんばらしいか証明せな気が済まん!」
「はいはい、分かっとる分かっとる。お前はすごいなー。俺が証明したるわー」
「ふざけんな!」
「おい、彼方」
晴くんがはっきりした声でカナくんに言うと、カナくんはぴた、と止まった。
「お前の気持ちはよう分かった。でもその上で彩のことはあきらめてもらわなあかん。言うとること分かるな?」
「……くっ……!」
カナくんが目を閉じて歯を食いしばる。
「ほいなら、俺らは撤収しますわ。おつかれさんしたー」
抵抗しなくなったカナくんを引きずって、ユウくんが去っていく。
……そんな状況を、私はあっけに取られて見ていた。




