双子・初恋事件・2
昼休み、友達とお弁当を食べようとしていたら、クラスメートに小さな手紙を渡された。
「なんかこれ、誰にも知られんように彩ちゃんに渡してって言われてんけど」
「へ? なにそれ?」
よく分からないまま手紙を受け取る。
手紙……というか、ルーズリーフが乱雑に折りたたまれたメモ、みたいな……
それを開いて中を見ると、メッセージが書かれていた。
『誰にも知られないように体育倉庫の裏に来るように』
……えー! 何これ? 果たし状?
どうして? 私、誰かに恨みでも買っていたっけ?
いや、喧嘩とか、普通に無理だけど……
晴くんに相談しようかなあ。
……うーん、でも待って、こういうのって……少女漫画とかでよくあるパターンを考えると……
もしかして、晴くんを好きな子からの手紙かもしれない。
私が晴くんと付き合っているから、それを気に食わない女の子からの呼び出しってこともあるのかも。
でもなあ……
またうーん、と考える。
このルーズリーフを乱雑に折った手紙。女の子がこういうのに手紙を書いたりするかなあ? それに……偏見丸出しで申し訳ないけど、この手紙の筆跡……女の子が書いたとは思えないくらい、字が汚い。乱雑に書きなぐられたように見えるし、男の子の字……っぽいよなあ……
ということは、やっぱり果たし状?
でもさすがに男の子に恨まれるような心当たり、ないんだけど……
いや、もしかしたら、晴くんのことを好きな男子って可能性もある!?
そうだ、そういうことも考えられる。
……ということは、さすがに晴くんにこんなの、相談できないよね……
じゃあやっぱり、よく分からないけれど私一人でこの指定された場所に行くしかないか……
体育倉庫に着いて、裏側をこわごわのぞいてみると、そこにはカナくんが立っていた。
え、カナくん?
彼の姿を見た途端、あー、またかあ……と思う。
今度は何だろう?
ぱっと見たところ、今日はそばにユウくんはいないようだった。……もしかして、どこかに隠れてる、とか?
いや、双子だからと言って常に彼らが一緒にいるとも限らないか……。私が見る時はたいていいつも一緒だけど。
でも、じゃあ、今日は何をたくらんでいるんだろう? あんまりびっくりさせられないといいんだけど。
「えーと……カナくん?」
私が声をかけると、背中を向けて携帯をいじっていたっぽいカナくんがぱっと私の方を向いた。
「彩さん!」
はじけるような笑顔で私の名前を呼ぶカナくん。あー、何となく、めちゃくちゃ尻尾を振られているような……幻覚が見える。
その満面の笑みに少し驚く。
どうしたんだろう? えーと、お菓子……? 今ポケットに何か入ってたっけ?
「ど、どうしたん? 今日は一人? 珍しいね?」
私がそう言うと、突然カナくんの顔から笑みが消え、すごく真面目な表情になった。
「……男の一世一代の局面や。外野なんかいらん」
「……そう、なん?」
ちょっとよく分からない。
「彩さん」
カナくんが深刻な顔をして私に近付く。
……何となく怖い。
いや、だって彼、大きいしね?
こんなに目力が入った顔で私に近付いてくるってことは……えーとえーと、私に何の用?
こんな風にカナくんが不機嫌そうな顔をしている時って、だいたいお腹が空いている時だよね?
……もしかして、いつもあげてるお菓子、足りなかった?
それで怒ってる?
確かに男子生徒が、飴やキャラメルひとつでお腹を満たせるとは思わないけど。でも口寂しいくらいなら……それくらいでも、ないよりいいかなって思ってたけど……
ずんずん迫ってくるカナくんに怖気づいて、少し後ずさりしてしまう。
私はできるだけ平静を装ってカナくんに話しかけた。
「あ、あの、ごめん。次からは飴とかやなくて……もうちょっと食べ応えのある、クッキーとかブラウニーとか? 持ち歩くようにしとくから……それで許してくれへんかな?」
「はあ?」
カナくんが眉根を寄せる。
「なに言うてんの? 俺がいつ食いもんの話してん」
「え、違うの?」
食べ物の話じゃない!? え、じゃあ何?
カナくんが不機嫌な顔で私に詰め寄って来るって……
だって私とカナくんの関わりなんて、学校ですれ違った時にお菓子をあげることと、あとは晴くんくらいしか……
そこではっとした。
……そうだよ、私、最初にあのメモを渡された時、何て思った?
もしかしたら晴くんを好きな子が、私のことを気に入らなくて呼び出しているのかもって思ったじゃない。
……カナくん、もしかして……
本気で晴くんのこと、好きだったの?
さあっと血の気が引いた。
まさか……
まさかと思いたいけど。
でも、カナくんもユウくんも、晴くんのこと、恐れている割には尊敬してたし……
何より晴くんと彼らは、ハンド部と言う強いつながりがある。
私よりもずっと晴くんと長い時間を一緒に過ごしている二人。
一緒にきつい練習を乗り切って、試合をして、勝って喜んだり、負けて悔しかったり、励まし合っていろんな問題を乗り越えて……そうやって築いてきた絆は、きっと私が想像できないくらい強い。
そして、二人がどんなにやんちゃでも、晴くんは決して見捨てずに見守り指導している。
そんな晴くんに彼らが特別な思いを抱いたって、きっと不思議じゃない。
彼ら……カナくんから見たら、私なんて、すごく邪魔者なんだろう。
いつも晴くんの部活が終わるのを待っていて、一緒に帰っている。カナくんだって、部活が終わった後、ゆっくりと晴くんと話したいことだってあったかもしれないのに。
そんな日々が続いていくうちに、ストレスが溜まって……私が邪魔で仕方なくなっちゃったのかな……
晴くんと本当の絆でつながっているのは自分だって言いたいのかな。私はおとなしく身を引いて、二人の邪魔をするなって……そう言いたいの?
目の前のカナくんの顔をしっかりと見る。
真剣な目で私を見ている。
今……きっと彼はふざけてなんかいない。
本気なんだ。
「彩さん、俺、彩さんに言いたいことあるねん」
すごく緊迫した声でカナくんが言う。
……ああ、やっぱり。
そうなんだ……
私も真剣な顔でうなずいた。
「……うん、カナくんの言いたいこと、分かるよ……」
「え! 分かっとるん!?」
カナくんが大きな声で言う。
私は一つ、大きく深呼吸した。
私は……そりゃ、もちろん私は、あなたたちのような晴くんとの絆はないかもしれない。私たちにあるのは、ただお互いが好きだというその気持ちだけだ。あまりにもふわふわしていて実体のないものに見えるかもしれない。
でも、私だって晴くんをあきらめたくない。
あなたたちだけが知っている世界の邪魔をしようなんて思わない。だから……私から晴くんを奪わないでほしい。
「……私、カナくんたちがうらやましいよ」
「へ?」
「みんな、めっちゃ部活頑張ってるんやろ? 朝も夕も、休みの日なんて一日中。ずっと一緒にいて、厳しい練習とかいろんなこと乗り越えて。私も男やったら、そんな風にみんなと一緒にハンドボールできたんかなあ」
「え、まあ、そら……俺ら強いし。すげえし」
「知ってるよ。みんなはすごいって知ってる。でも、私も負けたくないねん。私やって……みんなみたいに、すべてを分かち合える仲間じゃなくても、好きな気持ちだけは負けたくない」
「ん? なんかよう意味分からんのですけど」
「だから、晴くん……君たちの部長のこと」
「あ、ぶ、部長すか!? そこ、もうそっちの問題にいってまいます!? 先にそっち話してまいますか!」
「先にそっちって……どういうこと?」
だって、そもそもの話は晴くんのことなんじゃないの?
二人ともよく分からなくなって、一緒に首をかしげてしまった。




