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きみと私の放課後  作者: はる
双子と彩
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双子・誘拐事件・2

 どこかの重い扉が開く音がして、私はその中に入らされた。

 埃っぽいような、かび臭いような匂い。うーん、これ……体育倉庫?

 私が入った後、今度は扉を閉める音がした。

 そこでようやく私の肩をつかんでいた手が離された。

 さすがにずっと強い力で肩をつかまれていると痛い。私はほっとして肩を両手でさすってから、頭にかぶせられていた袋のようなものを取った。

 そして私はぎょっとした。

 私を体育倉庫に連れてきた二人が中にいたんだけど、二人とも目出し帽をかぶっていたのだ。

 えーと……もしやこれは、正体がばれないように……そうしてるってことなのかな……

 大きな男子二人が目出し帽をかぶって私を向いている図は、めちゃくちゃ怖いと言えば怖いんだけど……でも、目出し帽の頭のところ。少し破けていて、そこからキラキラした金髪がはみ出していた。

 ああ、こんな派手な頭をしているの、どう考えてもカナくん……


「悪いけど、しばらくここにいてもらうで。抵抗しても無駄やからな。大声出したら問答無用で口をふさぐし、無理にここ出ようとしても阻止する。あきらめてここでおとなしくしといてもらおうか」


 一人が仁王立ちで私に告げる。

 私は口に手を当てて、うーん、と少し考えてから、騙されてるふりしても仕方ないか……と、口を開いた。


「なんでカナくん、そんなことしとるん?」


 胸をそらせて腕組みをしていたカナくんは、びくっとして体を震わせた。


「は!? なに言うとんねん! 俺は彼方ちゃう! 別人や!」


「いや、だって声が……」


「俺は彼方ちゃう」


 いきなり声のトーンをめちゃくちゃ高くしてカナくんが答える。いや、無理ありすぎ……


「俺らが誰かなんてどうでもええ。とにかくおとなしくしてもらおうか」


 ユウくんが、こっちは異常に声を低くして言った。……何だかなあ……この二人のやってること、ほんとに子供と変わらないんですけど……


「えっと、とりあえず、この状況なんなんか説明してもろてもええかな? 二人はなんで私をここに連れてきたん?」


 高音のカナくんが答える。


「それは教えられん。あんたはただここで助けが来るのを待っとればええ。安心しろ。そのうち必ずヒーローが助けに来るからな」


 はあ……

 ヒーローって何だろ。晴くんのこと?

 でも、二人が悪役をやって、晴くんがヒーローになって私を助けて……なんてことしたら、後で二人が地獄を見るだけのような気がするんだけど……どうして二人はそんなことしようと思ったんだろう?


「ひとまずヒーローに助けてもらうためにも、あんたにはもうちょっと怖がってもらわなあかん。その方が周りが見てもヒーローすげえ、ってなるやろ?」


 高音のカナくんがそう言って私に近付いてくる。

 ……え?


「えーと、充分怖かったよ? いきなり頭からなんかかぶせられて腕つかまれて、めーっちゃ怖かった! 夢に見そうなくらい!」


 もしかして私に何かするの!? と思ったら、さすがに恐ろしすぎるので、私は精一杯怖かったアピールをした。今までで充分怖いですから! これ以上はけっこうです!

 カナくんが私に本気で何かするとは思えないけど、それでも体の大きな男子が近付いてくると体がすくむ。迫力あるしね……


「ま、その調子でしばらくの間怖がっとってくれたらええわ」


 低音のユウくんが言う。


「そうそう。あんたが怖がっとってくれればくれるほど、あの人の俺らに対する感謝も大きくなる、いうもんやしな!」


「俺らが解放される日も近いな! よっしゃ、やるで!」


 二人がよく分からないことを言って盛り上がっている。

 ……どういうことだろう? あの人って……たぶん晴くんのことだよね? 私が怖がっている方が晴くんが感謝する? 二人が解放される? 何の話?

 目の前の二人をじっと見つめる。

 さっきは頑張って声のトーンを高くしたり低くしたりしていたけれど、ずっと話しているうちに声を変えるのが疲れたのか、地の声に戻って来てるし……

 私をさらって、ヒーローが助けに来る……私が怖がっている方が晴くんが二人に感謝する……

 ん? もしかして、二人が話すヒーローって、二人自身のこと?

 私をさらったのは二人だけど、晴くんの前で、二人が私を助けたように見せかけようとしてるの?

 自作自演、ってこと?

 今自分が思いついたことを目の前の二人に言っていいものなのかどうか私が悩んでいると、二人が体育倉庫の扉を開けた。

 二人は入り口で私を振り返った。


「いったんここで俺らは行くで。でも、勝手にここから出られると思ったら大間違いや。ちゃんと外から鍵かけて、出られへんようにするからな。あんたはそのままそこでおとなしく助けが来るんを待ってるんやで」


「心配せんでもすぐ助けが来るからな。静かにしときや」


 二人はそう言って、また扉を閉めた。

 ええー……

 えーと……ちょっと待って、さすがに雑じゃない? 今ここで私が大声を上げたらどうするつもり?

 そしてさすがにこの埃っぽくて暗い体育倉庫に一人で取り残されるのは嫌だ。ちょっとぞわぞわする。

 すぐに助けに来てくれるって言ってたけど、それでも……

 ……ん? そういえば私、自分のバッグ、どうしたっけ?

 図書室を出る時にバッグは手に持ってた。その後、二人に連れ去られた時……その時、バッグは持ってたっけ?

 あの時びっくりしすぎていたから、よく覚えてないなあ、と思ったけれど、体育倉庫の明かり取り窓から入ってくる光ですぐ分かった。入口の扉の横に、私のバッグがある!

 ということは、そこに私の携帯も入ってる!

 私はバッグを引き寄せ、中を探って携帯を出した。

 そして晴くんに電話をかける。

 晴くんはすぐに出てくれた。


「彩?」


「あ、晴くん」


 晴くんの声を聞いた途端、ほっとして体の力が抜けたような気がした。

 さすがに双子に連れ去られて、こんなところに閉じ込められて……心が緊張していたのかもしれない。


「どうしたんや? 彩、どこにおる?」


「あのね、私、実は今、体育倉庫におって……外から鍵かけられてるみたいやから出られへんねん。だから晴くんが来てくれたらなって……」


「体育倉庫? なんでそんなところに」


 話しながらも、すぐに晴くんが動き出したのが分かる。携帯越しに風の音が聞こえるからだ。


「えーと……私も実はあんまり状況がよく分かってなくて……」


 双子のことを話してもいいのかなあ? たぶん、二人、めちゃくちゃ晴くんに怒られるよね……晴くんがどれほど部員に対して厳しいのかあまり知らないけれど、今までの二人の様子を見ているとかなりきつく叱られちゃうのかも。

 私がどう話そうか悩んでいると、晴くんの心配そうな声が聞こえた。


「彩? 大丈夫か?」


「あ……うん、大丈夫……」


 バッグと携帯を見つけて、とっさに晴くんに電話しちゃったけど、良かったのかなあ。

 私としては、今すぐにでも晴くんに会いたいから全然それでいいんだけど……

 そんなことを考えていると、体育倉庫の外が騒がしくなってきた。

 あ、晴くんが来てくれたのかな?


「げ、部長やんけ!」


「やばい! マジでやばいで俺ら! 急げ!」


 双子の声が聞こえ、扉の鍵を急いでガチャガチャ開ける音が聞こえる。

 重たいはずの倉庫の扉が、バン! と大きな音を立ててものすごい勢いで開いた。双子が開いたのだ。

 扉を開いたけれど、双子の視線は倉庫の外に向いたままだった。


「あー! 部長! 一足お先に俺らが彩さん見つけておきましたので!」


「そうそうそう! ちゃあんと無事も確認しとりますから! ご安心を!」


 口々に言っている二人を押しのけて、晴くんが倉庫の中に入ってきた。


「彩!」


 晴くんが血相を変えて私に駆け寄る。

 ……え、そこまで大ごとな感じ!?

 晴くんはすぐに私の目の前に膝をついて、私の顔や体をそっと触っておかしなところがないか確認していた。

 その晴くんの必死な様子に、もしかして私、すごく大変な状況だったの? と初めて思って……そして晴くんが来てくれたことに心から安心したら、なぜか涙が出てきた。

 晴くんは私の涙を一度だけぬぐって、それから私を抱きしめた。

 晴くんの腕の中で、私はようやく、本当に安全な場所にたどり着いたのだと思った。


「晴くん……」


「……ごめんな彩、一人にして」


「ううん……来てくれたからええねん」


 私もぎゅっと晴くんに抱きついた。

 やっぱり私のヒーローは晴くんだった。


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