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きみと私の放課後  作者: はる
晴太郎と彩
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片想い

「瀬戸くん? どうしたん? ぼーっとして。珍しいね?」


 声をかけられてはっとした。

 放課後の教室。終学活を終え、生徒は次々と教室を出ていっている。

 俺の手元にはたくさんのプリントがあった。さっきクラス中から集めたものだ。これを出席番号順に並べなおして担任に提出しないといけない。それなのに俺の手は止まっていた。


「なになに? 勉強のしすぎ? それとも部活で疲れとる? 寝不足とか?」


 興味深そうな表情で俺の顔を覗き込むクラスメートの花房さんの姿に、俺の目は奪われた。

 花房さんは色白で、少し茶色がかったストレートの長い髪が肩の下まで伸びている。表情豊かな大きな目で、自然に近付いてきて笑顔で話しかけてくれる同級生。制服を大きく着崩すことはないけれど、ウエストのベルトを調整してスカートは膝がギリギリ隠れるくらいの長さに調整していた。それが一番足がきれいに見える気がする、と他の女子生徒に話しているのを漏れ聞いたことがある。

 制服の着方ひとつでその人の見え方にどれほどの違いがあるのだろう、と不思議に思うけれど、女性というのはそういうことを気にする生き物なのだろう。大げさにスカートを短くしていたり、シャツのボタンを開けてできるだけだらしなくしようと精を出している生徒もいるが、全然理解できなかった。でも花房さんくらいの変化であれば自然なこととして受け入れられる。

 現金なものだ。

 そんなとりとめのないことを考えながら、俺をじっと見つめている花房さんから目をそらした。


「ごめん、なんもない。ちょっと考えごとしとった」


 そう言って俺はすぐに手元のプリントに目をやり、素早く前後を入れ替え出席番号順に並べ替えた。


「うわ、はや! さすが瀬戸くんやね」


 目を見開いてぱちぱちと瞬きをする花房さんを見て、誰にも分からないくらいの笑みを浮かべ、俺は彼女に声をかけた。


「そしたらこれ、職員室に持って行こうか、花房さん」





 好きな人がいた。

 誰にも話したことがないし、言うつもりもない気持ちだった。

 そもそも自分が女性に対してそんな感情を持つことがあるとは思っていなかった。

 俺は毎日勉強や部活で忙しくしていたし、他のことを考えるような余裕がある生活を送っていなかった。

 そのこと自体に何の不満もない。

 恋愛に熱を上げている同級生もいるにはいたが、自分には無縁の世界だと思っていた。

 俺が他人を好きになるにはまだ精神的に成熟していなかったのか、それとも俺はそういう感情を持てない人間なのか、またはただ単に毎日忙しすぎるだけだったのか。

 理由なんかはどうでもいい。特に興味もなかった。

 ただ自分の現在の生活に、恋愛が必要ないことだけは確かだな、と思っていた。


 それなのに、俺は同級生を好きになった。

 春になり、四月になって新しいクラスに入った時に、彼女の姿が目に入った。

 その彼女の姿が、何となく気になるような気がして、でもそれがなぜなのか分からなかった。

 知り合いに似ている? 芸能人に似ているとか? でもどれも心当たりがなかった。

 ただ何となく気になる。理由は分からない。

 そういうのもすべて気のせいなのかと思っていた。

 そんな彼女と一緒に学級委員になった。

 学級委員に推薦されること自体は、俺にとってはよくあることだったので、特に反論することなく受け入れた。確かにこまごました仕事が増えるし、忙しい中やならければならないことが増えると言えばそうなのだけど、俺は合理的に物事を進めたいタイプだったので、俺が学級委員になることによってクラスの決め事が無駄なくすんなり決められるのであれば、学校生活が円滑に進められる。それなら小さな仕事が増えること以上にメリットがある、と思っていた。

 女子の委員はなかなか決まらなかった。

 話し合いでは決まらず、くじ引きをすることになり、その結果俺が気になっていた女子が委員になった。

 それが花房さんだった。

 うれしいような、動揺するような気持ちだったけれど、それを表面に出すことはなく、俺はあくまで彼女に対して他のクラスメートと同じように接していた。

 花房さんはクラスメートの誰とでも仲がいいように見えた。いつも笑顔で、周りの人と楽しそうに話している。その相手が俺ではなくても、教室にいる時、俺は彼女の笑い声が聞こえたり、ふと視線を上げた時に彼女の笑顔がちらりと見えるだけで満たされた気持ちになった。少し苦しくて、でもあたたかくてどことなく落ち着かないような気持ち。

 気付けば俺は毎日のように彼女の声を探すようになった。姿を探すようになった。

 そんな風になってしまったら、いくらそのような感情に縁がないと思い込んでいた俺だって、これが何なのか分かる。

 俺は花房さんに恋をしていた。

 ……でも、そんな俺の気持ちなどもちろん知らない花房さんは、俺に対して、彼女の友人に対するのと同じように接した。

 ぱっと顔を近付けて表情豊かに話しかけてくる。

 親しげに笑って、冗談を言って、一緒に楽しく過ごそうとしてくれる。

 普段俺はあまり表情がないと言われているので、おそらく無表情で応対しているとは思うのだけど、内心は緊張しっぱなしだった。

 そんな風に俺に対して楽しそうに話しかけられると、少しは心を許してくれているのだろうか、と勘違いをしそうになる。

 そのたびに俺は自分を戒めていた。調子に乗るな、彼女は誰に対してもそうじゃないか、と。


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