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きみと私の放課後  作者: はる
晴太郎と彩
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クラスメート

 私たちがそんなやり取りをしながら教室の前までたどり着くと、廊下の先からハンド部の練習着を着た体格のいい男子生徒が走ってきた。


「晴太郎! もうミーティング始まっとるけど。まだかかるんか?」


 ハンド部の人。教室まで呼びに来るなんて、やっぱり瀬戸くんは忙しそうだなあ。


「ああ、悪い。荷物取ってすぐ行くから先に始めといてくれ」


「分かった、急げよ!」


 男子生徒は私たちのところに来る前にすぐに踵を返しまた廊下の先の方へ走って行った。

 私はその去っていく男子の姿をぼんやり見ていたけれど、なぜか瀬戸くんも同じように私の隣に立って彼が走り去っていく姿を黙って見ていた。

 ……ん? 急いで行くんじゃないの?


「瀬戸くん? 行くんちゃうん?」


「ん……ああ、行かなあかん」


 瀬戸くんは教室のドアを開け、自分の机に荷物を取りに行った。

 教室にはもう誰も残っていなかった。

 さ、私も自分の荷物を持ってさっさと帰ろう。

 自分のバッグを持ち上げながら、そういえば、と思って瀬戸くんに声をかける。


「瀬戸くんって晴太郎って名前なんやね?」


 さっき男子生徒がそう呼んでいた。みんなに一目置かれているような瀬戸くんだけど、部活の仲間にはそんな風に親しく下の名前で呼ばれているんだな。


「え? うん」


「なんか古風やね。でも瀬戸くんに合ってる気がする」


「そら、生まれた時からこの名前やし」


「そりゃあね。……まあ私も別に今風じゃなくって普通の名前やけど。……瀬戸くん、私の名前知ってる?」


「そら知っとるよ。彩やろ。花房彩」


「あれ、知ってるんや!」


「クラスメートの名前くらい知っとるよ」


 そんなもんなのか。私はクラスの……特に男子生徒の下の名前、全員分言えるかどうかちょっと自信ないけど。

 瀬戸くんは少し遠くを見るような目をして、表情を緩めた。


「花房彩。ええ名前やんな。ばあちゃんち思い出す」


「え……」


 お、おばあちゃんの家!?

 どういうこと? 私の名前、字面からよく花屋さんみたいとか植物園みたいとは言われるけど……おばあちゃんの家って。


「瀬戸くんは私の名前聞いて、おばあちゃんの家を思い出すんや」


「ああ。ばあちゃん、花が好きで、家の中も庭も花だらけやから。一年中いろんな色のきれいな花が咲いとる空間思い出す」


「……そうなんや」


 そういうことか。

 花がいっぱいって点では、他の人に言われるのとそう変わらないけど……瀬戸くんは私の名前で、そんな個人的な空間を思い出すんだ。

 瀬戸くんの表情を見ていると、何となく分かる。

 きっと瀬戸くんは、そのおばあちゃんの家が好きなんだろうなあ。好きとまではいかなくても、思い出したら表情を緩めてしまうくらい、落ち着いた……思い出のある空間なんだろうな。

 ……えー、何だか気恥ずかしくなってくる。


 何だか今日はいろいろあったなあ。主に瀬戸くんのことで。

 想像もしていなかった瀬戸くんの意外な一面を見たりしたから、瀬戸くんに対して以前よりほんの少しだけ親近感がわいたかもしれない。今まではこの人何考えてるか全然分かんないな……って思ってたから、関わりたいなんて思わなかったけど。

 これだったら、テスト前、ちょこっとだけだったら勉強教えてもらったりしてもいいかなあ……今度頼んでみようかなあ。瀬戸くんなら一度私に声をかけてしまった手前、絶対断ったりしなさそうだ。

 ま、それはまた今度考えてみよう。


「そしたら、バイバイ。部活頑張ってね!」


 私は鼻にしわを寄せてにっと笑って、瀬戸くんに手を振った。

 瀬戸くんはそんな私の顔を見て、ほんの一瞬目を見開いてから、今度は目を細めて私と同じように鼻にしわを寄せた。


「ありがとう。また明日」


 荷物を持った瀬戸くんは、くるっと振り返って教室を出て行った。

 ……うわー、最後のあれ、瀬戸くんの笑顔!? またレアなものを見てしまった……

 何だか意外なことばかりというか……完全無欠のマシーンみたいだと思ってた瀬戸くんだけど、恥ずかしがったり慌てたり笑ったり、普通の人間の男の子なんだなあ……

 今日はいろんな瀬戸くんの顔を見れてラッキーだったな。

 私は自分のバッグを持って、教室の中の瀬戸くんの席を見た。今は誰も座っていない、空っぽの席。いつも姿勢よく、落ち着いたまなざしで授業を受けている姿を思い出す。

 忙しく部活へ向かった瀬戸くん。

 ……また明日、瀬戸くんに会えるんだなあ。

 クラスメートって不思議だ。

 学校が離れてしまった友達より、離れて暮らす親戚より、下手したら一緒に暮らしている家族より、ずっと頻繁に毎日顔を合わせて一緒にいる。学校がある限り毎日会う。

 瀬戸くんとも……これからも毎日会うんだなあ。

 いやいや、そんな言い方したらまるで特別な存在みたいだけど、別にそんなわけじゃない。ただクラスメートだから。他のクラスメートだって同じだから。

 でも、毎日顔を合わせていたら、今日みたいにまた見たことのない瀬戸くんの顔を見ることができるのかもしれない。

 それってちょっと楽しみかも。

 毎日の、学校に来る楽しみが増えちゃったかもしれないな。


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