彼方と悠太・1
ここから新しい章になります!
今回は、双子と彩の話がメインになっていきます。
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
補習を終えた私は、第二体育館に急いでいた。
午後の体育の授業の時に、第二体育館に落とし物をしてしまったからだ。
落としたのはミニタオル。違う高校に進んだ中学時代の友達が、別れ際にくれたものだ。大切に使っていたのに体育の授業中に落としてしまった。
なくなっていないことを願って第二体育館に入る。
体育館の中は、バドミントン部と卓球部が練習をしていた。
ピンポン玉や羽が飛び交う中、私はどうしよう……と思いながら、周辺を見渡し、隅にいる卓球部のマネージャーらしき女の子に話しかけた。
彼女経由で卓球部やバドミントン部の部員に尋ねてもらった結果、ミニタオルは無事見つかった!
部活前の準備中に、体育館の隅に落ちているのを見つけてもらえていたようだ。
良かった!
彼らにお礼を言いまくって私は第二体育館を後にした
あー良かった。安心して、さあ、そしたら私は図書室に行って、晴くんの部活が終わるのを待とう、と考える。
タオルを落としたのが第一体育館だったら、男子ハンドボール部が練習中だから……もしかしたら部活中の晴くんに会えちゃう? って少し思ったけれど。
でもまあ、落としたのは第二だからね……
そんなことを考えながら第一体育館の横を通りかかったら、体育館の横の扉の前にハンド部のジャージを着た男子生徒が二人、座り込んでいるのが見えた。
……何してるんだろう?
通り過ぎざまに二人を見ると、二人はめちゃくちゃ派手な頭をしていた。
派手っていうのは、一人は金髪で、もう一人は赤髪だ。
あー、この二人は……
「えーと、カナくんとユウくんや」
思わず声に出てしまった私を、二人が訝しげに見る。
二人の様子に、私はぎくっとした。
二人はめちゃくちゃ不機嫌そうに地面に座っていた。苛ついた感情があらわで、今にもかみつきそうな顔をして私を見ている。
考えてもみてほしい。いくら年下とはいえ、私より(晴くんよりも!)はるかに大きくて強そうな男子二人が、恐ろしい顔で私を睨んでいる図を! ものすごく怖いです!
私は何も見なかったふりをして、足早にそこを去ろうとした。
すると、突然二人が大きな声を上げた。
「あー! 腹減った! ムカつく!」
「ねーちゃん、なんか食うもん持ってへんか?」
「……え? 私?」
驚いて肩をすくめたまま周囲を見渡す。……うん、今ここにいる『ねーちゃん』は私だけだ。
私に話してるの?
「練習できんかったらひたすら腹減るねん!」
「えーと、えーと、ちょっと待って」
食べ物なんて……と思ったけれど、さっき補習の後、クラスメートが飴をくれたのを思い出した。
私はスカートのポケットを探って、飴を二つ取り出した。
ああ、友よ、ありがとう……! 飴を二つくれて! 一つだけだったら誰かが血を見るところだったよ……!
恐る恐る二人に飴を差し出すと、二人は私の手から勢いよく飴を受け取り、袋を破いてすぐに口に入れ、そして袋を私の手のひらの上に戻した。
……え? ゴミ……
「モノ食っとるんばれたらやばいからな。証拠隠滅のためにねーちゃん、それ捨てといてくれや」
「ええ?」
「そうそう、証拠隠滅」
そう言って赤髪の男子は飴をガリガリかんですぐに飲み込んでしまった。
ええー……
「えーと、なんで体育館の外におるん?」
何だかずいぶん失礼なことをされて恐怖心が薄れてしまったので、まあいいか、と思って二人に尋ねる。
私の質問に、金髪の子が顔をゆがめて頭をガリガリかいた。
「あークッソ! 部長のせいや!」
「え?」
晴くん? 晴くんが二人を体育館の外に出したってこと?
「せっかくおもろい新技考えたのに! それ試しとったら真面目に練習せえ言われて、あとちょっとで新技完成しそうやったから練習の合間に隅っこでやっとったら、今やるべきことやる気ないんなら出てけ言われたんじゃ! あークソ、ハンドやらせろ!」
「つまりはすべてカナのせいじゃ」
……なるほど……
つまり二人を体育館から追い出したとしても、晴くんは何も悪くないというか、むしろ部長としてやるべきことをやっただけってことか……
そしてこの金髪の方がカナくんで、赤髪がユウくんか。
「ユウくんも新技やっとったん?」
「は、俺はこのクソカナに付き合わされただけや。とばっちりっちゅーことやな」
「はー? ユウやってノリノリやったくせに!」
よく分からないけれど、二人は体育館を締め出されてハンドボールができないからふてくされてるってこと? そんなに練習したいのかあ。
「二人ともハンドボールが好きなんやねえ。練習したいってことやろ?」
二人が眉をひそめて私を見る。……え? 何か気に障った?
「そういうおきれいな言葉は好かん」
「練習したいというより、なんもせんかったらひたすら腹減るねん! 動いとれば気が紛れんねんけど」
なんか……わがままというか……小さい子供みたいだなあ、二人とも。見た目はものすごく大きくて大人っぽいのに。と言っても年下か。
二人は突然、何かに気付いたようにはっと目を合わせ、そして同時に私を見た。
うわ、まただ。この、双子ならではなのかどうか分からないけれど、同じタイミングでいきなり同じ動作をするの、すごくびっくりする。
「ねーちゃん……いや、彩さん。あんた、部長の彼女やろ」
「え? えーと、うん」
「頼む、教えてくれ! 部長の弱点を!」
「じゃ、弱点?」
「いや待てカナ、そんなん彩さんに聞いたことがばれた時のリスクを考えた方がええ」
「はー? じゃあどうしろ言うねん! なんとか弱み握って中に入らせてもらうんじゃ!」
「……二人は、練習したいってこと? 体育館に戻る方法を考えてるん?」
弱点を知ったらどうして練習に戻れると思うのかがまずよく分からないけど。余計に晴くんの怒りを買うだけじゃないの?
「なんでもええからさっさと新技完成させてくれ!」
……あ、そっちか。
この調子じゃ、この二人が体育館に戻れるのはまだ先になりそうだな……
それなら、と思って、私は二人の前にしゃがみこんだ。
「ちょっと二人に質問してもええ?」
二人がめんどくさそうに私を見る。
「そういえばねーちゃ……彩さん、俺らのファンやったっけ」
「差し入れくれるんやったら今やで」
「あ、ううん、別に私、君たちのファンやないの。誤解させとるみたいでごめんやけど」
「「はあ~!?」」
二人が同時に声を上げる。
「じゃあ差し入れは?」
「いや、そもそも君たちに差し入れするつもりなくて……どっちにしろ、差し入れ制度はなくなったんやろ? だからまあそれはええやん」
「ち、マジかよ」
「いや待て、きっとこれは部長がなんか手を回して、彩さんから俺らのファンやったって記憶を消し去ってしもたに違いない!」
「さすがやな……部長おそるべし……」
「いくら俺らがイケちらかしとるからってひどい話やで、ほんま」
深刻な顔で話している二人を見ていると、吹き出しそうになる。
駄目だ、この二人の話、やっぱり面白い。私は笑いながら話を続けた。
「それはどうでもええよ。私が聞きたいんは、君たちの部長が部活中にどんな感じなんかって話」
以前私が部活を見学した時は、もうひたすら晴くんが何をしてもかっこいい! としか思わなかったけれど、晴くんは部長としてハンドボール部を引っ張ってるんだよね? それならきっと、部員から見た晴くんって、私が見ている晴くんとはまるで違うんだろうなあ……って思った。だからそれを知りたい。
「部長がどんなんかって? そら一言で言うと鬼やろ」
「お、鬼?」
「マジで鬼やん。涼しい顔してアホみたいな回数の筋トレしろって言うてきたり、負荷かかりすぎのトレーニングやらせっからなー。死ぬほど地味な基礎錬もぶっ壊れた機械かってくらいずーっとやらせっし」
「ま、俺は全然平気やけどな」
「はー? 俺やって汗ひとつかかんと涼しい顔でできるっちゅーねん!」
「常に汗びっちょびちょのくせによう言うわ」
「あれは水ぶっかけて濡らしとるだけじゃ!」
「ちょっと二人とも落ち着いて。ほら、そうやって厳しい練習しとるから、ハンド部は強いんやろ?」
私の言葉に、二人は顔を見合わせてニヤッと笑った。
「当然やろ。俺らがおって強ないわけないし」
「ま、確かに部長もすげーけど。あの人全然ミスせんからなー」
「そうそう。練習やりこんでできるようになったことは、試合でも100%できてまうからな。あれはすげえわ」
「それより戦術やろ! あの人涼しい顔して敵だけやなくて味方も欺くからな!」
「あ、こないだの試合な! びびったやんな、セオリーから外れた指示出すから、焦って部長も間違えたりすんねんなーと思って、まあしゃあないから指示に従ったら、コート内におった全員騙されとったもんな」
「部長がノールックでパスしてきて、受け取ったらもう目の前誰もおらん、ゴールしかない状況やったからな! あれめっちゃ気持ち良かったー!」
「めっちゃええやんな! 俺もあれやりたいからまたやってくれへんかなー」
二人が盛り上がって、自然に晴くんを褒めるので、私は目を丸くした。
こんなに自信家で、自分が一番! みたいな二人が、晴くんを褒めてる!
あんなに晴くんの練習は厳しいってこぼしてるのに……それなのに、ちゃんと晴くんを認めているんだ。やっぱり晴くんは、すごい人なんだ!
私はすごくうれしくなって、胸の前で両手を合わせて、次に二人がどんな話を聞かせてくれるのか目を輝かせて待った。もっと晴くんの話を教えてほしい!




