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きみと私の放課後  作者: はる
晴太郎と彩
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かわいいわがまま・1

 昼休憩の後半に俺は体育館に入った。

 もうすぐ休憩時間も終わるので、部員のほとんどは体育館の中にいる。

 口々に挨拶してくる後輩に応えながら俺は体育館脇に陣取っていた同級生の元へ歩いていった。


「晴太郎どうした? 調子悪いんか? 今日は無理せんと一日休んどった方がええんとちゃうか?」


 俺が今日、午前中の練習を休んでしまったので、チームメイトに余計な心配をかけてしまったようだった。


「いや、もうなんともない。平気や」


「でもお前、なんか顔赤いで。大丈夫なんか?」


「……そうか? ……ここまで急いで来たから、少し熱くなっとるだけやろ」


 俺は頬をごしごしこすった。

 まだ体に熱が残っている。それは確かだった。

 さっきまで、彩と抱き合っていた。めちゃくちゃ高揚して、時間を忘れそうになるくらいだった。その後、何とか自分を取り戻し、高鳴りすぎた心をなだめながら学校まで来たつもりだったけれど……そんなにすぐあの熱が冷めるはずがなかった。


「あのー、部長、大丈夫っすか?」


 おずおずと彼方と悠太が俺のところにやってきた。


「もしかして部長、あれですか。昨日あれから修羅場やったとか……それで今日午前休みやったとか、そういうことですか?」


「おい、お前アホ! そんな直接的な聞き方するか!?」


「はー? 聞け言うたんお前やんけ!」


 お互いに肘でどつきあっている彼方と悠太を前に、俺の気持ちは穏やかだった。

 彩がもしかしたらこの二人のことを気に入ったのかもしれない、と思った時は、もやもやして胸が重苦しく感じたけれど。……でもそれは誤解だと分かった。彩は俺しか見ていなかった。その事実が俺に自信を与えていた。

 俺が沈黙しているので、どつきあいをやめた二人は気まずそうに俺の前に立ったまま目配せしあっている。


「お前らが心配するようなことはなんもない。気にすんな」


「ほ、ほんまですか?」


「ああ、それよりお前ら、朝に監督から聞いたか?」


「は? なにをっすか?」


「差し入れは金輪際すべて禁止になった、いう話や。聞いてへんか?」


「え! まじすか!?」


 大きな声を上げる二人に、周りからお前監督の話なんも聞いてへんかったんか! と声が飛んだ。

 二人は目を見開いて、更に口も大きく開けた。


「えー、まだあのきれいなねーちゃ……彩さんの差し入れもろてへんのに!」


「やば、もしかしてあれちゃうんか、俺らが彩さんの差し入れもらいそうになったから!」


「怒った部長が、彩さんの差し入れどころか差し入れ制度自体を亡きものにしたってことか!?」


「やべー! まじでやべえ! これ、下手したら俺らも亡きものにされるんちゃうか!?」


「あかん! デビューする前に俺らの存在自体が無になってしまう!」


 ……この二人を見ているといつも思うが、よくもまあこんな一つの事象から想像力を広げていつまでもしゃべり続けられるものだ。

 いや、でも、彩もこの二人のやり取りを見て笑っていなかったか?

 ……そう考えると、俺も少し笑わせられるような話力を鍛えた方がいいのかもしれない。

 とりとめもなくそんなことを考えたが、もう休憩時間も終わる。切り替えなければ。


「ほら、すぐ午後練が始まる時間やろ。準備や」


「はいっ!」


 二人は俺に聞こえていないつもりなのだろうか、やべえ、部長敵に回したらマジやべえ、とささやきあいながら午後の練習の準備のために走って行った。

 別に、彩があの二人に差し入れをしようとしたから差し入れ制度をなくしたわけではないのだけど。

 差し入れは、許可してしまうとどんどんエスカレートしていく。手作りが駄目だと言えば、手作りに見えないように見た目をごまかした差し入れを持ってくる。高価なものは駄目だと言っても、貰い物だとか理由をつけて目当ての部員に高価なものを渡そうとする。いちいちそれを指摘して断ったり受け入れたりしていてはきりがない。そんなことに時間を割くような暇はない。だから一切受け取らないことにした。ただそれだけだ。

 でもこの説明は朝に監督がある程度しているはずだし、いちいちそんなことを事細かに説明する必要もないか、と思い、俺は何も言わないことにした。





 部活を終え、片付けや掃除もすべて終えて学校を後にする。

 もう外は真っ暗だ。街灯の明かりだけが道を照らす中、俺は駅へと急ぐ。

 今日の午前は部に出ることができなかったけれど、その分午後の練習はかなり集中することができた。今日やるべきことはすべて終えられたと思う。

 学校の門を出て駅へ向かう途中、彩のことを思い浮かべる。

 ……昼、俺と別れてから、少しは休めただろうか?

 連絡を取れない彩と何とか話をしたくて、彩の家の前でなすすべもなく待っていた。もし近所の人に不審人物のように見られたら、迷惑をかけないようにすぐに立ち去るつもりだったけれど、それより前に彩が家を出てきてくれた。

 彩は憔悴しているように見えた。

 その姿を見て胸が痛んだ。

 ……俺が傷つけてしまったせいだ。きっと彩は昨日帰ってから、ずっと苦しんでいたんだ。

 俺を見て逃げようとした彩を必死で呼び止め、何とか話をするために出てきてもらった。

 俺のせいで辛い思いをさせてしまったのに、それより彩は俺を避けたことで彩自身が俺を傷つけたと思い苦しんでいた。

 そんなに俺のことを気遣ってくれなくていいのに。もっとわがままを言ってくれていいのに。

 お互いの気持ちを明かし、俺たちは和解したが、俺は彩が自分の胸の内を俺にさらけ出してくれたことがうれしくて仕方なかった。

 彩は他人の気持ちを大切にする。他人が苦しまないように、嫌な思いをしないように自分を抑えてしまうような人間だ。

 そんな彩が、俺には自分の苦しい胸の内をすべて打ち明けてくれた。

 以前、俺たちが付き合っていることをまだ秘密にしていた時に、彩がクラスメートの前で俺を避けたことがあった。彩がそのことに自己嫌悪し、俺に別れを告げようとした時もそうだったけれど……

 今回も、俺には自分の辛い気持ちを吐き出してくれた。他人に自分の心の中を見せるのは、きっと勇気がいることなのに、彩は俺にそれをしてくれた。

 彩自身は俺に当たってしまった、と後悔していたけれど、後悔なんてしてほしくなかった。だって俺はその彩の行為が本当にうれしかったから。

 他人に気を遣ってしまう彩が、俺にはこんな風にまっすぐに気持ちをぶつけてくれる。その事実は胸が震えるほどうれしくて、それくらい彩が俺を信頼してくれている証なのだと思った。

 ……そして彩は、俺がもっと驚くことを教えてくれた。

 俺とキスをしたい、と言ったのだ。

 衝撃的だった。そんなにまっすぐに俺を求めてくれるとは思っていなかった。

 彩は恥ずかしがりで、そのような欲求をはっきり口に出せないと思っていた。

 当然俺の方はいつだって彩と触れ合いたい欲求はあったけれど、純粋な彩に無理をさせて、俺に合わせなければ、と思わせるのは嫌だった。

 だからちゃんとタイミングを見計らって、彩が大丈夫だと確信を持てた時にだけ触れ合うことができれば。それで充分だと思っていた。

 それなのに、彩が明かしてくれた胸の内。それは、俺はいつでも彩に近付いていい、触れていい、そして、キスをしたい。

 絶対に彩を汚すわけにはいかない、と思っていたのに、彩も俺と同じように思ってくれていたのなら、それは俺たちの大切な気持ちの交換になる。

 そんな俺たちを止めるものはもう何もなかった。

 俺と彩は抱き合い、何度もキスをした。

 ……今思うと、日中の公園でそんなことをするべきではなかったのかもしれない。誰かに見られていたら。彩をそんな周りの目にさらしたくない。

 一応、認識できる限りではあの公園に俺たち以外に人はいなかったと思うけれど……。夢中になってしまっていたとはいえ、今後は気を付けなければ、と思う。


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