ハンドボール部の見学・4
私たちは公園のベンチに座っていた。
ベンチの広さに比べて、私たちは不自然なくらいくっついて座っていたけれど、でもまだ全然足りなかった。もっとくっつきたい。
「え、差し入れ自体をなくしたん?」
私は驚いて晴くんの顔を見上げた。
「ああ。昨日、あの後、監督やコーチとも話してな。……もともとそういう話はあってん。差し入れは放置しとるとエスカレートしていくからな。だから一応うちでも、生ものや手作りはあかん、とか、個人への差し入れは禁止とかいろいろ決まりは作っとってんけど……でも結局差し入れがあること自体が知れ渡ると、なんとか抜け道を探そうとするもんも出てくるねん。彩に言われて、そういう誤解を周囲の人間に抱かせる可能性がある差し入れ自体なくしたほうがええってなってん」
「……私のせい?」
ちょっとひるんでしまった私を、晴くんが優しく見つめた。
「ちゃうよ。あくまでもきっかけやったってだけや。彩が誤解したように、部長の俺になら差し入れ可能なんかって思われたら、俺経由でなんとか目的の個人に物を渡そうとするようなやつも出てくるからなあ。いろんな面倒ごとを避けるためにもそのほうがええねん」
……そういうことなのか……。晴くんなら、私一人のために差し入れをなくすようなこともしてしまいそうって思っちゃったけど……ちゃんとした理由があって、他の人も納得しているのなら、それで良かったのかな。
「だから、彩があの二人に差し入れするつもりやったんやったら申し訳ないけど」
「え?」
晴くんの言葉の意味が分からなくて首をかしげる。あの二人って?
「彩が話しとったあの双子や」
「あ……あー! あの、カナくんとユウくん、やっけ?」
「ああ、あいつらは彼方と悠太で……お互いにカナ、ユウ、言うとるけど、そう呼びあうんはあいつら二人の間だけや」
そうなのか! カナとユウってあだ名だったのか!
「あいつらは……まあ目立つしかなり人気もあるし……彩が気になるんも当然やけど」
「え、待って、私そんなんなんも思ってへんよ。差し入れがどうとかは、あの二人が勝手に言いだしただけで、私、あの人らにあげるなんて一言も言ってへんし」
「……そうなんか?」
「そら当たり前やん。練習見とる時やって、私、晴くんしか目に入ってへんかった。晴くんのことだけずっと目で追って、なんてかっこいいんやろうって思って……私が見てたん、晴くんだけや。私が差し入れあげるとしたら晴くんしかありえへんやん。なんで他の人なんかにそんなんすると思うの」
「……いや、最初、俺があの場に行った時に彩が気まずそうにしとったから……あいつらのこと気に入ったことが俺にばれるんが気まずかったんかと思って」
晴くんの言葉に私は目を見開いた。
何言ってるの!? そんなことあるわけないのに!
「ちゃうよ! あの時は、その……晴くんが、他の女の子のプレゼント受け取ってたって思って……なんか嫌やなって思ってただけで。やきもち焼いてるん知られたくなくて、晴くんに会わんと帰ろうかなって思ってたから……それでちょっと気まずかっただけやねん」
「そしたら、彩はあの二人のファンになったわけやないんか」
「ちゃうって!」
……あれ? もしかして晴くんのこれも、やきもち?
晴くんは少しホッとしたように笑った。
「良かった、彩が他の男を気に入ったわけちゃうくて」
もう、もう、なんだよ! 馬鹿みたい。
馬鹿みたいだ、私も晴くんも。二人ともやきもち焼いてたの?
でも、違うのは、私はやきもちを焼いてすぐ晴くんに当たってしまったけれど、晴くんは絶対に私に当たったりしない。常に私の気持ちを考えて行動してくれる。
……ああー、やっぱり私は駄目だ……
私は晴くんの肩にぼす、と自分の顔を押し付けた。
「彩?」
「……晴くんの彼氏力は高すぎると思います」
「彼氏力? 初耳やけど、そんな言葉あるんか?」
「今作った。そんで、私の彼女力の低さに愕然としてる。二人とも同じようにやきもち焼いてても、行動が全然違うねんもんなあ……」
晴くんは笑いながら私の肩をそっと抱いた。
「でも俺は、彩がそんな風に感情をぶつけてくれるんがめっちゃうれしい。彩が自分の心をさらけ出して俺に全部見せてくれるんが、ほんまにうれしくてたまらんねん。そういう点では、彩の彼女力は満点やで」
「もう、そういうこと言う!」
結局それで、また晴くんの彼氏力は私を上回っちゃうんだ。晴くんてすごすぎる。私はいつも晴くんのこと考えて、焦ったり悩んだりうれしくなったりして、感情が揺れ動いているのに。
……ちょっとは私、晴くんのこと、慌てさせたりできないかなあ?
そこでふと思いつく。私が心をさらけ出しても、晴くんはえ? って引いたりしないってこと? 全部うれしいって思ってくれるってこと? それなら……
私は顔を上げて晴くんを見つめた。
うわ、ものすごく緊張する。どきどきしすぎて、私、ちゃんと話せるかな。
「彩? どうした?」
「……晴くん、私、晴くんとキスしたい」
「え?」
晴くんが大きく目を見開く。
動揺したように少し体を固くした。
うわー! めっちゃ恥ずかしい!
こんなこと言う!? って思ったりするけど。でも、これ、私の本心……なんだけど……
こんな本心でも大丈夫?
ものすごく恥ずかしくて、顔が熱くって、早く晴くんが答えてくれなきゃ、私はもう走って家に帰ってしまいたいくらい。
そう思った瞬間に、晴くんが体の向きを変えて、両手で私を抱きすくめた。
あ、この全身が晴くんに覆われる感覚。私がものすごく好きな……そこまで考えたところで、晴くんが私にキスをした。
自分で言ったくせに、晴くんの唇が触れた瞬間、私の体は驚いてびくっと反応した。
本当にしてくれた!
熱い晴くんの唇が私を覆っている。脳が沸騰しそうなくらい頭がぐらぐらして、どきどきして胸が苦しい。
でもうれしくて、幸せで、気持ち良くて……
……ほら、だから言ったでしょ?
私はいつでも晴くんに触れてほしいの。体だけじゃない、唇も、心も。私のすべてに。
晴くんの心臓もどくどく鳴っているのが分かる。こんなに熱い晴くんの心に触れて、あまりの幸せに私の心もとろけていく。
私はぎゅうっと晴くんにしがみついた。
ああ、いつまでもこんな風にくっついていたい。
私のそんな気持ちが分かったのか、晴くんは私を強く抱きしめたまま、小さく息継ぎをしながら何度もキスを繰り返した。
午前いっぱい。午後になるまで。晴くんが部活に行かないといけない、ぎりぎりの時間まで。
私たちは回数なんて分からなくなるくらい、ずっとずっとお互いを求め続けた。
そうやっていつまでも、とろけるキスを繰り返した。




