ハンドボール部の見学・3
今日は土曜日。学校は休みだ。
昨日あんなひどい形で晴くんと別れてしまった後、土日の二日間顔を合わせない。私はそのことに少しホッとしていた。
月曜日……どんな顔をして晴くんに会えばいいんだろう。
あんな風に傷つけるようなことを言って、嫌われちゃったかなあ……少なくともいい思いはしてないよね。当然だ。
晴くんからは、あの後何度か電話やメッセージが来たけれど、私は電話に出ることも、メッセージを見ることもできなかった。何を言われるのか考えると怖すぎる。
晴くんが何も悪くないのは明らかだ。それなのにあんな最低な態度を取ってしまって、私のヒステリーに嫌気がさしたとか言われたらどうしよう。晴くんはすごく優しいから、直接そういうことは言わないかもしれないけれど……でも私のことをどう思ったのか、それを知るのが怖い。
後悔しかない中で一晩過ごして気付いたことは、晴くんはもしかして、ハンド部を代表してプレゼントを受け取ってたんじゃないの? ってことだ。
だって、どの女の子もみんなまっすぐに晴くんのところに差し入れを持って行っていた。
あのきゃあきゃあ言われていた双子。あの二人に差し入れを持って行く人はいなかった。
それってちょっと変だよね?
もしかしたら最初から、差し入れは部長の晴くんが代表として受け取る決まりになっていたのかもしれない。
……私は晴くんがプレゼントを受け取っていた、その事実がショックで、そんなことも考えられなかった。
晴くんに何も確認せずに、私一人で思い込んで、晴くんを責めたりして。
どうして私はこう馬鹿でめちゃくちゃなんだろう。
……ちゃんとした彼女になりたかったのにな。
やっぱり私、駄目なのかな。
一人部屋で鬱々しているのが嫌で、私はコンビニに行くことにした。
コンビニで何か甘いものでも買って、あったかいお茶と一緒に食べたら少し気分も良くなるかなあ、と思って。
財布と携帯だけパーカーのポケットに入れて家を出たら、家の前に人影があるのに気付いた。
え、何? 誰?
私がその人をじっと見ると、うちの横の電柱にもたれていた人が体を起こし、私を見た。
「……晴くん?」
……え? どうして晴くんが……
そこではっとする。いやいや待って、私今ものすごく適当な格好! 部屋着丸出しのスウェットにパーカー! 頭もぼさぼさだし。ひえー、こんな格好で晴くんの前に出たくない!
私が慌てて家に入ろうとしたら、晴くんが焦ったように私に声をかけた。
「彩、待ってくれ」
その声があまりに切実に聞こえて、胸がぎゅっと痛くなって私は立ち止まった。
「えっと……え……晴くん?」
恐る恐る晴くんを振り返る。晴くんは部活のジャージ姿だった。……そうだよ、晴くんは土日だって部活があるんじゃないの? どうしてうちの前にいるの?
晴くんはひどく真面目な顔で私を見ていた。
「彩、頼む。少しだけ話したい」
え……嫌だよ。怖い。晴くんに何を言われるのか分からなくて怖い。
でも……晴くんにひどいことをしたのは私なんだ。私は視線を伏せた。
「えっと……二分だけ待ってくれる? 着替えたいから」
「……分かった」
晴くんの話が何であれ、こんな変な格好で晴くんの前に立つのだけはどうしても嫌で、私は家に入って超特急で着替えた。こんなの馬鹿みたいかもしれないけど。でも、晴くんに何を言われたとしても、晴くんの記憶に残る私がちょっとでもまともであってほしいって思って……それだけは譲れなかった。
晴くんと私はゆっくりと歩きながら、うちの近くの公園へ行った。
今日はよく晴れていて陽射しが強い。日焼け止め塗る暇なかったなあ、とぼんやり考える。
いや、そうじゃなくて。
「……晴くん、今日、部活ちゃうん? こんなとこおってええん?」
「部活は、午前は休ませてもらった。だから今彩が出てきてくれて良かった。出てくるんが午後やったら会えへんところやった」
「そんなん……わざわざうちなんて来んくても……」
電話とかメッセージで済ませてくれていいのに。こんな風に顔を見て話されてしまったら、逃げ場がない。
「いや、ちゃんと彩に会って謝りたかってん。嫌な思いさせて悪かった」
「……え?」
どういうこと? どうして晴くんが謝るの? 謝らなくちゃいけないのは、どう考えたって私の方でしょ?
「ごめんな。あの差し入れは、俺個人にされたもんちゃうくて、ハンド部全体にもらったもんやってんけど、そういうん、ちゃんと彩に事前に説明してへんかったやんな。彩が嫌な思いするって考えに及ばんかった。ほんまにごめん」
「え、え、ちゃうよ、それ、私が勝手に勘違いしただけで……晴くんはなんも悪くないやん。なんで謝るの」
「どんな理由があったとしても、彩を傷つけてしまったんは俺やから。俺があかんかってん。彩を傷つけるものから守りたいって思っとった俺自身がお前を傷つけとるねんから、なにやっとんねんって話やんな」
晴くんの話し方は静かだったけれど、その声には後悔がにじんでいた。
違うのに。晴くんは悪くないのに。私が駄目な彼女だから……悪いのは私なのに。
私は自分が情けなくて、苦しくて、我慢しようと思っていたのにこらえきれずにぼろっと涙が零れ落ちた。
「ちゃうよ……私が全部悪いねん。晴くんのこと好きすぎて、ちょっとしたことでやきもち焼いて、もやもやしてる自分が嫌で、晴くんに当たって。なんもかも私があかんねん。ちゃんとした彼女になりたかったのに、全然なられへん。晴くんに嫌な思いさせて、自分のことも追い詰めて……どうしたらええんか分からんねん」
晴くんが私の頬に手を伸ばしかけて、ぴた、と動きを止めた。
「……触ってもええか?」
その言葉でまた涙がぶわっと出てきた。私のせいだ。私が触らないでって言ったから、晴くんはためらってる。そんな風に私がさせてしまった。
私はぎゅっと晴くんの手を握って、そして自分の顔に押し当てた。
「ごめん、晴くん。許可なんていらんの。晴くんはいつでも私に触ってええの。触ってほしいねん。私だって晴くんに触りたい。私が晴くんに来んといてとか触らんといてって言うん、全部嘘やから。真逆やから。ほんまはいつも、ずっと、近くにいてほしくて、触ってほしくてたまらんねん。こんな、言ってることと思ってること真逆で…めちゃくちゃな彼女でごめん。迷惑ばっかりかけてる彼女でごめんなさい」
晴くんはゆっくりと私の頬をなでてから、腕を私の背中に回し、ぎゅっと抱きしめた。
「彩は、ほんまにちゃんとした、ええ彼女やで。俺にとって彩以上の彼女なんておらへん。こんなに俺のことを想ってくれて、俺自身もしっかりした人間になろうって思わせてくれるんは彩だけや。だからそんな風に自分のこと言わんといてくれ。お前が自分をそんなに悪く思っとったら、俺が哀しいやんか。俺のためにももっと自信を持ってくれ」
晴くんの、ために……
晴くんはどうしてそこまで私のことを考えてくれるの? 私をよく思ってくれるの? 私なんかよりずっと私のことを信じてくれるの?
晴くんのために、もっとしっかりした人間になりたい。自分に自信を持ちたい。晴くんを傷つけることのない、強い心を持ちたい。




