落ちこぼれ仲間
終学活が終わり、教室内はざわめいていた。
さっさと帰る生徒、部活へ向かう生徒、友達とおしゃべりしていたり、どこに寄り道していくか相談している子もいる。
私は部活へ向かう晴くんと話していた。
「彩はこの後どうするん?」
バッグに筆記用具を片付けながら晴くんが私に尋ねる。
「実は今日も補習で……」
「補習?」
「うん。英語の小テストやったやん。あれが全然あかんくて……。だから今日も、補習が終わったら図書室行って晴くんが部活終わるん待ってるね」
あ、と私は口を押さえた。私が晴くん、と呼ぶのは二人きりでいる時だけのはずだったのに。今は教室の中にいて、周りにはまだクラスメートがいっぱいいるのに。つい二人でおしゃべりしていて気が抜けてしまった。
……でも、周りはざわざわしているし……誰も聞いてないよね?
私の反応を見て、晴くんは優しい表情になった。
「……あんまり無理せんと。疲れて早く帰りたくなったら俺を待たんで帰ってええから」
「大丈夫! だって一緒に帰りたいもん。だから絶対待ってる!」
私たちが話していると、丸めたノートで肩をぽんぽん叩きながら佐野くんがやってきた。
「ほら花ちゃん、補習補習! 瀬戸はさっさと部活行けやー」
「佐野くん」
佐野くんは私の机に両手をついて私たちの方に体を乗り出した。
「あーあ、毎日補習ばっかりでたまらんよなー。補習なんかやったって、余計にその科目嫌になるだけやんな」
「まあ、嫌になるっていうか……補習したからってすぐ分かるようになるわけちゃうから、苦痛な時間ばっかり過ごしてると言えばそうやけど」
「この辛くてたまらん俺らの気持ちなんか、瀬戸には分からんよな」
佐野くんがちらっと晴くんを見る。
えー、何その嫌味っぽい言い方。
確かに晴くんはめちゃくちゃ頭が良くて成績も学年でトップクラスだし、私たちみたいに補習を受けることなんてないけど。
でもそれは晴くんだって毎日ちゃんと勉強を頑張っているからなのに。
そんな晴くんのことを、馬鹿な自分たちの気持ちが分からないなんて言ったりする!?
「佐野くん、変なこと言わんといてよ。瀬戸くんやってなんもせんと優秀なわけちゃうくて、ちゃんと努力してるねんから。うちらはただ瀬戸くんほど努力できてへんってだけやん」
「へいへい。瀬戸はええよなー。なんもせんくてもこうやって彼女がかばってくれるねんから」
「佐野くん!」
晴くんがそっと私の肩に手を置いて、佐野くんをまっすぐに見た。
「人には向き不向きがあるから、勉強が苦手な人間がいれば得意な人間もおる。他のことにしたってそうや。俺はたまたま勉強は得意な方かもしれんけど、だからと言って苦手な人間を馬鹿にしたりせんし、その人にも俺より優れた面がたくさんあることを知っとる。俺に佐野の気持ちは分からんかもしれんけど、佐野やって俺の気持ちは分からんやろう。他人やねんから当たり前や。そんなことわざわざ言わんくても分かっとる」
私はじっと晴くんを見つめた。
そうだ、私はめちゃくちゃ勉強が苦手だけれど、晴くんはそんな私を絶対に馬鹿にしたりなんかしない。それより、苦手なことにも必死で取り組んでいる姿をいつも褒めてくれている。だから私は、勉強ができないことにすごく劣等感を持っていたけれど、晴くんのおかげで少しその劣等感が薄れたんだ。
「それから花房さん、俺をかばってくれてありがとう。花房さんもめっちゃ努力しとるん知っとるし。たとえ今は成果に結びついとらんくても、その努力し続けられる姿勢が花房さんのええところやと思う」
「え」
突然褒めらたことに驚いて私は目を見開いた。
いや、そんな、人前で褒められると、めちゃくちゃうれしいけれど恥ずかしくてどうしたらいいか分からなくなる。
私が動揺して慌てていると、佐野くんはつまらなさそうに舌打ちして自分の席に戻っていった。
「あーあ、こんなとこでいちゃつかれたらたまったもんちゃうな!」
大きな声で独り言なのか何なのか分からないことを言っている。
いちゃついては……いないけど……
「俺はもう部活に行かなあかんから。補習頑張ってな」
晴くんが優しい目で私を見つめる。
うれしさで手をつなぎたくなったけれど、教室内でそれは恥ずかしすぎてできないので、代わりに私は満面の笑みを晴くんに向けた。
「うん。頑張る。瀬戸くんも部活頑張って」
「うん」
晴くんに褒めてもらえたので、よし、補習を頑張ってさっさと図書室に行って晴くんを待とう! と強く決意した。
佐野くんは苛ついたように英語の教科書を机の中から取りだし、バン! と音を立てて机に叩きつけた。
……あー、そういえば佐野くんは各教科の中で一番英語が苦手だって言ってたっけ……。その英語を授業が終わった後もやらなくちゃいけないから、イライラして気が立ってたのかなあ?




