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きみと私の放課後  作者: はる
晴太郎と彩
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補習の時間

 私は目の前のプリントに書かれた数学の問題を前にして、眉間にしわを寄せて考え込んでいた。

 この小難しい文章題……まったく意味の分からない文章。問題を解かせたいのなら、どうしてもっと解く気になるような分かりやすい文章にしてくれないんだろう? と思いつつ、でもこの意味不明な文章を以前見たことがある、と必死で思い出そうとする。

 そう、晴くんがこの問題の解き方を教えてくれた! あの瞬間は、私にも解ける! って思ったはず。確か晴くんは、教科書に載ってる解き方よりも簡単なやり方があるって教えてくれて……その時は、あ、ほんとだー! と感動したんだ。……でもその解き方を覚えていない。

 えーとえーと、どうするんだったっけ……? まず最初にすることは……何だったっけ……?

 私が頭を抱えてぐぬぬぬぬ、と悩んでいると、斜め後ろに座っていた佐野くんが早々に降参した。


「あーもう無理! 絶対解けるわけない! 分からん!」


 ……うん、それには同意するしかない。どうしても解き方を思い出せない。せっかく晴くんが教えてくれたのに……


「なあ、花ちゃんできた?」


「んー、あかんわ。無理。分からへん」


 私の隣に座っていた茜も同じように肩をすくめた。


「先生も、教えた問題を教えた通りに解いてもらいたいんやったら、確認テストの中の数字も同じにしてくれな分からんよね」


「確かに!」


 周囲にいる生徒がみんな同じようにため息をついた。


 今は補習の最中だった。先生が試験問題の解き方を解説し、私たちは先生に配られた確認テストのプリントの問題を解く。80点以上取れば終了。

 ……が、どう考えても80点も取れる感触がない。

 先生は私たちにプリントを配って、そのまま教室を出て行ってしまった。後は自分たちで何とかしなさい、ってことかな。

 あー、厳しいなあ……まあ、どれだけ補習に時間がかかったって、私は補習が終わった後、図書室に行って晴くんの部活が終わるのを待つから、終わるのが遅くなること自体はかまわない。

 かまわないけど、いつまでもこのわけの分からない問題を目の前にしていたくない!

 で、私たちは自然と周りの生徒と相談し合ってみんなで問題を解くことになるのだ。これって、間違える時はみんな一緒に間違えるので、合格も不合格も全員道連れなんだけどね。

 私たちはそれぞれ解けた問題を写しあった。ほぼ補習の意味なし……


 私が必死で解けなかった問題の解答を写していると、佐野くんがシャーペンの蓋の部分で私の腕をつんつん、とつついた。


「なあ花ちゃん、まだ怒っとる?」


 佐野くんは、晴くんと私が付き合ってるって分かった時に、私にセクハラ発言をしてきた男子だ。

 あの発言自体は許せるものじゃないけど、それをいつまでも引きずってる方が私は嫌だった。


「怒ってへんから、いちいち蒸し返さんといて。もう二度とあんなん考えんで、そんで口に出さんかったら瀬戸くんも許してくれるんちゃう?」


「いや、まじであん時の瀬戸怖かったからな!」


 佐野くんが両腕で自分の腕をつかんで大げさに震えて見せた。


「ね、瀬戸くんめっちゃ彩にはまっとるねんね! びっくりしたー」


 茜が私の背中をバシバシ叩く。茜はいつもスキンシップが激しめだ。


「ほんまにな。なあ花ちゃん、花ちゃんは瀬戸のどこがええわけ?」


「え?」


「だってあの瀬戸やで! 俺らと全然ちゃうやん! 話とか合う気せんし、花ちゃんはなんで瀬戸と付き合おうと思ったん?」


 なんで……かあ。

 確かに私も、晴くんと話すようになるまでは、同じように思ってたかも。何考えてるか分からないし、すごく頭が良くて冷静で落ち着いてるから、私みたいな頭悪くて浮ついてるような人間のことは冷めた目で見てるのかなって思ってた。

 でも実際は全然違っていた。

 落ち着いてるように見えて、慌てちゃったりすることもあるし、すごく私のこと、情熱的に好きって言ってくれるし……心から私を大切にして、必死で守ろうとしてくれる。晴くんのことを知れば知るほど好きにならずにはいられない。そんな人だと思ってる。

 うーん、でも、具体的にどこが好き? って聞かれると……


「ほら、またあんたは! 瀬戸くんにあれだけ言われたん忘れたん?」


 茜が今度は佐野くんの肩をたたく。佐野くんは肩をすくめた。


「そんなん言うたって、これは花ちゃんに聞かな分からんやん」


「うーん……なんやろ……そういう風に聞かれても……優しいから、とか?」


「そしたら、そんなん俺も優しいやん!」


 佐野くんが自分を指さして言う。言った途端、周りからどこがや! とツッコミが飛び交った。


「まあ別に佐野くんも優しい時はあると思うよ。でもそう言うんちゃうくて……うーんと、それが瀬戸くんやから……とか?」


 私は頭の中で考えながら答えた。


「瀬戸やから、って?」


「例えば、瀬戸くん、今言ったみたいにものすごい優しいねん。そういうところ、めっちゃええなって思うけど……だからって優しかったら他の人でもええわけちゃうし。佐野くんに優しくしてもらったとしても、ありがとね! って思って終了やけど、瀬戸くんに優しくしてもらったら、うわあ、ありがとー! って思って、ぶわーってうれしくなって、めっちゃあったかい気持ちになって、ときめくっていうか……朝会って挨拶したり、教室ですれ違ったり、目が合ったりした時、他の人はなんも思わへんけど、瀬戸くんとそれしたらドキドキすんの。だから理由は、瀬戸くんやから、っていうのしかないかなあって……」


 ……ん? ものすごく考えながら、頭に浮かんだことを話してたけど……もしかして私、かなり恥ずかしいこと言ってる!?

 茜ががば、と私に抱きついてきた。


「おおー! ええやんええやん! やっと彩と恋バナできるようになったかー! 彩はいっつもそういう話に乗ってこおへんし、はよ彩と恋バナできるようになりたかってんよね! 夢がかなったわ!」


「いや、えーと……今聞いた話はここだけの話にしてもらって……ちょっと恥ずかしいから」


 私たちがわちゃわちゃしていると、数学の先生が怒りの表情でバン! と教室のドアを開けた。

 その瞬間、盛り上がっていた教室に静寂が訪れる。

 ……やば。サボってるのがばれた……

 その後の私たちは、相変わらず分からない数学のプリントを前に、先生に監視されながら、相談しあうこともできずに地獄のような時間を過ごすことになった。


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