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きみと私の放課後  作者: はる
晴太郎と彩
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17/104

翌朝の晴太郎

 朝練を終え、着替えを済ませて教室へ向かう。

 チャイムが鳴るまであと三分。あまり時間ギリギリに行動するのは好きではないけれど、今日は片付けに少し時間を取られてしまったので仕方ない。

 教室に入り、窓際の席に目をやる。

 少し眠そうに窓の外をぼんやりと眺めている彩の姿が目に入った。

 彩は朝が苦手で、いつも登校時間がギリギリになる、という話をしていた。彩の家は学校から少し離れた場所にあり、毎日バスと電車を乗り継いで登校しているようなので、朝が苦手なのに毎日早起きをしなければならないのはきっと大変なのだろう。

 でも毎日ちゃんと、遅刻することなく登校している。

 彩は昨日体調不良で倒れてしまい、家に帰すのも遅くなっていたから心配していたけれど、ちゃんと学校に来ている。

 今日も朝一番から彩の姿を目にすることができて、それだけで心が明るい光で照らされたような気がした。

 教室に入った俺は、自分の席の方へ向かう。俺の席も窓際にあるので、彩の方へ向かっている、とも言える。

 彩の席の三つ後ろが俺の席だった。

 前方の扉から教室に入り、窓際まで歩いていく。窓が開いているので、外からの風が入って来るのを感じながら、俺は規則正しく並んだ机の間を縫って彩の席までやってきた。

 そこで少しスピードを緩める。

 俺が教室に入ってきたことに気付いた彩は、もう視線を俺の方へ向けていた。


「おはよう、花房さん」


 彩の席の前で一瞬立ち止まり、俺は彩に声をかけた。

 彩は、最初少しはにかんで、それからにっこりと俺に笑顔を向けた。


「おはよう瀬戸くん」


 昨日までは少し遠慮がちな笑顔だったのに、今日は思い切り笑ってくれている。その笑顔を見ると、胸がぎゅっと痛んで、そして何だか分からないような叫びだしたいような喜びが俺を満たした。

 俺も彩に笑顔を返し、すぐに自分の席の方へ歩く。

 ……すると、彩の後ろの席の同級生が、俺たちの様子を見ていたのか、彩に声をかけた。


「……え、なに今の? 瀬戸くん、めっちゃ笑ってへんかった!? 彩ちゃん、今のなに? 二人、なんかあんの?」


 声をかけられた彩はえ? と同級生の方を振り返り、そして一瞬俺に視線を走らせた後、また同級生に向き合った。


「えーと……まあ、ほら、いろいろあるやん?」


 言葉を濁し、同級生の言葉を肯定も否定せず、彩はまた前を向いた。

 それを見て、彩は昨日自分が言っていた言葉を本当にしようとしている。

 そう俺は理解した。





 昨日の帰り道、彩は俺のことを好きだと言ってくれた。そして、俺たちのことを秘密にしなくてもいい、とまで言った。

 彩がいろいろと考えた末に、俺たちのことを周囲に知られたくないと考えているのであれば、二人の関係を秘密にすることに異論はなかった。

 彩は俺のものなのだと周囲に言いふらしたい気持ちはもちろんないことはなかったが、同時に彩のことを周囲の目から隠してしまいたいという馬鹿げた思いも俺は持っていたから。

 俺は学校内で委員として活動していたり、部活の部長をしていたりなど、どうしても周囲の目に留まることが多い。俺と彩の関係を知られることにより、彩にまで周囲の目が集まり、根拠のない噂や偏見にさらされるようなことは絶対に避けたいという思いがあった。もちろんどのような事態からも彩を守る決意はしているが、不要に彩を傷つけたくないと思っていた。

 彩には、今までと変わらず学校生活を楽しく過ごして笑っていてほしい。

 彩自身はなぜか俺の成績のみに焦点を当て、自分は俺にふさわしくない、と思い込んでいるようだったが、俺からするとまるで逆だった。

 彩は試験の成績は良くなかったとしても、学校の中で友人も多く、どの行事にも一生懸命取り組み、他人の気持ちを考えることができる、人としての素晴らしさを持っている。俺なんかよりずっと。

 すぐ合理的に物事を進めようと考えてしまう俺よりもよほど人間として大切なものを持っているし、むしろ俺の方が彩にふさわしくないのではないか、と思うことも少なくない。

 だから俺は、彩の気持ちだけは何よりも優先して考えたい。

 そんな彩が、いろいろと悩み考えた末に俺たちのことを秘密にしなくてもいい、と心に決めた。

 大々的にみんなの前で俺たちが付き合っている、と言うことは恥ずかしくてできないけれど、日々学校内で過ごす中で、まるで無関係を装うのではなく、あくまでも自然に行動して、付き合っていることが知られるくらいなら構わない、と。

 そしてその言葉通り、今日彩は、俺に対してちゃんと親しげな笑顔を見せてくれた。

 ただ俺のことを好きだと言ってくれただけでも、人生最大と言って過言ではないほどの喜びがあったのに……もうそれ以上望むことなど何もなかったのに。

 恥ずかしかったり、いろんな思いが彩の中であるはずなのに、それでも他人の目に触れる場所でこうやって俺に笑いかけてくれた。

 表情にはあまり出さないようにしたが、うれしくてたまらない気持ちで俺は席に着いた。


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