告白返し・4
「……瀬戸くん、お願い、教えて」
私はすがるように、瀬戸くんの袖を引いた。
「え?」
「どうしたらうちら、別れんくてすむん?」
「彩?」
「私、やっぱり別れたくないよ。瀬戸くんと一緒にいたい。でも……どうしたらええん? どうしたら私は強くなれるん? どうしたら自信が持てるん? どうしたら瀬戸くんの彼女ですって、堂々としていられるん?」
こんなことはきっと自分で考えなくちゃいけないことで……瀬戸くんに聞くようなことじゃないんだろうけど。
でも私には分からないから。瀬戸くんを傷つけたくないよ。瀬戸くんの隣にいても恥ずかしくない人間になりたいよ。どうしたらそんな風になれるの?
瀬戸くんはゆっくりと歩きながら、隣にいる私の顔を見つめていた。恥ずかしかったけれど、ちらっと瀬戸くんの方を見ると……瀬戸くんは、優しいだけじゃない、慈しむようなまなざしを私に向けているように見えて……そんな目で見てもらえることがうれしくてたまらない。私はうれしくて、でも苦しくて、ズキズキと痛む胸をぎゅっと手で押さえた。でももう目をそらしたくない。このときめきを失いたくない。
「彩がそんな風に思ってくれてめっちゃうれしい。ありがとう」
瀬戸くんの声は、いつもと同じ落ち着いた口調なのに……。それなのに、気持ちが入ると、こんなに声って変わるんだ。声で、瀬戸くんがうれしくてたまらないことが伝わってくる。
「そうやなあ。彩が自信を持てたらええってことか?」
「う、うん」
「それはなんに対する自信や? 俺が彩を好きな気持ちが揺るがんと分かればええんか? それとも彩自身が俺を好きやと確信が持てればええんか?」
「え……」
それは……えーと……何だろう……
私に必要な自信は、何?
他の人に知られたら……もし瀬戸くんにがっかりされたら……もしいじめられたら……もし別れてしまったら……
「えーと……えーと……両方……?」
どの心配も、二人の気持ちがしっかりと固まっていれば……乗り越えられそう?
それがはっきりしないから私はぐらぐらゆれて、自信がなくなっちゃってたのかな……
でもさっき、瀬戸くんはしっかりと私の好きなところを説明してくれた。私はようやくそうだったのか、と思った。私が普通に過ごしている姿を見て瀬戸くんは好きになってくれたんだ。それって……それって、ものすごくうれしい。私が無理をしなくても、瀬戸くんは私のいいところを見つけてくれるんだって思ったから。そして、そんな瀬戸くんの気持ちを知って、私もさらに瀬戸くんのことを好きになった。もう、めちゃくちゃ、たまらないくらい好きって思った。
……あれ、もしかして、もう問題って解決してる……?
「両方か。そしたらまずは、俺が彩のことをめっちゃ好きやってことを日々表明し続けたら、彩は俺を信じられるようになるか?」
瀬戸くんが私の顔を覗き込む。
顔が近くてびっくりして、かあっと頭に血が上った。
「え、いや、あの、もう充分分かったから……」
「それでも、彩も自信を持たなあかんのやろ? ということは、彩が自信を持てるくらい、俺がもっと彩のことを好きやって伝え続けなあかんよな」
ひえー! ちょっと待って、それはむずがゆすぎて無理……!
「ま、待って、やっぱりもう分かった。その辺は大丈夫そう。自信は、えっと、大丈夫」
私は両手を体の前に出して、動揺しすぎている自分の顔をあんまり見られないようにガードした。
「そうしたら? 俺らが別れんですむにはあとはどうしたらええ? なにが障壁や?」
「あの、よく考えたら、障壁はもうなかった。だから別れへん。私、瀬戸くんとずっと付き合っていたい。その……私、瀬戸くんのこと、好きやから」
あれ? そういえば、元々は私、これを言いたかったんだ。
めちゃくちゃ遠回りしたなあ……
でもやっと言えた!
ただ『好き』を与えてもらうだけじゃなく、私も瀬戸くんに『好き』を返したかった。それがようやくできた。
ん? いや、そういえばその前に私、ぶちまけるみたいに瀬戸くんに好きって言ってたよね……?
ええー、何だよそれ……
さんざんどうやって告白しようか考えてたのに、結局そんなイレギュラーな状態で告白しちゃってたのか……
瀬戸くんは、私の背中に添えていた手のひらを、そっと私のこめかみに当て、そしてゆっくりとなでてくれた。
「ありがとう。ほんまに、めっちゃうれしい。彩の体調のこと考えへんかったら、このまま遠回りしまくって永遠に彩の家に着かんでええくらい一緒にいたい。彩が自分の言いにくい気持ちを話してくれたんもうれしいし、なにもかもがうれしい」
「あの……私の恥ずかしいぶっちゃけ話は……忘れてもらってええから……」
「なんで。あんなうれしい言葉ないのに。絶対、一生忘れへん。それくらいうれしかった」
やっぱり瀬戸くんはめちゃくちゃ甘いな……
ものすごく恥ずかしくて、むずがゆくて、そして全身があたたかい何かに包まれたみたいに心地良くなっていく。
何か……何か私も瀬戸くんに返したい。
こんなにうれしくて幸せな気持ちをくれた瀬戸くんに、私が返せること……
「あの……あの、晴くん」
私は瀬戸くんを呼んだ。二人でいる時だけしていい、特別な呼び方で。
「うん?」
瀬戸くんが変わらず優しいまなざしで私を見る。
私は手で小さくおいでおいでをした。
「あのね、ちょっとコソコソ話」
瀬戸くんが首をかしげながら、私に顔を近付ける。
私は思い切って、えいやっと勢いをつけて、瀬戸くんの頬にキスをした。
めっちゃ、めっちゃ恥ずかしいけど!
でも周り、もう暗いし……よく見えないし。あと少しで駅についてしまうから、こんなこと、今しかできない。
あんまりにも瀬戸くんが好きすぎて、うずうずして我慢できなくなって、その私の気持ちを伝えたくて、思い切ってキスをしてしまった。
少しひんやりしている瀬戸くんの頬を、私の唇は感じとった。
瀬戸くんは大きく目を見開いた。
びっくりしすぎて声をなくしたのか、何も言わずに私をじっと見つめている。
え、あれ、瀬戸くん、嫌だったり……しないよね!?
今までのこと考えたら、私がキスして、嫌だなんて思ったりしないよね?
それともいきなりすぎた? そういうの、女の子からするべきじゃないとか思ったりする?
瀬戸くんが何も言ってくれないので私は焦ってしまった。
「あ……ごめん、その……お、思わずっていうか」
私がそこまで言った時、瀬戸くんがさっと私を抱き寄せた。
私の荷物を持っていたので、片手で私の背を抱いて近付き、そして私にキスをした。
「……!」
少し強引な動きだったのに、私に触れる唇はやっぱり優しかった。
瀬戸くんと私の唇が触れ合った瞬間、体が爆発しちゃうんじゃないかってくらいかっと熱くなった。でも、燃えちゃいそうなくらい熱いのに、それは確かな喜びの感情で……そのまま時が止まったのかと思った。それくらい、長く感じる一瞬だった。
ゆっくりと唇を離した瀬戸くんは、そのまま私を抱きしめた。そしてささやくように私の耳元で話した。
「……すまん、我慢できんかった。でも言い訳させてくれ。こんな風に彩に近付かれて、平静を保っていられる人間なんてこの世におらへんねん」
耳に響く優しい声に、胸がいっぱいになってたまらなくなる。走り出したいくらいうわーって思うのに、でも瀬戸くんと離れたくなかった。
「……謝らんといて。私が先にしたんやん。私、うれしかったし……」
どきんどきんどきん。めちゃくちゃ心臓が激しく鳴っている。絶対これ、瀬戸くんにも聞こえてしまう……!
でも、いや、この心臓の激しい動き。これはもしかして、密着している瀬戸くんのもの?
「もしかして、晴くんもどきどきしてる?」
「そら当たり前やろ。こんな……これだけ彩と近付いて、もう頭がおかしくなりそうなくらいどきどきしとる」
そうなんだ! 瀬戸くんもどきどきするんだ。
私だけじゃないんだ。
うれしくてすごく幸せな気分になって、私も瀬戸くんの体にぎゅっとしがみついた。
瀬戸くんの体は私より熱くて、大きかった。私の体を抱く優しくて圧倒的な温かさを知って、世の中にこんな場所があったなんて、と感動してしまった。
すごく恥ずかしいけど……でも、それよりももっと近付きたい気持ちの方が勝っていた。こんな風に瀬戸くんと抱き合っている。私たちの気持ちがやっと一つになったような気がした。
「ね、晴くん。私、晴くんが好きや。ほんまに好き。私のこと、好きになってくれてありがとう」
「それは全部俺のセリフや。俺の、彩のことをめちゃくちゃ好きな気持ちを受け入れてくれてありがとう」
二人でお礼を言い合うなんておかしな私たちだ。でもそんな私たちでいることがすごくうれしかった。
あたたかい気持ちと、どきどきしてはち切れそうな気持ちと一緒に、こうやって瀬戸くんにしっかりと抱きしめられている安心感が私を満たしていた。
もしかしたら私、強くなれるかもしれない。
こんな風に強くお互いのことを好きだって揺るぎなく思えているのなら……それなら、他の人に対しても、私はこの人の恋人なんだと自信を持ってはっきり言えるような気がした。
瀬戸くんがそう思わせてくれた。




