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きみと私の放課後  作者: はる
晴太郎と彩
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告白返し・2

 瀬戸くんが口を開く。

 それを私は何か恐ろしいことを通告される罪人みたいな気持ちで聞いていた。


「……彩が言いたいことは分かった。俺らの関係がどうあれ、気持ちがどうあれ、今現在、俺は彩を一人で帰す気はない。彩が嫌なら近くには寄らんようにするから、無事家に入るまではきっちり見届けさせてくれ。そうでないと俺の気が済まへん。だからバッグは今ここでは渡さへん。彩が家に入る前になったら渡す。それまではあかん」


「え……」


 私は顔を上げて瀬戸くんの顔を見た。

 瀬戸くん。怒ってないの? こんなに私、めちゃくちゃなこと言ってるのに。めちゃくちゃなことしてるのに。

 瀬戸くんの表情をうかがう。怒っている……風ではないけれど……でも、哀しそうな目をしていた。

 いや、そんなの当たり前じゃない。こんなに私のことを想ってくれていたのに……私はその瀬戸くんの手をはねのけただけじゃなく、そのことによる罪悪感で、別れるって突っぱねまでして。

 ひどいにもほどがある。

 でも、ごめん。私はこんな子なんだ。

 瀬戸くんも思ったでしょう? こんなにひどい子だったんだって。私はやっぱり、瀬戸くんの隣に立てるような子じゃないんだ。それがはっきり分かったよね。

 まだ傷が浅いうちにそのことに気付けて、きっと良かったんだ。


「行こう。あんまり近付かんようにするから。彩が嫌がることはせんから」


 表情とは裏腹に、普段と変わらない口調で私を促す瀬戸くんに動揺する。


「え……あ、違う。そんなん……ただ私にそんな資格がないってだけで。瀬戸くんが嫌なんちゃうねん。近付かれたら嫌やとか、そんなん思ってるわけちゃうくて」


 私はめちゃくちゃしどろもどろになった。

 これだけ私がひどいことをしていても、瀬戸くんの態度は一貫している。

 ただ私の体が心配だから、家に送っていく。最初から言うことは変わっていない。

 歩きかけた瀬戸くんは立ち止まって、私の方を振り返った。


「……ゆっくり歩いていこう。そんで、もしその中で彩の気持ちが落ち着いて、なんで別れようって思ったんか、話す気になったら教えてほしい。もちろんそんなすぐに話す気にならんかったら、今日じゃなくてもええし。時間かかってもええから、いつになってもええから、彩の気持ちを教えてもらえたらうれしい」


「……」


 そんなの……

 私、どうしたらいい?

 どうして瀬戸くんはそんなに優しいの?

 分かんないよ。

 どうして瀬戸くんが私を好きでいてくれるのか、どうして私がこんなに自分のことしか考えられない最低な人間なのか、どうして逃げようとする私を……そんな私のことまで、瀬戸くんが受け入れてくれようとしているのか……

 心臓がバクバクいってる。頭に血が上って、胸が苦しくてたまらない。

 突っ立ったままの私の目から、ぼろっと涙が零れ落ちた。

 うわ、更に最低だ、私。

 なんで泣くの。

 泣いたら瀬戸くんが困る。こんなに優しい瀬戸くんを困らせちゃいけない。泣いて全部許されるなんて思うんじゃない。涙を武器になんてしたくない。

 でもそんな思いとは裏腹に、私の目からはぼろぼろと涙が落ちて止まらなかった。

 そんな私を見て瀬戸くんが息を飲む。


「ご、ごめん、ちゃうねん、これは……気にせんといて、別に意味があって泣いてるんちゃうくて」


 瀬戸くんは呆然とした様子で私のことを見ていたけれど、はっと我に返って自分のバッグのジッパーを開け、タオルを取り出した。


「これ、部活用に多めに持って来とったやつで、使ってへんくてきれいやから。だからこれ使って」


 差し出されたタオルを受け取り、私はタオルをぎゅっとまぶたに押し付けた。

 ……駄目だ、こんな時まで瀬戸くんは優しい。駄目だよ……これじゃあ、好きな気持ちが止められなくなってしまう。


「……瀬戸くん、ごめん」


 もうわけが分からない。私の中にあるいろんな気持ち。

 瀬戸くんにすべて晒して懺悔するなら、今しかないのかもしれない。取り繕う必要がない、全部壊してしまった今しか。


「うん?」


「私……瀬戸くんのことめっちゃ好き。好きになってもた。でも、好きやのに……ここまで自分が瀬戸くんにふさわしくない人間やと分かっとらんくて……ごめん。ほんまごめん。でもどうしたらええんか分からへんねん。私、どうしたらええん?」


 こんなにまっすぐな瀬戸くんと同じくらい自分もまっすぐになりたい。そう思っているのに、現実の私は逃げてばっかりだ。私も瀬戸くんにまっすぐ向かっていけるだけの強さが欲しいのに。


「……彩」


 瀬戸くんの声が少しかすれている。

 タオルで自分の目元を押さえている私に瀬戸くんの表情は見えなかった。

 この静かな夜の中、私たち二人しか存在していないような気がして……他の誰にも知られることがないのであれば、私の気持ちの奥底を打ち明けてしまう機会は今しかないと思った。

 自分の声が震えているのが分かる。でも私は一気に話した。


「私、自信ないねん。瀬戸くんが私のこと好きになってくれてめっちゃうれしいのに、どうしてそんなに想ってもらえるんか分からんくて不安やねん。すぐに嫌われてしまったらどうしようって考えてまう。周りの目も怖い。なんで私みたいな落ちこぼれが瀬戸くんと付き合えるん? って目で見られるんが怖い。さげすまれるのが怖い。だから予防線張って、付き合ってること周りには秘密にして、もし別れてしまっても誰にもばれへんようにしたいって思ってた。全部自分が傷つきたくないから、自分のことだけ守ろうとしてた。瀬戸くんがこんなに私のこと大切にしてくれとるのに、うれしいのに、裏切られた時の心の準備ばっかりして、まっすぐな瀬戸くんの気持ちを正面から受け止められへんかった。

 私がわがまま言って瀬戸くんと一緒に帰ってるのに……それやのに、クラスの子が現れたらすぐに瀬戸くんの手振り払って離れたりして。瀬戸くんに対してひどいことしかしてへん。それやのになんでまだ優しくしてくれるん? そんなん、期待してしまうやん。もしかしたら瀬戸くんは、私のことあきれたり嫌いになったりせんのかもしれへんって期待してしまうやん。そんな期待させんといて。別れる時もっと辛くなるだけやん。これ以上好きにさせんといて。今より瀬戸くんのこと好きになってしまったら……そしたら私、瀬戸くんを失ってしまった時、もう立ち直られへんくなるやん」


 何だよこれ、私の奥底にあった気持ちって……これじゃ、瀬戸くんに当たり散らしてるだけじゃないの。本当に私はめちゃくちゃだ。

 私はタオルで顔全体を覆った。今の自分がみっともなさすぎて顔を見られるのが嫌だった。

 瀬戸くんはどう思っただろう。いきなりこんなヒステリーみたいに全部ぶちまけられて、ぎょっとしたかな。

 いや……でももういいや。

 どうせ私たちは駄目になってしまうんだ。

 今までの関係なんてなかったことになるんだから……だからもう何でもいいや。


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