めまい
瀬戸くんのことを考えすぎて、あまりよく眠れなかったせいなのか、翌日の私は眠すぎてフラフラしていた。それに何だか熱っぽいような……。いや、これは眠すぎるせい?
どっちか分からないけれどとにかく眠い。でも、瀬戸くんに会える、って思うと、学校に行かないわけにはいかない。それに今日のお昼は一緒にお弁当を食べる予定だし。
あれ、でも、一緒にお昼を食べるなんて……他の人に見られたらばれちゃう? その辺、瀬戸くんはどう考えてるんだろう。瀬戸くん自身は付き合ってること、隠す気は特にないみたいだったから、別にいいだろうって思ってるのかなあ。
教室にたどり着く。自分の席に座って、すぐに机に突っ伏して、目を閉じる。
眠い……
眠いんだけど、目を閉じてもめちゃくちゃ意識して聞き耳を立てていた。
運動部の人たちが教室に入ってくるざわめき。それを聞き取るために。
それまでとは違うにぎやかな足音が耳に入り、私はばっと顔を上げた。
あ、やっぱり。運動部の人たちが教室に入ってきた。
もちろん瀬戸くんも。
あんまり直視しないようにして、でもめちゃくちゃ意識して瀬戸くんが近くを通りかかるのを待つ。
あー、何だこれ。ちょっと私怪しすぎる? 今の私、ものすごーく自意識過剰な感じ……
でも、でも、少しでも瀬戸くんと近付く時間が欲しくて……
瀬戸くんが私のそばを通りかかり、私に声をかけた。
「花房さん、おはよう」
私も顔を上げて瀬戸くんを見る。
「おはよう、瀬戸くん」
挨拶する時に目を合わせるのは、全然不自然じゃないよね? 瀬戸くんと目が合って、自分の頬がふにゃ、と緩んでしまうのを感じる。
でも瀬戸くんは、そんな私を見て、表情を変えることなく……少し無言になって、私をそのままじっと見つめた。
え、何?
「……花房さん、もしかして調子悪い?」
「え?」
「なんか顔が少し赤いみたいやけど」
いや、それ、ただ単にうれしくて顔に血が上ってるだけですから! そんなの指摘しないで!
「や、なんもないよ。眠たくて今さっきまでちょっと寝てたから……そのせいちゃうかな」
「……そうなん?」
「うん、そう!」
頼むから、今、瀬戸くんと話してるせいで浮き立ってることがばれるような発言しないでほしい……
瀬戸くんはそれ以上追及することなく、自分の席の方へ歩いていった。
やれやれ、と胸をなでおろす。
あーもう、好きな人と同じクラスって……常に同じ空間にいることができるから、うれしいことはうれしいんだけど……落ち着かないなあ。
あんまり挙動不審にならないようにしなくちゃ。瀬戸くんに変な子だって思われてしまう。
四限の終わり、クラス全員の課題ノートを集めなければいけなかった。
本来は日直の仕事なんだけど、今日の日直は二人とも部活&放送委員の当番があり、そうなると自動的にその仕事は学級委員に回ってくる。
というわけで、瀬戸くんと私、二人そろって全員のノートを集めて職員室に持って行くことになった。
うん、まあ、これは仕方ない。
それにめんどくさい仕事だったとしても、瀬戸くんと一緒だし。瀬戸くんはこういう仕事、絶対嫌がったりしないからなあ。
教卓に集められた課題ノートを、半分こして持とうと思ったら、そのほとんどを瀬戸くんが持ち上げた。
「え、瀬戸くん、ええよ、半分私持つし」
「このノート、表紙が分厚くて結構重いから、いっぱい持った方がトレーニング代わりになるかと思って。だからできたら持たせてほしいねん」
えー、そういう言い方する? 瀬戸くん、うまいな……
そう言われると、そっか、運動部だしね、って自然に思っちゃう。でもよく考えると、こんなノート程度、運動部男子にとってはトレーニングとかのレベルの重さじゃないよね……って気付くんだけどさ。
でもせっかく瀬戸くんがそう言ってくれたので、私はありがたくほとんどのノートを瀬戸くんにお任せして、自分は数冊のノートだけ持った。
優しいなあ……
そう思いながら教壇を降りようとしたら、突然くらっとめまいがした。
あれ? 何これ?
視界が……天井が回ってる?
頭がぐわんぐわんして普通に立っていられなくて、私はずるりと教壇から足を滑らせた。
「彩!」
瀬戸くんが大きな声で私を呼ぶ。
どさどさ、とノートが床に落ちる音。
え、私……今、倒れてる?
まるでスローモーションみたいに動いている視界の中で、私がそのまま床に倒れこむ寸前、瀬戸くんが私の体を抱きかかえた、のを感じた。
めちゃくちゃ視界がぐるぐる回っている。
目を開けていられなくて、私はぎゅっと目を閉じた。
その後は、あまりよく分からない。
誰かに……たぶん瀬戸くんだと思うんだけど、抱え上げられて、私は保健室に運ばれた。体に伝わる振動で、瀬戸くんがかなり速足で歩いているのが分かった。周りの人のざわめきとか……いろんな人が声をかけてきて、でも私はもちろん答えることができないし、瀬戸くんもほとんど返事を返すことなく、とにかく急いで歩いていた、と思う。
瀬戸くんが保健室に入ってようやく周りの喧騒が消えて、私はベッドに横たえられた。静かになって、更にちゃんとしたベッドで体が安定した私はほっとして、そこからすぐに意識を失ってしまった。(というか、寝た)




