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きみと私の放課後  作者: はる
悠太と彩
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卒業の日・1

 卒業式まではめちゃくちゃバタバタと過ごしていた。

 もう全然余裕なんてなかった。まあ、卒業式後に取り掛かってもいいようなこともたくさんあったと思うけど……

 でも私は本来ぼんやりしてるし要領も悪いから、油断してるとどんどん時間だけが過ぎていって後でひどい目に遭うって分かってたので、とにかく何でも早く決めて行動しなくちゃ、と気持ちばかり焦っていた。

 東京で暮らす部屋がようやく決まって契約も終えた翌日、その日はもう卒業式だった。

 ……何だか実感わかないなあ。

 あっという間に卒業?

 今日、卒業式を終えて、学校の門を一歩出たら、もう私は高校生じゃなくなるの? この学校に通うことはなくなるの? えー、ほんとに!?

 晴くんとは駅で待ち合わせをして、一緒に登校した。

 今までずーっと部活三昧で朝練があった晴くんが、部活を引退したのでようやく朝から一緒に登校できるようになったと思ったら、あっという間にもうおしまいだなんて……

 強い春風が吹く駅に私が降り立つと、晴くんは先にやって来ていて、改札口の外で私を待っていた。


「晴くん、おはよう!」


 私が笑顔で駆け寄ると、晴くんも笑顔を返してくれた。


「おはよう、彩」


「卒業式やねえ。もう卒業なんて信じられへん」


「ああ。あっという間やったなあ」


 二人で横に並んで歩き出す。

 周りには他にも登校している生徒がたくさんいるんだけど、やっぱり何となく……普段とは空気感が違う。

 三年生のちょっとそわそわした空気。一、二年生の、今日は早く帰れる! というのんびりした空気。

 私たちも……やっぱりちょっとそわそわしてる、かなあ?


「あ、考えてみれば、晴くんと一緒に制服で歩くんも今日が最後ってこと?」


「そうやな、そういうことになるな」


「えー! そしたら私、晴くんの制服姿を目に焼き付けとかんと!」


 私は晴くんから一歩離れて、晴くんの全身をじっくり眺めた。三年間毎日のように着ていた制服。やっぱりちょっとくたびれてる? 一年生みたいなパリッとした感じじゃないけど、でも晴くんの制服姿はすごくなじんでるっていうか……これぞ晴くん、って感じでかっこよかった。


「そんなに見られたら照れるやんか」


「そう?」


「俺も彩の制服姿をしっかり覚えとかんとな」


 晴くんが優しいまなざしで私を見つめる。

 高校生の私たち。今日で最後の私たちの姿。もう終わってしまうなんて……

 ……変な感じ!





 学校に着くと、もうね、もうね、演出がすごかった。

 絶対これ、学校を上げて卒業生を泣かせに来てるよね!?

 校門のところに、各部活の一、二年生や、委員会のメンバーがずらっと並んで、卒業生に「卒業おめでとうございます!」って挨拶しながら紙吹雪を投げまくってる。


「え……なにこれ、すごい!」


 晴くんもハンドボール部の後輩たちに、嫌がらせ!? ってレベルでぶわーっと大量の紙吹雪を投げられている。部活をしていない私には関係ないと思っていたら、委員会とかイベントで一緒になった顔見知りの後輩たちが、ちゃんと私に向かって笑顔で挨拶をして紙吹雪を投げてくれる。

 もうそれだけで私はじーんとして、涙腺が緩んでしまった。

 何だよー、卒業の実感なんて全然わかないって思ってたのに……もう校門から力づくで実感の海に放り込まれてる!

 教室に入っても、同じように校門で後輩から泣かされちゃった同級生が目を赤くして笑っておしゃべりしていて、その姿を見るだけでまた私は泣いてしまった。

 やめてよーほんとに。こんな風に最後だって実感させないでよ……

 すごく仲が良かったわけじゃないけど、普通におしゃべりするような仲のクラスメート。そういう子たちとも、毎日学校に来れば当たり前のように顔を合わせて楽しく一緒に過ごしていた。そういう子たちとは、今後、特別な何かがないかぎり、きっと会うこともないんだ……

 そんな風に終わりを実感すると、ものすごく寂しくなってくる。

 じわーっと涙があふれてしまう私を見て、友達がかわるがわるハグしてくれるもんだから、更に私の涙腺は崩壊した。





 教室内は大騒ぎだったけれど、なんやかんやしているうちに体育館に移動して卒業式が行われた。

 卒業生代表の答辞は当たり前のように晴くんだった!

 ああ、最後まで、どこまでもかっこいい……

 全校生徒の前で堂々と別れの言葉を述べている晴くん。晴くんの話している内容はほとんど頭に入ってこなくて、私はただ光り輝いている晴くんの姿と、その穏やかで凛々しい声をひたすら目と耳と脳に焼き付けようとしていた。

 晴くん……最初は、ただ真面目でちょっと怖い同級生なだけだったのに……

 同じ学級委員になったことで話すようになって。そこからいろんな晴くんの姿を知っていって。好きになってもらって……私も好きになって。いろんなことがあって。

 本当に、晴くんと出会ってからの一年が、今までの私の人生で一番濃かったなあ。私って今を生きてるんだ! って一番強く感じたかも。

 これから……離れ離れになっちゃうけど……でも私たちなら大丈夫だよね? こんなに、こんなに好きなんだもん。この気持ちが変化するとは思えない。だから私たち、大丈夫だよね。





 卒業式が終わって、今日が終わったんだーと思っていたら、大間違いだった。

 そこからがめちゃくちゃ大変だった。

 なんと、なんと! この卒業式の日に、私は三人の男の子から告白された。

 は? ですよ。え? ですよ。

 どうしてそんなことに!?

 最初は他のクラスの男子に、ちょっと、と呼び止められて、はいはい何でしょう? と立ち止まって話を聞こうとしたら、突然告白された。

 私のこと、ずっと好きだったって。今まで言えなかったけど、私が笑ってる姿を見るだけでその日一日幸せになるような男がいたってこと覚えていてくれたらうれしいって。

 ……え?

 え、いや、そんなこと突然言われても。私がびっくりして何も言えないでいると、そんなに気にしないでいいから、元気でねって言ってその男子は去っていった。

 ……何それ!?

 意味分かんないんですけど。え? 私のこと好きで、でも気にしないでねって? それならどうして告白するの? それを言われた私はどうしたらいいの!?

 混乱してくらくらしながら自分のクラスに帰ろうとしたら、今度はクラスメートの佐野くんにつかまった。


「花ちゃんやー。どうしたん?」


「え……佐野くん、いや、えーと」


「なんや、そんなに卒業式に感動したんかー?」


「感動というか、その」


「……なあ花ちゃん、俺、ほんまはマジで花ちゃんのこと狙っとってん」


「……へ?」


「瀬戸のやつが抜け駆けせんかったら、俺が花ちゃんもらうつもりやったのになー。もっとさっさと花ちゃんに好きやって言っとけば良かったかなー」


「……なに言ってるん? 佐野くん……」


「ま、もう手遅れやけどな! でも瀬戸となんかあったら俺が横取りする気満々やから覚えといてくれな!」


 佐野くんはバンバン私の肩をたたいて、笑いながら走って行ってしまったけれど、少し手が震えていて……

 え……本気で言ってるの!?

 あまりの怒涛の展開にめまいがした。

 いや、え? 今私、二人の男の子から告白された……?

 どうして!? どうして卒業式の日に、突然私のモテ期襲来!?

 私そんなの望んでないんですけど!?

 精神的に大混乱しつつ、ふらつきながら教室に戻り、ああ、これで友達が周りにいるから、もう安心だ(晴くんはまだ教室に帰ってきていなかった)とドアを抜けて教室内に入ろうとしたら、また廊下から見知らぬ男子に声をかけられる。

 めちゃくちゃぎくっとして跳びあがりそうになった。

 こわごわ振り返ると、えーと、今度は同じ委員会だった……男子。

 そしてやはり、私はその男子からも告白されたのだった。





 最後の学活を終え、私たちは生徒玄関から外に出てきていた。

 もう私はふらふらですよ……

 今日は何て日なの!? ただでさえ卒業式で、いろんな感情が渦巻いて朝から泣きっぱなしなのに、更に男の子から告白されて。私の情緒はぐちゃぐちゃだった。

 三人目の告白に、もうどう反応したのかすら覚えていない私は、教室に入ってから声をかけてきた茜に泣きついた。

 私がしどろもどろになりながら、なぜか三人もの男の子に一気に告白されたんだけど……って話をしたら、茜はなるほどー、と言いながらうなずいた。


「ははーん、そういうこと。正にそれは今日が卒業式やからやね!」


「……なにそれ?」


「だって今日あんたに告白すれば、振られて気まずくなってももう明日から会うことないねんから、気にすることないやん。卒業してしまえば噂が広まるようなこともないしね。もしかしたらワンチャンうまくいくかもしれんし。あとは、卒業してからもしばらくあんたのこと忘れられへんやろなーって思ったから言ったんちゃう? 彩の気持ちがどうこうっていうより、自分がすっきりしたいから言ったんやろ」


 ……そうなの?

 自信満々に語っている茜に、さっきから頭に浮かんでいたことを聞いてみる。


「えーと……ドッキリとかやなくて? なんか知らんけど、最後にみんなで私のこと驚かそうとかそういうわけやなくて?」


「あは! そら三連チャンやったらそう思ってもしゃあないかもしれんけどね。でもそれはないやろー。彩に告白してびっくりさせておもしろがる、とか。そんなにおもしろくないし」


 う、なんかひどい……


「ま、彩はお子ちゃまやったからなあ。今まで告白しようにも、真に受けてもらえなさそうやからってみんな様子見してたんやろ。それやのに突然瀬戸くんと付き合いだしたから、彩を狙っとった子らにしたら、やられたー! って感じやったんちゃうん? まさかあの堅物の瀬戸くんに取られるとは思ってへんかったやろし。で、その後もどんだけ彩が瀬戸くんとラブラブでも諦められへんかった子らが、最後に思いの丈をぶつけてきたんくらい、あーはいはいって受け入れてあげなよ」


 ええー、どうして茜はそこまで男子の気持ちを代弁できるの!? 私がびっくりして茜を見つめると、茜はニヤッと笑った。


「ふん、私やって同じような気持ちやったもんね。私のかわいい彩が瀬戸くんに取られてもた! って思ってたもん」


「え、ええ? でも茜、他校に彼氏おるやん」


「あほ! 別に私は彩と付き合いたいわけちゃうし! そう言うんやなくて、友達でも取られてもた! って思ってまうの!」


「あ、そうなんや……」


「そうそう。でもそんなんも、みんな好き勝手に思ってるだけやねんから、彩は気にせんでええよ。彩は瀬戸くんとラブラブやろ? それはこれからも変わらんのやろ? それでええやん。そして瀬戸くんと付き合おうが別れようが、私は彩の友達! そうやろ?」


「もちろん! それは当然やん。晴くん……瀬戸くんと別れたりせんけど、でも茜ともずっと友達!」


「そ。だからええねん」


 笑っている茜を見ていると、なぜかまた涙が出てきた。

 ああもう、今日の私は涙腺が馬鹿になってる。


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