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きみと私の放課後  作者: はる
悠太と彩
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Can you keep a secret? ・4

「……ユウくんにそんなこと言われたくない」


「あ?」


 ユウくんが不機嫌そうな声を上げる。

 う、怖い……

 でも。


「だって私弱いし。そんなん自分で分かってる。弱いけど、弱いままやったらあかんから、これから強くなろうとしてんの! まだその途中やの! そんなん……ユウくんやって弱虫やん。やりたいことあるのに、それを誰にも言わんと秘密にしとるんやろ?」


「はあ? 誰が弱虫やねん。彩さんと一緒にすんなや」


「弱虫やん! まだ二年生やのに、一年後、卒業したらハンドボールをやめる、そう決意するくらい他にやりたいことがあるのに、それを一番身近なカナくんにすら言われへんのやろ? 自信がないんやん! ほんまにそれでええんかなって自分で思ってるんやろ? やっぱりハンドやめるんもったいないかなって不安なんやろ? だから誰にも言われへん。私は怖くてもちゃんと東京に行くって自分で決めて行動に移してるねんから、ユウくんよりよっぽど強いよ。口に出すんが怖いからって黙ったままでいる弱いユウくんとは違う!」


 ユウくんが私を睨んだ。その強いまなざしが突き刺さって、怖くて仕方ない。

 いやそもそも、私、こんな風に男の子と……っていうか、誰かと喧嘩したことなんてないのに! どうしてこんな、相手がその気になれば一撃で黙らせられちゃいそうな相手に喧嘩売ってるの!?


「ふざけんな。別に自信がないわけでもなんでもないし。それなら今日カナに言うたる。俺が決心したことは揺るがへんって証明したる! その代わり彩さん、あんたも今後そのしょうもない弱音吐かんって約束しろ」


「そんなん……全然平気やし! だって私、もう東京に行くってちゃんと決めてるねんから! 住むところやって探しに行くん決まってるねんから! すでに私、東京行きを決める前より……10%くらいは強くなってる!」


 立っている私と、座っているユウくん。二人できっと睨み合った。

 私が必死で大真面目に話しているのに、怒っていたユウくんは私のその言葉を聞いた数秒後、こらえきれなかったようにぶはっと吹き出した。

 ……え?

 いや、え、今のここ、笑うところ……?


「じゅ、10%って……すくな! それ、ほぼなんも変わってなくね? そんだけ自信満々に断言しといて、10%しか変わってへんの?」


「え……え? でも、今までなんも変わってへんのに比べたら……10%でも多いと思うねんけど」


 どうしてユウくんが笑っているのか本気で分からなくて、私の頭の中は?でいっぱいになった。

 ユウくんは笑いながら、自分の顔を手でごしごしこすった。


「あーおもろ。彩さんはやっぱおもろいなー」


「お、おもしろい?」


「ああ。それよりでかい声出したら腹減ってきたな」


 いつものユウくんに戻った……

 そう思いながら私はポケットからお菓子が入った小袋を取り出した。


「今日はチョコあるよ。奮発してメルティーキス!」


 ほんとは晴くんと分けっこして食べようと思ってたやつだけど……まあ仕方ないか。ユウくん(とカナくん)に会ってしまったら、お菓子をあげないわけにはいかないもんね。

 ユウくんは私の手からチョコを受け取って、すぐに袋を破って食べた。


「おー、うまい。……彩さんから菓子もらえるんもこれで最後かー」


「え……あ、でもまだ私、学校に来るし。その時ばったり会えたらまたお菓子あげられるよ」


 そうか、やっぱり卒業するまでは常にポケットにお菓子を入れておかないといけないなあ。


「彩さんが留年してくれたら、あとまだ一年菓子もらえたのにな」


「怖いこと言わんといてよ! なんとか卒業できることになってるねんから」


 私が卒業できるのは100%晴くんのおかげだけど……。晴くんが根気強く勉強を教えてくれなかったら、本気で卒業やばかったと思う。


「卒業か……」


 ユウくんが空を見上げる。つられて私も同じ方向を見た。けれどそこには雲のかけらすらない。ただ真っ青な空しかなかった。


「部長……瀬戸さんも引退してもたしなー。部活しとっても、いまだに変な感じするな」


「そうなんや……」


「彩さんはおとなしくてなんも言えへん人なんかと思ったらいきなり俺に喧嘩吹っ掛けてくるし。女子と喧嘩とか初めてかもな。だいたい女子がなんか言ってきても、あっそ、ってスルーするからなあ」


「う。それは……その、ごめん……私年上やのに、言ってること大人げなかったやんね……」


「ま、彩さんがあんだけ言うとは思ってへんかったからなかなかおもろかったで」


 おもしろい……

 いや、私、本気だったんですけどね? でもその本気の発言もおもしろい認定か……

 やっぱり私は晴くんみたいに威厳のある先輩になるのは無理なんだな。うん、分かってたけどね。


 私のポケットに入っている携帯がぶるぶる、と震えた。

 取り出してみると、晴くんが学校に着いたみたいだった。

 行かなくちゃ。


「ユウくん、晴くんが学校に来たみたいやから私行くね。ちゃんとこの後の授業出るねんで!」


「おー」


 座ったままのユウくんは肩をすくめた。

 ……ほんとに授業に行ってくれるんだろうか……

 でもこの場合、私が何言ってもユウくんは自分が思ったように行動するんだろうなあ、と思うので、それ以上余計なことは言わずに私はフェンスから体を離した。

 私を見ていたユウくんが、私の方にすっと手を差し出した。

 ……うん?

 つられて私もユウくんの方に手を出すと、ユウくんはその私の手を握って握手した。


「じゃあな、彩さん」


 いつもと変わらない口調でユウくんが言う。

 これは……このまま屋上でお昼まで過ごしそう……!

 次に会った時に、ちゃんと授業に出た? って聞かないと。

 そう思った私は、授業に出るんだよ? って気持ちを込めて、ちょっと首をかしげてユウくんを見た。


「またね、ユウくん」


 手を離したユウくんは、小さく私に手を振った。

 そしてその後、卒業式の日まで、ユウくんに会うことはなかった。


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