第四話 アフターサービスのご案内
腕を組み、無表情な冷めた顔で6人を見下ろしている男。
運送屋の男。
「どうだった?」
その男が発した言葉を理解できなかった。
”どう”が何を指しているのか。
だが……
「……っざけんなよ……」
低く絞り出すような声。
リーダー格の豪奢な鉄鎧を装備した男だった。
震える腕で、剣を握りしめながら無理やり身体を起こし立ち上がる。
足はふらついている。
それでも歯を食いしばる。
「……なんだよ…。今の……!?」
呼吸は未だ乱れ、顔面蒼白だ。
だが、目だけはまだ死んでいない。
「魔法か!?てめぇ!魔法師なのか!!舐めんな!!こんなんでビビるかよぉ!!」
男はそうまるで自分を奮い立たせる様に叫ぶ。
周囲の仲間たちは未だに動けない……いや動けない。
「お。おい……やめとけ……」
仲間の誰かが小さく言う。
「うるせぇっ!!!」
リーダーはその助言を聞き入れない。
「もう一回やってみろよ!!」
「ふぅん……」
俺は少し頭を傾げた。
「見れなかったのか…。わかった。もう一便な?」
その瞬間、リーダーの姿が消える。
「……え?」
広機の一団の誰かの声が漏れる。
さっきまで目の前にいたはずの男がいない。
痕跡すらない。
一瞬の静寂。
一人だけが倉庫の上を見上げている。
そう。運送屋のこの男。退屈そうに腕を組み見上げている。
視線の先を追い、そこにいる全員が上を見上げる。
すると……
「………っぁぁぁああああああああああああわあああああああ!!!」
上空から絶叫が降って来た。
広機の仲間たちは凍り付く。
「また……」
「やりやがった……」
夕焼けに染まる空の中、小さな影がジタバタと藻掻いている。
必死に手足をばたつかせながら落ちてくる。
「やめろろぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
地面が迫る。
誰も助けられない。
何も出来ない。
ただ落ちるのを待つしかない。
「や、やめてくれ!!」
下にいる仲間が思わず叫び懇願する。
(そろそろか)
ドンッ!!
またしても石床に叩きつけられる。
今度は地面に直接ではなく、1mの高さから落下させてみた。
「がっ……!!」
地面に転がる。
呼吸が出来ずに全身が痙攣する。
完全に心が折れていた。
運送屋の男が再び話す。
「……どうだった?」
二度目の”どう”の問答。
「夕日」
リーダーは答えない。
聞こえている筈だが答えられない。
ただ、涙と涎を垂らしながら震えている。
その姿を見て他の5人は、完全に理解した。
逆らってはいけない相手だと。
「………どうだった?」
再び静かに聞く。
「夕日」
リーダーは答えない。
沈黙
運送屋の男は少しだけ不満げな顔をし眉を顰める。
「見えただろ?」
ぽつりと呟く……が反応はない。
「結構いい時間帯だったんだけどな。」
空をちらりと見上げる。
窓の外からは橙色からもう少しで赤に変わる頃合いだ。
周囲の広機の連中達は、息を呑んだまま動かない。
嫌な予感しかしない。
反応がない事に軽く肩をすくめた。
「……もう一便いっとくか?」
その一言で
「やめてくれぇぇえぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!!」
全員が叫んだ。
「もういい!!頼む!!!」
「奇麗だった!!めちゃくちゃ奇麗だったからあ!!」
「ちゃんと見た!!見たから!!!」
必死だった。
さっきまでの威勢は跡形もない。
リーダーも、這う様にして声を絞り出す。
「た、頼む……もう……もうやめてくれ……」
涙でぐしゃぐしゃの顔。
イケメンなのに酷い顔だ。
少しだけ間を置いた。
「……そうか。ならいいか。」
張りつめていた空気が一気に抜ける。
「あの高さ……景色いいんだよ。」
ぼそっと呟く。
高さ1km。
凡そ鳥が飛行している高度だ。
こちらに来る前の地球ならヘリコプターや軽飛行機が飛ぶ高度。
それに誰も返事をしない。
出来るわけがない。
「……まあ…仕事中だしな」
自分に言い聞かせるように言って、頭を掻く。
「今回はサービスだ。追加料金はとらねぇよ。」
完全に意味不明な言葉だった。
だが、助かったことだけは全員が理解していた。
「弁償します…。」
涙声でリーダーが震える声で言う。
「全額払います。」
運送屋は振り返らず応える。
「最初からそう言え」
それだけ言うと本日の本当の最後の仕事を熟す為に倉庫の奥へと消えた。




