第三話 本日最後の配送
「……は?」
剣が…消えた。
正確には、肌に触れた瞬間、”どこかに抜けた”。
手応えがない。
あの肉と骨を斬りさく独特の手応えが…。
ありえない感覚に、剣を振り下ろした男の動きが止まる。
(終業間際に勘弁してくれよ。)
首を軽く回す。
そして視線をゆっくりと上に向けた。
空は橙に染まり始めている時間帯だ。
(いい時間帯だな。)
「20秒か……なぁ……」
ぽつりと口を開く。
それに広機の連中が怪訝そうに眉を顰める。
「夕日は好きか?」
「………あぁ?」
間の抜けた声が返ってくる。
「今の時間はな…」
淡々と続ける。
「奇麗な夕日が拝めるぞ?」
その言葉の意味を誰も理解できなかった。
次の瞬間までは。
その背後にいた仲間が
「て、てめぇ……何を言ってっ……」
一歩踏み出した瞬間。
景色がズレた。
次の瞬間。
「「「「「「…………は?」」」」」」
足場がない。
風がある。
目の前に視界が広がる。
遥か下に、来たばかりの街が小さく見える。
そう。6人は空にいた。
理解が追い付かない。
だが身体は正直だった。
今まで感じた事もない浮遊感が全身を襲う。
「え………」
「落ちてる!?」
「な、なんだぁぁ!!これれれrrrrr!!!!!」
星の重力がその答えを教える為に落下が加速していく。
地面に向けて真っ逆さまに。
風圧が顔を叩く。
叫び声が混ざる。誰の叫びなのか判別出来ない程に。
体勢も取れないまま、ただ落ちる。
「っふふふふfざざけんえぇぇぇっぇえっぇぇええ!!!」
罵倒の言葉も風圧に負けて言葉にならない。
地面が迫る。
一気に……圧倒的な速度で。
何人かはすでに意識を手放している者もいれば、じんわりと股間を濡らしている者もいた。
建物の屋根を過ぎ地面が目の前に迫る。
「「「「「「「死ぬううううううぅぅいうううっ!!!」」」」」」」
意識を保てている誰もかれも叫ぶ。
全員が同じ事を思った、その瞬間……
視界が切り替わった。
そこは石の床の上。
さっきまでいた倉庫の中。
先ほど破壊した木箱の破片が散らばっている。
6人の広機が無様に転がっていた。
ある者はじたばたと地面を泳ぐ者。
ある者は気絶しぐったりしている者。
ある者は放心状態で股間が濡れている者。
様々な反応だった。
「……っが……!!」
「はっ……!!っ……は……っっ……!!」
呼吸が荒い。
身体は震え、全身に力が入らない。
確かに落ちた。落ちていた。
あのまま落ちていれば確実に……死んでいた。
死ぬ筈だった…。
なのに……生きている。
「………い、今の」
誰かが呟く。
声が震えている。
「……生きて……る……?」
掠れた声で呟く。
6人全員が同じ心境だった。
数瞬前まで感じていた”死”の感覚だけが体に残っている。
「……な、…なんだよ……今の……」
恐怖が遅れてやってくる。
そして……視線の先に
男が立っている。
腕を組み、冷めた顔で6人を見下ろしていた。




