96 手がかりを見つけた神官長が何者かに襲われたようですが、大丈夫ですか?
父アーサーが王宮の特別室でうなだれている頃、カインはベルネットの研究室にいた。
「今回、バーディさんに救出された人はイエッツェからすると不要な人だったということですか?」
「まぁ、言い方は良くないけどそういうことだね。イエッツェに置いていても役に立ちそうにない子供たちをバーディおじさんに売ったてところかな。元々病弱の子だったり、見た目が気に入られなかったり・・・バーディおじさんが手配してその子供たちは無事に保護されたよ。その中でもすごく賢い子がいてね。わざと馬鹿なふりして保護された子もいたよ。その子は獣人族でね。今、アンドラと一緒にいるよ。アンドラに情報屋のいろはを叩きこまれていると思うよ」
「そうですか・・・でも、まだまだ奴隷として捕らわれている人たちがいます。国王様にもお伝え出来ましたし、もうすぐ救出されるはずです」
「そうだね・・・早く助けてあげたいね」
珍しくベルネットが上品に優しく微笑んでいた。いつものガサツさを全く感じず、どこかの上級貴族の令嬢かと見間違えるほどだった。
(そうだった。この人本当はイエッツェ王国の王女だった・・・)
冴えない厚底眼鏡とぼさぼさ頭のせいで気づきにくいが、ベルネットの顔立ちは割と整っている。きちんと化粧をすればきっと化粧映えする顔立ちである。カインはもったいないなと思いながらも、今のままのベルネットの方が親しみやすく、話しやすいのでこのままでいてほしいと願っていた。
「そういえば、エルシーが言っていたよ。カイン君がなかなかグローリー教会に顔を出してくれないって」
「グローリー教会ですか?僕もいろいろ忙しかったですし、行く用事も今のところありませんので」
「相変わらずドライだな。そう言わずにたまには顔を出してあげてよ。エルシーはいつも君のことを気にかけているんだから」
「そうですか。時間ができたら」
ゼイン神官長はカインの母親に関して調べてくれている。しかし、今のところは新たな手掛かりは何もない。ゼイン神官長の入れてくれる紅茶はおいしいが、今はそれよりも優先すべきことがある。
「それは行かない人のセリフだよ。カイン君らしいけど」
ベルネットは呆れつつ、いつものように豪快に笑っていた。
外から扉を叩く音が聞こえ、マリーが研究室に入ってきた。
「カイン様、旦那様がカイン様を呼んでいるようです。王宮に戻りましょう」
「お父様が?奴隷救出の作戦でも思いついたのかな?ベルネット先生も一緒に行きますか?」
「カイン様一人で来るようにとのことでした」
「???何だろう・・・」
「カイン君、話しは後で聞かせてね。早く行っておいで」
「はい、わかりました。マリー、今から行くよ」
(何だろう・・・とても嫌な予感がする・・・)
まだ何の話しかもわからないカインなのだが、なぜか妙な胸騒ぎがした。カイン勘は正しかった。この時はまだ知らなかった。この先、カインが持つ恐ろしいほど強大な力が大陸全土に知れ渡ることになることを。
仕事を終えたゼイン神官長は父の残した書物を読み漁っていた。
「やっぱり・・・どこにも手がかりはないよな・・・」
ゼイン神官長はカインの母親の出産を手伝ったとされる”ルキナ”という名にがずっと頭に引っかかっていた。
(この名前・・・どっかで聞いたことがあるのよね・・・)
ふと目に留まったのは背表紙にも表紙にも何も書かれていない真っ黒な本だった。手に取ると手に黒の汚れがついた。
(この本・・・もしかして・・・)
ゼイン神官長が本を綺麗にふきあげると、その本は驚くほど真っ白な本になった。
不思議に思ったゼイン神官長は一頁目を開いた。
「何・・・どういうこと?」
ゼイン神官長はパラパラと頁をめくり、ある頁に目が留まった。
「あった・・・ルキナ」
ゼイン神官長はそのままその頁を読み進めた。
「そうだったのね!だから、カイン様は・・・」
ゼイン神官長はカインの出生の重大な秘密を知ってしまった。
「これはカイン様に知らせないと・・・」
(あれ・・・めまいが・・・どうして・・・)
ゼイン神官長の顔にははっきりと誰かの手のようなものが見えていた。
「眠れ・・・」
ゼイン神官長はそのまま気を失った。
ゼイン神官長は眠ったようにベットに横になっていた。その様子を心配そうにベルネットが見つめていた。
「先生、エルシーの容体は?」
「うーん・・・何とも言えないかな。命には別状ない。けど・・・原因がさっぱりだ」
女医リリスはスチアート王国でも一位、二位を争う名医である。王宮の専属侍医でもある。そのリリスがわからないということはもはやお手上げ状態である。
「エルシーに何か変わった様子はなかったの?」
エルシーの補佐をしているササにベルネットは問い詰めていた。
「ベルネット先生、落ち着いてください。ササさんが怖がって何も言えないでしょ?」
「すいません、つい・・・それで、ササ。エルシーに変わった様子はなかった?」
ササは当時のゼイン神官長の言動を思い出しながら、話しはじめた。
「特におかしな様子はなかったです。本日の鑑定も滞りなく行われました。昨日は早く仕事が終わりましたので、ゼイン神官長もその日はすぐにお部屋に戻られて・・・そういえば、その後、前神官長のお部屋に入られていました。前にも一度お見かけしたことがあったので、声をかけましたら、『ちょっと調べものをしていてね』と。何を調べているかまではわかりませんでしたが、そのお部屋を出る時はいつも残念そうなお顔をされていました」
(カイン君のお母さんのことを調べていたのね)
この場でゼイン神官長が何をしていたのかを知っているのはベルネットだけだった。しかし、この件を安易に公にすることはできなかった。
「ベルネット先生?何か知っているのですか?」
「いえ・・・」
(エルシーはカイン君のお母さんに関する情報を見つけたのかもしれない。それで・・・一体誰が何のために・・・)
ベルネットはエルシーの手を握り、エルシーが無事に目覚めるよう祈ることしかできなかった。




