95 各国の重鎮たちが集まっているようですが、大丈夫ですか?
「馬鹿者が!」
スチアートからイエッツェに強制帰国させられた第一王子ライランは、父であり、国王セシルからの怒号を浴びていた。
「父上、私のせいではありません。全てはアベル・デイヴィスのせいです。あの男が僕のダリアを奪ったから」
「お前のせいで私の計画が丸つぶれだ。何のためにお前をスチアートに送ったと思っているのだ。もうよい・・・お前はもう用済みだ。ザイン、後は任せる」
「・・・承知しました」
ザインはライランを地下牢に入れるよう騎士に命じた。
「嫌だ、父上!父上ー!」
ただの小太り我儘王子は抵抗することもできず、引きずられながら、謁見の間を後にした。
「ザイン、お前の息子とマイヤーズ公爵家の息子は自宅謹慎だ。絶対に外に出すな。もし一歩でも外に出したらどうなるかわかっているだろうな」
「寛大な処分に感謝します」
ザインはいつも通り振舞っていたが、実際は緊張で気を失いそうなほどだった。いつもいる自分のポジションに偽ハワードが当たり前のようにいる。偽ハワードは瞬きもせず、ザインを見ている。一挙手一投足の全てを見られているようだった。おそらく偽ハワードは自分のことを疑っている。ザインはそんな空気を感じ取っていた。
「さて、これからどうしようか・・・」
息子のせいでこれから先の計画が台無しになり、国王セシルは焦っていた。
「国王様、こうなったら計画を早く進めましょう」
「だが、準備が」
「問題ありませんよ。すでに舞台は整っています」
(何だ・・・この淀んだ空気は・・・)
謁見の間を黒い霧のようなものが徐々に包み込んでいた。
「ザイン様、あなたもこちら側ですよね?」
「えっ・・・はい。私は命に代えてでも国王セシル様に仕えていく所存です」
言葉ではそう言っていたが、すでに国王セシルへの忠誠心など失っていた。
こうでも言わなければ、その場で殺されることぐらい理解していた。
「よかったです。もし、否定されれば死んでもらうしかなかったので」
そう言って、偽ハワードが手を天に掲げると無数の魔族が現れた。
「これは・・・一体・・・」
ザインは思わず腰を抜かしてしまった。
偽ハワードはザインに近づき手を差し伸べた。
「さぁ、私たちがこの大陸を支配する時は間近です」
ザインは恐怖を感じながらも、冷静さを保っていた。
「それはどういう意味でしょうか?」
「我らの王がもうすぐ手に入ります」
「我らの王?」
ザインのつかんだ偽ハワードの手は氷のように冷たかった。
「皆、急に集まってもらってすまないな」
スチアート王国の王宮の特別室にはイエッツェ王国以外の重鎮たちが集まっていた。
そこにいたのは人族だけではなく、他種族の宰相クラスの者たちもいた。
「ハワードから報告は受けている。それぞれの国で起きている問題を話してくれないだろうか?」
国王ダタンの呼びかけで集まったのだが、各国では同じような問題が起きていた。
「何が起きようとしている・・・イエッツェ王国は何を考えているのだ・・・まさか、各国の国王が同時に同じ症状で倒れているとは・・・」
ここに集まったのが宰相クラスであるのは理由がある。スチアート王国以外の国では今、緊急事態が起きていた。国王が同じ病で倒れ、慌ただしい事態となっていた。
スチアート王国はアースノロード大陸の中で要となる国である。種族関係なく非常事態が起きると情報が入ってくる。
ダリア誘拐未遂事件から数日後、ある一報が国王ダタンの耳に入ってきた。
「国王様、グレテス王国とフェーズ王国の国王が揃って倒れられたそうです」
「何だと?どういうことだ?」
詳しく情報を聞くと二人とも突然頭痛を訴え、そのまま倒れた。命には別状はないようだが、毎晩何かに怯えたようにうなされている。
そのうち、獣人族、ドワーフ族、エルフ族の長たちも同じうような症状で倒れているとの報告が入ってきた。
この異常事態にイエッツェ王国と魔族が絡んでいると国王ダタンは確信し、急遽、スチアート王国に各国の宰相たちを呼び出していた。
「まさか他国も同じようなことになっているとは・・・」
どのような方法で国王や長たちを今の状態にしたのかはわからなかったが、イエッツェ王国と魔族が何かを仕掛けてこようとしていることだけは理解していた。
「アーサー、何か策はないか?」
勇者であるアーサーもこの場に呼び出だされていた。
(そう言われてもなぁ・・・ザインからの報告はまだないし、俺にも今イエッツェがどうなっているのかわからないしなぁ・・・)
アーサーはしかめっ面をしながら、必死に策を考えていた。
「ちょっとお待ちいただけますか?」
何かを思い出したようにアーサーは席を外し、部屋から出て行った。
「???」
国王ダタンをはじめ、皆アーサーが帰って来るまで議論していたが、これといって解決策が思い浮かばなかった。
数十分後、アーサーが戻ってきたが、その顔は眉間にしわを寄せ、なぜか悔しそうな表情をしていた。
「アーサー、どうした?」
アーサーは席に座ると、祈りを捧げているように両手を組み、額に手を何度も当てていた。
「どうしたのだ、アーサー?」
「国王様、解決策は・・・あります。まずは・・・」
各国の者たちは食い入るようにアーサーの話を聞いていた。
「アーサー、その話だと・・・まさか・・・おい、アーサー、それでいいのか!」
アーサーの作戦の意図を悟った国王ダタンはいきなり声を荒げ始めた。周りの者たちは何が起きたのか理解できず、ただキョトンとした表情で二人を見ていた。
「国王様、それしか・・・方法がないのです」
「しかし、そうなると・・・」
「わかっています。大丈夫です。私が必ず守りますから」
アーサーが自分の発言した作戦を実行したくないことを国王ダタンは理解していた。しかし、それ以外、皆を助ける方法はなかった。
「わかった。アーサーの言うとおりにしよう。各国の皆様、お願いします」
重い空気が漂う中、皆国王ダタンの言葉に頷いた。
(俺は・・・父親として失格だ・・・)
皆が席を立ち、帰国を急ぐ中、アーサーだけが椅子に座ったまま下を向き、うなだれていた。




