94 せっかく助けたのになぜか逆ギレされたのですが、大丈夫ですか?
あの日の夜、国王ダタンがダリアの無事を確認し、その日以降、ダリアとアイビーの護衛が厳しくなったのは言うまでもない。カインも空気を読み、親子水入らずで過ごせるよう、ダリアとアイビーと話すことなく自分の部屋に戻っていた。
ダリアとアイビーはカインにお礼がしたいと思い、二人そろってカインの部屋を訪ねて来ていた。ちょうどその頃、カインは国王に謁見していたため、二人はマリーに頼んで部屋で待つことにしていた。
「アイビー、ダリア。どうしたのですか?」
「お姉様がカイン様にお礼を言いたいと言ってきたので、私がカイン様の部屋まで連れてきたのですよ」
アイビーがカインの腕を引っ張りながら、ダリアの前まで連れてきた。
ダリアはなぜか下を向いたまま、カインと目を合わせようともしなかった。
「お姉様、どうしたのですか?」
カインにもダリアの緊張感が伝わってきた。
(なぜダリアの手が震えているのだろう・・・僕、もしかして怖がられてる?)
ダリアが震えているのはそんな理由なわけがないのだが、鈍感なカインにはダリアの恥ずかしさや照れが一切伝わっていなかった。
「えっ?もしかして僕のこと怖がっていますか?」
「えっ!そんなわけないでしょ!」
カイン、アイビー、侍女たちも驚くような大声をダリアは出していた。
「びっくりした」
「ごめん」
「ならいいですが・・・」
なかなか話を切り出さないダリアにカインもどうすればいいのか困っていた。
「だから・・・その・・・守ってくれてありがとう。それだけが言いたかったのよ!」
なぜか逆ギレのような言い方をされ、ダリアはそのまま走ってカインの部屋から出て行った。
「申し訳ございません。カイン様。失礼いたします」
カインのそう声をかけ、慌ててルーシーはダリアの後を追いかけて言った。
「あれは・・・何だったのでしょうか?」
「カイン様はわからないのですか?」
「はい、全くわかりません」
「わからなくていいですよ。カイン様は私だけを見てくれればいいのです」
うれしそうに抱きついてくるアイビーの頭を無表情でなでながら、カインはいまいち腑に落ちない表情をしていた。
(本当にお礼が言いたかったのだろうか・・・)
アイビーはカインの表情を見て、カインがダリアのことを恋愛的な意味で好きではないとわかり、安心していた。うれしさのあまりなかなかカインを放さなかった。
「あ゛ー、私って何でいつも素直になれないのー」
枕に向かって叫んでいるダリアを見つつ、ルーシーは必死に笑いを堪えていた。
なかなかカインから離れないアイビーをエバンが無理やり引き離し、残念そうな表情をしながら、アイビーはエバンと隠れていた護衛騎士を引き連れ帰っていった。
「セヴァス」
「どうされましたかカイン坊ちゃま?」
「今までどこにいたの?」
「申し訳ございません。アンドラ様のお手伝いを少し。もちろん、逐一カイン坊ちゃまをチェックしておりましたので、安心してください」
(いやいや、スパイを見つけた時、僕、ヘルプ信号出していたよね)
そう思いながらも、あの時は特に危険な場面でもなかったので、口にはしなかった。
「アンドラ様の話では奴隷としてとらえられていた方々が何人か戻ってきたようです」
「どうやら、ベルネット先生の知り合いが助けてくれたみたいだよ」
「そのようですね。ですが、アンドラ様が調べました人数と照らし合わせますと、一割にも満たない数字だそうです」
「イエッツェはどれだけの人を攫ってきたんだよ」
カインは奴隷としてさらわれた人たちのことを考えると怒りが込み上げてきていた。
「実はその奴隷だった方からお話を聞くことができたそうです。カイン様、覚悟してください。ここから先の話は、正直申し上げますと、子供のカイン坊ちゃまにはお聞かせするお話ではありませんので」
「構わない。セヴァス、話してくれ」
「カイン坊ちゃまならそういうと思いました。では・・・」
セヴァスの話はあの何事にも動じないカインが気分を悪くするほど、おぞましい話だった。




