93 裏で暗躍している人ほど良い人が多い気がしますが、大丈夫ですか?
「よく場所まで特定できましたね。アンドラさんの情報ですか?」
「まぁ、それもあるけど、もう一つは自称悪徳商人からの情報からかな」
「自称悪徳商人?その人は安全な人なのですか?」
国王ダタンとの話を終えたカインとベルネットは話しながらカインの部屋に向かっていた。
「バーディおじさんはグレテス王国の人でね。裏では良くない噂が立ってるけど、それは見せかけでね。あえて、自分で嘘の噂を流しているの」
「なぜ、そんなことをするのですか?」
「だってそんな噂をされている人が、本当はとんでもなく良い人だと思わないだろう?」
研究で訪れていたグレテス王国でバーディという名のいかにも悪人面に男にベルネットは出会った。当時ベルネットはまだスチアート学院の生徒であった。
ベルネットはバーディの名前だけはすでに知っていた。どんなか顔をしているのか興味津々だったが、しかし、行く町行く町要注意人物として張り出されている似顔絵は、名前以外は全て顔が違った。バーディという名も本当の名前かすら怪しかった。
願わくはバーディに出会いたいと思っていたが、そんなこともなく明日にはフェーズに向かう日になっていた。研究も特に新たな収穫もなく、適当に町をぶらぶらしながら歩いていた。
(後をつけられている・・・はぁ・・・めんどくさっ)
ベルネットは気づかれないように進路を変え、敵を撒いていた。
(もうさすがに大丈夫でしょう)
路地裏に隠れていたベルネットは再び表通りに出ようとした時、後ろから肩をつかまれた。
「嬢ちゃん、まだ危険だよ」
男はそのままベルネットの口を塞ぐとベルネットを影に隠し、表通りを観察していた。
「くそっ、あの女、どこ行きやがった!捜すぞ!」
数人の男はどこかに走り去っていった。
男たちが走り去ったのを確認して、ようやく口を塞いでいた手を離してくれた。
(この人・・・どっかで見たことが・・・)
ベルネットは別の町で見た張り紙の似顔絵の男の顔を思い出した。目の前にいるのがその男だった。
「嬢ちゃん、人気者だね。気を付けないとだめだよ。たぶん金持ちの令嬢だと思われて連れ去られるところだったと思うよ。君はスチアートの者・・・だよね?」
「はい、そうです。なぜ、わかったのですか?」
「いや、わかるでしょ。周りの人見てみなよ」
グレテス王国の人は基本肌の色が黒い。今では他国との混血も多く、色の白い人もいるが、それでもベルネットほど白くはない。それに加え、服装のセンスも違う。グレテス王国は原色を好む傾向があるが、スチアートは淡い色合いが多い。明らかにベルネットは浮いていた。
「今度、グレテス王国に来るときは肌を黒く化粧しないとね。それと、もっと派手な服装でね」
「はい・・・そうですね」
(本当にこの人・・・あのバーディなのだろうか)
噂に聞いていた人物像と驚くほど真逆で、自分のかけている眼鏡の度があっていないのではないかと思うほどだった。
「あの、バーディ・・・さんであっていますよね?」
「あぁ、そうだよ」
「えっ?」
驚くほどあっさり認められ、ベルネットの方が焦っていた。
「俺の名はバーディ。あちこちに張り紙されている悪徳商人さ。嬢ちゃんの名前は?」
「あっ、はい。ハナ・ベルネットです」
「ハナ・ベルネット・・・へぇ、あの捨てられたイエッツェの王女と同じ名前なのか」
ベルネットは一瞬動揺してしまった。ベルネットにとってイエッツ王国の王女であることは捨てた過去だった。自分で思い返すことはなく、ここ数年、誰もその話題にすることはなかった。
なのにバーディはイエッツェ王国の捨てられた王女について知っていた。
バーディはベルネットの一瞬の動揺を見逃さなかった。
「なるほど・・・嬢ちゃん、ついてきな」
ベルネットは訳も分からず強面三人の男に囲まれながら、怪しげな場所に連れて行かれた。
「それで、その後は大丈夫だったのですか?」
「私も相当ビビッていたんだけど、なぜか宴会に招かれてね。仲良くなって。それからかな。グレテスに行くたびに世話になってね。本当に親戚のおじさんみたいな人で。悪徳商人として名を売っている裏で、本物の悪人を懲らしめて、困っている人を助けていたんだよ。すごい人なんだよ」
(その人もベルネット先生のこと見捨てられなかったんだろうな)
ベルネットは不思議な魅力を持っている。かなりの変人で自由人なのだが、過去に親から捨てられたせいなのか、時々、ふと悲し気な表情をみせる。この表情を見た時、子供のカインでも守ってあげないとと思ってしまう。
「それで、ベルネット先生はバーディさんの本当の顔を知っているのですか?」
「知らないよ。本当は知りたいし、興味深いけど、まぁ、教えてくれるまではいいかな。私と会おう時はいつも同じ顔だけど」
「たぶんきっとその顔が・・・」
「ん?何?」
「いえ、何でもありません」
ベルネットに見せている顔がきっと本物の顔なのだろうとカインはなんとなく思った。
カインとベルネットがカインの部屋の前に来るとマリーが部屋の外に立っていた。
「どうしたの?マリー、何で中に入らないの?」
「カイン様、お待ちしておりました。王女殿下たちがお待ちです」
「相変わらず、モテモテだねー。それじゃあ、私は学院に帰るよ。じゃあね、カイン君」
カインとベルネットは部屋で今後の奴隷救出に関して、話し合うつもりだったが、思わぬ客が訪れていた。空気を察したベルネットが帰ることにした。こういう時はきちんと大人な対応ができるベルネットである。
「申し訳ございません。ベルネット先生。また、お誘いしますね」
「待ってるよ!」
カインはベルネットを見送り、部屋の中に入った。
「デジャブかな?」
カインが部屋に入るのと同時にアイビーがカインの胸に飛びついていた。




