92 真剣な話をしているのに国王様の前に無断で現れて、大丈夫ですか?
「カイン、スパイはこの三人なのか?」
「・・・そう・・・だと思います」
「はっきりしない物言いだが大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。この三人です」
(ここに来るまでにセヴァスからの報告を聞いていたけど、そう言えば人数までは聞いてなかったような・・・セヴァスのことだから全員捕まえているでしょう・・・たぶん)
カインは不安になりながら、自分の影をチラチラ見ていたが、セヴァスはどこかに行っているようで気配が全くなかった。
捕まった男たちはセヴァスに相当痛めつけられたのだろう。皆、白目をむいて意識を失っていた。一人は全身黒ずくめの服を着ており、他の二人は護衛騎士の恰好をしていた。
「黒服の男が主犯で護衛騎士の二人は見張りか何かで雇われたのでしょう」
「金で雇われたのか?まさか?護衛騎士の報酬は金に困ることはないだろう」
「いえ、お金ではないと思います」
「では、何なのだ?」
「それは・・・」
カインは本当はセヴァスから聞いていた。しかし、国王には言いづらかった。真実を話すと捕らわれた男たちが確実にその場で殺されそうだと思ったからだ。
「では、ダリアを攫おうとした目的は何なのだ?魔族が関係しているのか?」
「いえ、今回の事件、魔族は関係ありません。事件の本当の犯人はイエッツェ王国第一王子ライラン・イエッツェです」
「何だと?」
スパイを見つけ、ダリアの部屋で縛り、丁重に拷問という名のおもてなしをしながら、セヴァスは全ての情報を聞き出していた。さすがに魔族のセヴァスに王宮騎士であってもかなう訳もなく、恐怖で怯えた三人は決壊したダムのようにべらべらと話した。
黒服の男は護衛騎士として王宮内の見張りをしていた。親子ほど年が離れているダリアに近づきたいと思っていた。その想いは日に日に強くなっていた。これは、尊敬や憧れではなく恋慕である。その想いが叶うことなど到底無理な話なのだが、こういう男に目につけるところは勘が鋭いと言えよう。ライランは出場することはなかったものの、一応イエッツェ王国の第一王子である。そのためバルチャに招待されていた父セシルと共にスチアート王国の王宮に来ていた。アベルとの一件もあり、どうしてもダリアを手に入れたかったライランはダリアに熱い視線を送る男を見て、ある作戦をひらめいた。
男に近づきこう告げた。
「ダリア王女殿下がほしいのか?」
男は最初こそは否定していたものの、最終的には自分の欲求が勝ってしまい認めてしまった。
ライランはその男にダリアを誘拐するよう要求してきた。
「私がダリアを助ければよい。そしたら私はダリアの命の恩人だ。そうすればスチアートの国王も私の要求を呑むだろう。ただ、誘拐して監禁している間はダリアを好きにしてよい。ただし、身体には傷を残さないように。それ以外だったら、何をしても良い」
ライランは男にはこう言ったものの、計画では、ダリアが誘拐されたらすぐに誘拐した男たちを捕らえ、違った形で国王に自分を売り込むつもりだった。
しかし、男の不注意により全てが明るみになってしまった。
「ライランはこの近くにいるのか?」
「おそらく王宮の外で待機しているはずです。今頃は焦っているのではないでしょか?予定の時刻はとうに過ぎているはずですから」
「そうか。外の騎士に捜させよう」
国王ダタンはすぐさまライランを捜すよう命令を出した。
「それでダリアはどこにいるんだ?」
「安心してください。アイビー王女殿下の部屋で保護していますから」
「そうか」
国王ダタンは大きな安堵のため息をつき、カインと共アイビーの部屋へ向かった。
騎士たちが捕らえた三人の男は牢獄の中で舌を噛み切り自害していた。
そのため、ライランが関与したことの証言が得られず、他国の王子であることもあったが罪には問われなかった。しかし、王女殿下たちの身を守らないといけないため、イエッツェ王国へ強制帰国となった。もちろん、ライランについてきたベッグとネヴィルも共に帰国した。
「今回は助かったぞ、カイン。我が娘の危機を救ってくれたな」
「いえ、僕がたまたま聞いていただけです。僕もダリア王女殿下も運が良かっただけです」
「カインを王宮に連れてきて正解だったかもな」
「そう言っていただきありがとうございます。それと、国王様、例の件ですが・・・」
二人が神妙な面持ちで重要な話をしていた時、その空気をぶち壊す人物が現れた。
「国王様ー!!!ぜひお話したいことがー」
「ベルネット先生?」
「カイン君!君もここにいたのかい?」
(というかこの人どうやって入ってきたのだろう・・・扉の外には護衛騎士がいるはずなのに)
「またか・・・」
国王ダタンは慣れているのか、特に咎めることもなく呆れていた。
「それで、ハナ。どうした?」
「はい、国王様。イエッツェ王国の奴隷たちがどこにいるのか大体の場所をつかむことができました」
「それは本当か?」
「はい、間違いありません」
ベルネットの話の報告は、まさしく奴隷救出への光の道筋だった。




