91 王女殿下に危険が迫っていますが、大丈夫ですか?
夜も更け、皆が寝静まっている頃、怪しげな男がある人物の部屋に忍び込んでいた。
(寝てる寝てる・・・しかし、まだ十歳か・・・うーん・・・もう少し成長させてからの方が楽しめるか)
男が高級な羽毛布団をはがし、意識を失わせるために口元を塞ごうとした瞬間、男は子供の顔を見て驚いた。
「お前、誰だ!ダリア様じゃないな!」
「ご名答」
そこには長髪のウイッグを被った幼い少年がいた。
男は顔を見られてしまったため、その少年を殺そうとしたが、気づけば自分の方が絨毯の上に転がっていた。
「貴様は・・・誰だ・・・」
「さぁ、誰でしょう?」
男は少年からもう一発くらい気を失った。
「さすがカイン坊ちゃまですね。私が手を出す暇さえありませんでした」
「僕を誰だと思っているの?それより、早く国王様に知らせなきゃ。セヴァスはこの男を縛って、情報を聞き出して。あと何人この王宮にスパイがいるのか。それと目的もね」
「承知しました」
カインは速やかに国王へ報告に向かった。
「さて、どう料理いたしましょうか?」
目覚めた男に待っていたのは恐怖と絶望だった。
「ダリア王女殿下、アイビー王女殿下、カイン様が無事に男を捕らえたようです」
「カイン様は大丈夫なのですか?」
「はい、ご無事です」
マリーからの報告を聞き、ダリアとアイビーは力が抜けたように、崩れ落ち、ほっとしていた。
「私はカイン様から頼まれていることがありますので、これで失礼します」
ダリアとアイビーはマリーにお礼を述べ、見送った。
「アイビーの話が本当だったわ。疑って悪かったわね」
「いいえ、私もカイン様からお話を聞いた時は信じられませんでした。まさか、この王宮にお姉様を誘拐しようとしている人がいるとは」
侍女ルーシーはダリアの背中を優しくさすり、安心させていた。
「お姉様、今夜は私の部屋で一緒に寝てください」
「・・・えっ?何かあったの?」
昨夜ダリアの部屋を訪ねて来たアイビーが不安そうな表情で添い寝を要求してきた。
数年前までは一緒に寝ることはあったが、ここ数年は一度もなかった。それは、王宮のしきたりとして、早く自立させるため、非常事態が起きた時以外は姉妹であっても一緒の布団で眠ることはなかった。
アイビーは末っ子であるため、少し甘えん坊な所もあるが、基本的には従順で何事にも柔軟な子である。ダリアも次期女王に相応しいのはアイビーではないかと思う時期もあるほどだった。
「実はですね・・・カイン様が・・・」
「カインがどうかしたの?」
アイビーはカインがトイレで聞いた話をもとに今夜起こりえる事件について推測を、全てダリアに話した。
アイビーの話を聞いたダリアの顔は青ざめていた。
「アイビー、それは本当の話なの?」
「はい、でも安心してください。カイン様がすでに対策を考えておられるようですので。それで、今日はお姉様は私の部屋に泊まってもらうのです。それと、この話はお父様とお母様には知らせないでほしいと」
「なぜ?お父様に話して解決してもらった方が安心じゃない?」
「カイン様が言うには、今の時点で何人のスパイがこの王宮内に紛れ込んでいるのかわからないそうです。ですので、国王であるお父様には知らせない方がいいと。スパイを捕まえるためには」
「なるほど・・・そういうことね。カインは本当に頭が切れるわね」
ダリアは笑うしかなかった。ダリアから見るとカインはすでに神の領域に達しているのではないかと思うほど異常なほど賢い子供だった。だからなのか、カインのことを知るたびにカインへの想いは強くなるばかりだった。
「お姉様、今日は夜更かししましょうか?たぶん私はカイン様のことが心配で眠れないと思いますので」
ダリアはアイビーの笑顔を見ると胸が苦しくなっていた。自分の想い人の正式な婚約者である妹。普通なら憎らしく思うこともあるのだろうが、ダリアはそういうことはなかった。妹の幸せも願っていたからである。
「そうね。久しぶりに夜更かしましょうか?」
仲が悪いわけではないが最近はダリアがアイビーに対し、距離のあるような態度を取っていた。アイビーは気づいてはいたが、アイビーの接し方は変わらなかった。アイビーはダリアのカインへの気持ちを知っていて、自分を婚約者として国王に推薦し、婚約者となった。カインに対して好感は抱いていたものの、はじめは姉に譲る気でいた。しかし、今はアイビーもカインに対して本気で恋をしていた。カインの正妻は自分でありたいと思いが強くなっていた。そのため、アイビーはダリアへの罪悪感を少しだけ抱いていた。
少しぎくしゃくしていた関係だったが、今この瞬間はただの仲の良い姉妹にしか見えなかった。
その様子は微笑ましく、二人の侍女のルーシーとエバンは優しく笑いかけながら、見守っていた。
「何だと?」
急いで呼び出された国王ダタンは寝巻のままカインと会っていた。
「スパイを王宮から一歩も出すな!!!」
「国王様、それには及びません。すでにスパイは捕まっているころだと思いますので・・・」
「何だと?」
「国王様、騎士団を数人呼んできてください。僕がスパイのもとに案内します」
普通なら子供の戯言にしか聞こえないのだが、カインは普通の子供ではない。
「わかった。カインの言うとおりに手配しよう」
「ありがとうございます、国王様」
カインと共に向かったダリアの部屋には三人の男たちが手足を縛られており、意識を失っていた。




