90 偽物だとわかったら偽物にしか見えないのですが、大丈夫ですか?
イエッツェの王宮に無事についたザインはホッとしていた。
(何とか誰にも悟られずに王宮に戻れたな)
ザインは部屋で着替え、足早に国王のもとに向かっていた。
(さて、あの件をどうするかは後で考えることにして・・・国王様にカイン・デイヴィスの件はどのように報告しようか・・・)
ザインが王宮から出ることができたのは、国王の命でもあるカイン・デイヴィスをイエッツェに取り込むため、偵察と計画を練るためという名目があるからだった。まさか、国の情報を勇者に話し、イエッツェを裏切ろうとしているとは国王も夢にも思っていなかっただろう。
ザインの息子、ペッグ・ロペスをイエッツェ王国第一王子ライランと共にスチアート学院に同行させたのも、一つは何かザインが謀反や反逆を起こそうとした場合、息子を人質にすることができる。もう一つは、ライランが国王になった時に、ペッグを宰相とするためだと考えられる。抜け目のない国王である。今の国王は。
(まずは疑われないようにしないと。この国の民を守るためにも・・・)
ザインは当たり障りのない答えを用意して、国王への報告に向かっていた。
「ロペス宰相」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、振り返った。
「・・・フォックス宰相?・・・どうされましたか・・・」
本物のハワード・フォックスではないと知ったからか、あれだけ本人と信じていたのに、今見ると別人にしか見えなくなっていた。
「例の件はどうでしたか?」
「えぇ、まぁ、ある程度の情報は得られましたが」
「そうですか・・・カイン・デイヴィスにはお会いしましたか?」
「・・・いえ」
何か探られているような質問と口調にザインは緊張していた。
「わたくしはイエッツェ王国に天下を取らせるために来たのです。ロペス宰相・・・期待していますよ」
「ありがとうございます」
「では」
(一体何だったのだろう・・・)
ザインは偽ハワードが何を聞きたかったのかいまいち理解できなかった。
(タイミングを間違えたかな・・・)
ザインは国王への報告を終え、国王からの言葉を待っていた。しかし、国王は別のことが気がかりなのかソワソワしているようだった。
「国王様、お話し中、申し訳ありません。グレテス王国の商人との取引の件ですが・・・」
「おぉ、それで、バーディは何と?もう少し待ってくれそうか?」
「それが・・・」
交渉役を担っていた男は恐る恐る事の顛末を報告した。
その報告中に偽ハワードも加わってきた。
男の報告に国王セシルは気が狂いそうなほど発狂していた。
男の報告によると、以前は奴隷を買う条件としてイエッツェ王国第一王女であるハナ・イエッツェとの婚姻を提示してきたが、なぜか急にその婚姻の白紙を要望してきた。ただし、婚姻を白紙にしても奴隷は買うことは承諾してくれていた。イエッツェには今必要なのは何よりもお金である。ハナ・イエッツェをイエッツェに連れてこれない今、こんな好条件な話はなかった。イエッツェ側はこの話を快く承諾した。
奴隷の健康状態を確認したいということで引き取る奴隷たちを確認する場を設けていた。簡単な確認をするとバーディは快く全ての奴隷を受け入れることに同意した。お金を用意するのは明日だということで、一日待つこととなった。イエッツェ側は油断しているせいか、お金が入ることを喜んでいた男たちは、待たせて申し訳ないといってバーディが持ってきた大量の酒を、豪快に飲んでいた。そのため、奴隷を監禁している牢屋の警備が手薄になっていた。
翌朝、男たちが目を覚ますと奴隷がいたはずの牢屋はもぬけの殻だった。
交渉役兼責任者だった男は、グレテス王国にいるスパイにバーディについての情報を聞き出すと、バーディはグレテス王国では有名だった。ただし、裏の世界ではの話。その正体は百の顔を使い分ける悪徳商人だった。本当の顔さえ誰も知らない有様だった。
イエッツェは金もうけのための奴隷を失った挙句、お金も手にすることができなかった。
「ザイン・・・その男を殺せ」
「・・・承知しました」
ザインは表情にこそ出さなかったが、男の首を斬る手は震えていた。
(申し訳ない・・・今は私は疑われてはいけないのだ)
男の失態で頭がいっぱいの国王セシルはザインのことを少しも疑うことはなかった。
「くそっ!!ザイン、後はお前に任せる」
国王は子供のように足をドスドスと音を立てながら、自分の部屋へと戻っていった。
当たり前のように国王セシルの後ろについて行く偽ハワードは、腑に落ちない顔をしていた。
ザインは何を考えているのか悟られないよう、一礼した。
偽ハワードは立ち止まり、ザインに軽く微笑んでから去って行った。
(何だあの微笑みは・・・一先ず難は逃れたかな)
ザインは声に出るほど大きなため息をついた。
「さすがバーディおじさん、やってくれるじゃないか。これで奴隷の件は一歩だけ前進だね」
ベルネットはサンドイッチを頬張りながら、バーディからの手紙を読んでいた。




