89 王宮のトイレでたぶん聞いてはいけない話を聞いてしまったのですが、大丈夫ですか?
「それで、どうだった?」
「結論から言うと、新しい情報はありませんでした」
「何か知っていると思ったんだけどな・・・」
カインとセヴァスは王宮のトイレの個室で話していた。
カインはスチアート学院の先生に扮していたウィロウという魔族がカインの母親のことを口走っていたことふとを思い出した。それで、セヴァスに母親の情報を聞き出すように頼んでいた。
「ウィロウも見たのは一瞬だったようです。カイン坊ちゃまは母君と生き写しらしいですよ。よかったですね」
「顔は見たの?」
「はい、そうらしいです。カイン坊ちゃまのお顔を見た時、思い出したそうです。似すぎいて大変驚いたそうで。ウィロウが言うには母君は人族のようで、人族ではない感じだったと。言っている意味が分かりませんでしたが、ウィロウ自身もそれ以外の表現ができないと言っていました」
「人族のようで、人族でない?謎だな・・・本当に何者なんだろ、僕の母親は・・・ん?」
カインはトイレに誰か入ってきたことに気づき、セヴァスと共に気配を消した。
「カイン坊ちゃま、普通に出ればよろしいのでは?」
「それもそうなんだけど・・・」
「もしかして個室から出るのを恥ずかしがっているのですか?」
「いや、別に恥ずかしいわけではないんだけど・・・」
トイレで用を足している男が意味深な言葉をボソッとつぶやいた。
「今夜・・・決行か・・・楽しみだな・・・」
(???)
(どういう意味でしょうか?)
カインとセヴァスは男の言葉が気になり、聞き耳を立てていた。個室に入っているのがバレないように、音を立てずにあえて鍵を開けた。
「・・・王女殿下を・・・くぅーっ、想像しただけで楽しみだな・・・おっといけねぇ。誰もいないよな」
男は個室に誰かいないか振り返って確認したが、全て空きになっていた。
「よかった・・・誰もいなかった・・・」
男は上機嫌にトイレを去って行った。
ゆっくり扉を開け、男がいないことを確認し、カインはセヴァスに命じた。
「セヴァス、あの男の後をつけろ。ただし、あの男が何者か探るだけでいい。王女殿下たちや侍女とかに何かしようとしたときだけ捕まえて。でも、気づかれないようにやってよ」
「なかなか難しいことを言いますね。承知いたしました」
セヴァスは瞬時に男の影を追った。
(王宮の中にスパイが?音しか聞こえなかったけど、剣を腰にぶら下げている音が聞こえていた。王宮で剣を持つことができるのは護衛騎士か牢獄の守護兵。王宮に忍び込むのは相当難しいはずだ。どうやって入ってきたのだろ・・・なるほど、バルチャの時か。ということはそれなりの身分なはず。口調からして貴族には感じなかったけどなぁ)
カインは王宮に訪れた危機を回避するため、ある作戦を考えた。
「アイビー殿下、カイン様がお見えです」
アイビーはドキドキしながらエバンに自分の身だしなみが問題ないか尋ねていた。
「アイビー殿下、大丈夫ですよ。可愛らしいですよ」
アイビーは胸を高鳴らせながら、カインが部屋に入る瞬間を待ちわびていた。
扉が開き、アイビーは満面の笑みで出迎えていたが、カインの表情はいつも以上に険しかった。
「カイン・・・様・・・どうされたのですか?」
「アイビー、ちょっと相談があるのですが」
「はい?」
アイビーはエバンに紅茶の準備を頼み、カインと向かい合わせでソファーに座った。
カインの真剣な表情に、アイビーは緊張していた。
エバンが持ってきた紅茶を一口飲むとカインがようやく口を開いた。
「王宮の中にスパイが紛れ込んでいます」
「何ですって!」
アイビーより侍女のエバンの方が驚いていた。
「カイン様、どういうことでしょうか?もしかしてカイン様が狙われているのですか?」
「いや、今回は僕ではないみたいです。たまたまトイレに行った時に聞いたのですが・・・」
カインの話を聞き、アイビーとエバンの顔は青ざめていた。
「カイン様、その者をそのまま行かせたのですか?」
「エバン、そんなことするはずないでしょ。大丈夫です。僕の優秀な護衛に後をつけさせましたので」
「それならよかったです」
エバンは胸をなでおろしていたが、アイビーは首を傾げていた。
(カイン様に護衛なんていたかしら?いつもマリーしか側にいなかったはずだけど・・・)
「どうしたのですか、アイビー?」
アイビーがカインの顔を見ながらじっと考えているようだったので、カインは心配になり声をかけた。
「いえ、カイン様の護衛って誰かなーと。私の知っている人ですか?」
(まずい、つい言ってしまった)
セヴァスをことをアイビーに知らせるにはまだ早いと考えたカインは咄嗟に適当に誤魔化した。
「ふーん・・・」
「何か信じてもらえてないみたいですね」
「一応、信じますよ。でも、カイン様。私はカイン様の婚約者ですよ。隠し事はしないでくださいね・・・・あとは他の女の子にあまり優しくしないでください・・・」
「ん?最後に何て言いましたか?」
「何でもないです」
「それで、カイン様。どうなさるおつもりですか?」
「あぁ、そのことですが、今日・・・」
アイビーはカインの提案に快く応じた。しかし、アイビーはある条件を出した。
「・・・それは絶対に応じないといけませんか?」
「はい。私は協力するのですから、報酬がないとやる気が出ません」
「やる気って・・・アイビーは特に何もしなくていいのではないですか?」
「何を言っているのですか?十分カイン様のために尽くしているではないですか」
「まぁ・・・そうですね。わかりました」
「やったー」
将来、アイビーを妻に迎えると尻に惹かれそうな気がしたが、そんな未来も悪くないかと考えながら、これから敵に立ち向かうのに、優雅に紅茶を飲むカインであった。




