87 二人の王女を悩ませている張本人はいつも通りのようですが、大丈夫ですか?
カインとベルネットが王宮に戻る前、二人はある人物をアンドラに紹介していた。
「カイン君、ハナ。例の件は任せたよ」
「お任せください」
「そうだ、カイン君。アンドラにも紹介していたほうがいいかもよ」
「???誰を紹介するのですか?」
ベルネットはカインの影を指さしていた。
「あぁ・・・そうですね。アンドラさんの情報を知るには、それが早いかもしれませんね。セヴァス、いる?」
「お呼びでしょうか、カイン坊ちゃま」
カインの影から現れたセヴァスを見て、アンドラは威嚇しながら、ベルネットの後ろに隠れた。
「アンドラさん、大丈夫ですよ。この執事は僕の執事でセヴァスと言います。見てわかるように魔族ですが、僕の命令がない限り、攻撃しません。安心してください」
カインがそうは言うものの目の前にいるのは、あの怖ろしい魔族だ。そう簡単に信じることができなかった。
「ハナ・・・本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。私から見るとお茶目なおじいちゃん執事にしか見えないし」
「お茶目?」
アンドラは改めてじっくりとセヴァスを観察した。おじいさんではあるが背筋はピンと伸び、出で立ちは普通の執事と変わりない。むしろ、普通の執事よりダンディで、年の割に男前である。見せる笑顔も穏やかで、魔族だと言われなれば全くわからない。しかし、時折見える、右目の赤い瞳が目の前にいる執事が魔族であることを印象付けてしまう。
「よろしくお願いいたします。アンドラ様」
「あぁ・・・お、お願いします」
「アンドラさん、何か情報をつかんだら影に向かって、セヴァスの名を呼んだら、来ると思いますから。何か危険なことが起きた時も頼ってください。僕の仲間になった人は皆守ってくれますから」
「最優先はカイン坊ちゃまですが、それ以外ならお守りいたします」
アンドラの目から見ると、礼儀正しい魔族の執事はカインを溺愛しているようだった。カインに向ける眼差しはまさしく自分の可愛いい孫を見ているようだった。その光景を見てようやくセヴァスに対する警戒心が和らいでいった。
「わかった。セヴァスを信用するよ。何か情報が入ったら、知らせるよ」
「お願いします。では、僕たちは王宮に戻ります。奴隷の件について何か動きがあったら、セヴァスから報告させます」
「あぁ、待っているよ」
「では、また。アンドラさん」
「カイン君、ハナ。よろしく頼むよ」
「了解!」
「アンドラさんにセヴァスを紹介したのは正解でしたね」
「でしょう?そう促した私を褒めたたえよ」
「・・・すごい、すごーい」
カインは拍手をしていたが、その顔は真顔で、言葉も棒読みで全く心がこもっていなかった。
「カイン君、もっと感情込めて」
小さな子供がやるようなやり取りを二十になる大人が熱くなり、七歳の子供が面倒だと思いながらも付き合ってあげる。その二人の関係性に可笑しく思いながらも、何も言わずにただ黙って見守っているセヴァスであった。
(はぁ・・・早くカイン様、帰って来ないかな・・・)
アイビーは自分の部屋のバルコニーに出て、夜空の星を眺めていた。
「アイビー殿下、風邪を引きますよ。中に入ってください」
侍女に促され、ベッドに入ったアイビーはカインのことで頭がいっぱいだった。
(何で私、あんなことをしたのだろう・・・私としたことが・・・)
アイビーはカインに無理やりキスしたことを思い出し、一人悶絶していた。
(何私焦っているのかしら・・・カイン様は私の正式な婚約者なのに)
あの時のアイビーは不安で仕方がなかった。いつの間にか姉のダリアがカインのことを呼び捨てで呼んでいたからだ。カインもそのことを気にしている素振りもなかった。姉にカインを取られるのではないかと不安で思わずあのような先走った行動をとってしまった。
(どうしよう・・・もしあの時本当は嫌だとカイン様が思っていたなら・・・でも、うれしかったな・・・)
再びあの時の唇の感触を思い出し、ベッドを右往左往にゴロゴロしながら、なかなか寝付けないアイビーであった。
その頃、もう一人、なかなか寝付けない人がいた。
(カインとアイビーが・・・カインとアイビーが・・・)
ダリアの頭の中でカインとアイビーがキスしたあの瞬間の映像が頭から離れなかった。
(はぁ・・・先越されたか・・・アイビーがあれほど積極的な子だとは思わなかったわ・・・でも、カインはあの子の婚約者・・・なのよね)
いくら好意を抱いたとしても結ばれることのない運命。わかってはいてもダリアはカインへの想いを断ち切ることができなかった。
(そうよ!カインが私とアイビー、二人とも妻にすればいいのよ。お父様はお母様しか妻にしなかったけど、スチアートの法律では問題ないはずだわ。そうよ・・・名案だわ)
ダリアの思考は思わぬ方向に向かって行っていた。




