84 緊張感のない人たちと一緒にいますが、大丈夫ですか?
「カイン君ー、ごめんって。機嫌直してよ」
獣人族アンドラともう一度会うために獣人の国へ再び向かっていたカインたちであったが、カインの機嫌がすこぶる悪かった。野菜ジュースの一件でカインはベルネットに対して怒っていたからだ。
ベルネットはカインの機嫌を直すよう、横目でセヴァスをチラチラ見ながら訴えていた。
「カイン坊ちゃまも悪うございますよ。調べもしないで飲んだのですから」
「だって、まさかあんなもの出すとは思わないでしょ?普通に美味しかったし・・・耐えた僕を褒めてほしいぐらいですよ」
「カイン君は凄いよ。普通の男なら間違いなくリン姐さんを襲っているはずだから」
ベルネットは親指を立て、カインを褒めているようだったが、カインからすると面白がっているようにしか見えなかった。
(ベルネット先生はこういう人だったよな・・・前にも服脱がされたし)
「カイン君ー」
拗ねたカインはすがりつきながら謝罪するベルネットを無視していた。
「それで、セヴァス、お父様に呼び出された用件は何だったの?」
「その件ですが・・・」
セヴァスはカインにアーサーとのやり取りをアーサーのものまねも交えながら報告した。
ベルネットはセヴァスがするアーサーのものまねに大爆笑していた。それを冷めた目でカインは見ながら、冷静に分析していた。
「イエッツェ王国の宰相が訪ねて来たのか・・・イエッツェ王国が崩壊しているんだな」
宰相とは国王の右腕として国王と民のために尽くし、国でも国王に次ぐ地位を有している。宰相の立場にいる人は基本的に有能な人であるため、他の人、ましては他の国の公爵家に頼ることなどまずない。それでも、勇者とはいえ他国の公爵家に頼らざるを得ない状況とは、国内の中枢を担っている貴族たちが腐敗している証拠でもある。
「そしてもう一つあります。イエッツェの国王に近づいているのは、バルチャでヴェルナー様を魔獣化させた魔族です。この分だと、イエッツェの国王も操られているか、もしくはすでに亡くなっている可能性もありますね」
「そもそもその魔族の目的は何なの?」
「それは一つだけですよ。カイン坊ちゃまを魔王にすることですよ」
「・・・だよね・・・そんなまわりくどいことをせずに直接僕のところに来たらいいのに」
「ではカイン坊ちゃまは、魔王になってくださいと言われたら、素直に魔王になるのですか?」
「ならないに決まっているよ」
「そうでしょう。だからこそ回りくどいことをしているのですよ。カイン坊ちゃまが魔王にならざるを得ない状況を作るために」
カインも十分わかっていた。自分が生きている限りは魔王の座に座れるのは自分ただ一人である。カインには素質も能力も十分備わっている。しかも、まだ七歳という幼い子供だ。魔族が自分の思い通りに育てることができる年齢でもある。そのため、カインがいくら魔王になりたくなくても、魔族は遠回りをしてでもカインを魔王にしようと画策しているのである。
「もしかして僕、もう一度狙われる?」
「そうでしょうね・・・一度ならず、何度でも狙われるでしょね。しかし、カイン坊ちゃまなら上手くかわせるでしょう」
「僕が一度操られたの知っているでしょう」
「今ならもう操られることもないと思いますよ」
「そうだといいけど」
カインはなぜか不安に駆られていた。自分には間違いなく魔族の血が流れている。今はそれが表に出てくることはないが、今後もずっとそうだとは限らない。カインの頭の中には父アーサーの腕を斬った時の感覚が呼び起こされていた。
(あんな思いは二度としたくない)
苦しい表情で外を眺めているカインをベルネットは温かく包み込んでいた。
「やはりご存じでしたか」
アーサーは国王ダタンにイエッツェ王国宰相ザイン・ロペスとの密談を全て報告した。案の定、宰相ハワード・フォックスの偽物がイエッツェの国王に近づいていたことは知っているようだった。
「きっとその偽ハワードもねちねち小うるさいのだろうな」
「国王様、それはどういう意味でしょうか?」
怖ろしいほど満面の笑みを見せているハワードに一国の王が苦笑して誤魔化していた。
「それで国王様。実はザインにはある提案を提示しまして・・・」
「なるほど。それは妙案だ。しかし、ロペス宰相には少々危険だと思うが・・・」
「それぐらいの覚悟を持たないとイエッツェの民を守ることはできません。それに、我が息子も関わっています。カインは優秀ですが、まだまだ子供です。魔族は何としてでもカインを攫いに来るはずです。それを阻止するためにも、私も命を懸ける覚悟しています。ロペス宰相にも守るべき家族がいます。きっと覚悟はできているはずです」
アーサーの力強い言葉に国王ダタンは深く頷いた。
「それで国王様、お願いがあるのですが・・・」
「ほぉ・・・それは私も同行したいな」
「さすがにそれは無理かと。とても危険ですから」
「残念だな・・・アーサー、報告を期待して待っているぞ」
「お任せください」
面白がっている国王ダタンの隣で、ハワードは大きくため息をつき呆れていた。




