83 難攻不落の国が今のところ一枚上手のようですが、大丈夫ですか?
「ハワード、まさかお前が裏切るはな・・・余は悲しくて・・・」
わざとらしい泣き真似をする国王ダタンを宰相ハワード・フォックスは冷淡な目で見ていた。
「国王様・・・冗談もほどほどにしてください。わたくしが国王様を裏切るわけがないでしょ」
ハワードは困惑した表情で国王ダタンの冗談を交わしていた。
「あっはっはっはっ・・・しかし、魔族もよく考えたものだな。ハワードを使うとは・・・」
「アルバート、何か勘違いをしていないか?あのフォックス宰相がダタンを裏切るわけないだろ?国王と国のためなら躊躇なく命を捨てるような男だぞ?」
「えっ?でも先程ザイン様がおっしゃられたではないですか。イエッツェの国王の前に現れたのは、フォックス宰相だと」
ザインもアルバートの発言に同意していた。
「そんなの決まっているだろう?イエッツェの国王の前に現れたのは偽物だよ」
「偽物?」
ザインもアーサーの言葉に驚いていた。
「アーサー様、お言葉ですが、あれはフォックス宰相そのものでしたよ。私はお会いしたこともございます。見間違えるわけが・・・」
「ある筋からの情報なのだが、魔族の中に実際にいる人物を作り出すことができる奴がいるそうだ。その人物は例の事件にも関わっていた奴さ」
「もしかしてバルチャですか?」
「そうだ。でもこの魔族がとても厄介な奴らしくて・・・詳しくはまだ話せないのだが・・・」
ザインは信じられなかった。国王の前に現れたスチアート王国宰相ハワード・フォックスは、話し方、動き、頭の回転の速さ全てが本人そのものだった。疑うことさえしなかった。
「私にはまだ信じられません。もちろん同じ宰相の立場としては国を裏切る宰相などいないと思っていますが・・・」
アーサーとアルバートは顔を見合わせて笑っていた。
「何かおかしなことを言いましたか?」
「えっ?いや、スチアート王国の公爵家の私にイエッツェの内情を話している時点でザイン様も国を裏切っているのと同じではないかと思いまして」
ザインはハッとした顔をして恥ずかしそうに下を向いていた。
「わかっていますよ。ザイン様はイエッツェ王国のことを愛していますよね?ですから、国を助けるために命を懸けてでも私のところに来たのですから」
アーサーの穏やかな微笑みに、ザインは勇気を出して勇者アーサーを訪ねてよかったと心から思っていた。
「それでアーサー様。なぜ魔族は偽物のフォックス宰相を送り込んだのですか?」
「そんなことは一つしかないだろう。スチアート王国は人族最大の権力を有する国だ。魔族がエルフやドワーフ、獣人を制圧するのは容易い事だろう。しかし、スチアート王国はそう簡単にはいかない。なにせ、勇者アーサーがいるからな」
アーサーは自分のことを自慢するために言ったのではない。事実だからだ。魔族を倒すために選ばれたのが勇者という存在だ。魔族の最大の弱点は勇者だと言えよう。そのため、勇者を有するスチアート王国は魔族にとって最大の難攻不落の国と言える。
「まずは国内を乱すためにフォックス宰相を使ったのでしょう。フォックス宰相はスチアート王国の頭脳です。フォックス宰相が国王を裏切ったとなるとさすがのダタンをも処刑せざるを得ないですから」
「でも国王様の側には本物のフォックス宰相がいますよね?」
「まぁ、どうするかまではわかりませんが、何か策があったのでしょう。まぁ、フォックス宰相のことです。私が知らせる前に、もうすでに自分の偽物がイエッツェ王国にいることはわかっているでしょうが」
「さすがですね」
「フォックス宰相とはそういう人ですから・・・それよりも・・・」
アーサーはザインのある言葉がずっと引っかかっていた。
「一つ聞きたいことがあるのですが・・・『国王はあなたの息子を手に入れて、この大陸を魔族と共に支配するつもり』と言ったが、その息子はカインのことですか?」
「はい、そうだと思います。なぜ、あなたの息子を狙っているのかまでは私にはわかりませんが、この大陸を支配するためにはカイン・デイヴィスが必ず必要だ、と言っていました」
(厄介だな・・・カインは大丈夫だろうか?セヴァスの話では今のところ問題はなさそうだが・・・)
カインを本当の息子として育ててきたアーサーはこういう時に改めて思い知らされる。カインは魔王の血が入った魔族の息子だということを。実際にカインがこの大陸を支配することは、いとも簡単なことだと言える。カインの魔力は七歳にしてすでに魔王ベザレルに実力を超えている。将来が末恐ろしい子である。一歩間違えれば本当にこの大陸を支配しかねない。その能力と力はすでに備わっている。
「・・・私の息子には指一本触れさせない」
そう誓うアーサーの眼差しは力強かった。
「もう一つ、聞きたいことが・・・」
アーサーはヴェルナーの家族がどうなっていたのか気になっていた。スチアート学院で保護しているヴェルナーのもとに心配する手紙一つ届かなかったからである。
ザインはヴェルナー・ズオンの家族がどういう結末を迎えたのか話をした。その結末はあまりに残酷だった。話を聞いたアーサーは頭を抱えながらうなだれていた。
「・・・ヴェルナーにどう話すべきか・・・」
ヴェルナーの今後のことを考えるのと同時に、アーサーは事の緊急性を改めて感じていた。
「早く手を打たないと・・・次、また誰かがヴェルナーと同じうように犠牲になってしまう」
アーサーはある決断をザインに告げた。
「ザイン様・・・」
アーサーの衝撃の決断にザインはすぐに答えることができなかった。
「それは・・・」
「すぐに答えていただかなくて大丈夫です。私の独断ですから、国王様にも相談しなければなりません。ザイン様も一度イエッツェに戻られて考えてください。しかし、約束します。もし、協力をしてくださるならば、イエッツェ王国の民は必ず守ります」
「・・・わかりました」
(私も腹をくくらなければ・・・そうしなければ、イエッツェ王国だけでなく、人族すべてが崩壊してしまう)
デイヴィス家を後にしたザインの心はすでに固まっていた。




