82 国の宰相が裏切っているかもしれないのに笑顔を見せるほど落ち着いていて、大丈夫ですか?
「それで、リン姐さんたちを奴隷にしようとしていた人たちはどんな人たちだったのか覚えてる?」
ベルネットは今まで一度もこの件について尋ねなかった。聞きたいことや興味深いことはたくさんあったが、傷口を抉るようで、さすがにベルネットでも聞くことができなかった。今回は奴隷となっているエルフを助けるチャンスでもある。それを手助けしてくれるのは、勇者の一族である。この機会を逃すわけにはいかなかった。
ベルネットの想いを知ってか、リンはためらうことなく話しはじめた。
「・・・人族だったのは間違いないわ。今はハナから人族の言葉を教えてもらったから話せるけど、当時は知らなかったから、何を言っているかまではわからなかったわ。でも、待って・・・今、思い出したら、何て言っていたのかわかるわ」
リンは当時のことを必死に思い出していた。思い出したくない記憶もあるのだろう。口元を押さえ、泣くのを堪えていた。
「思い出したわ・・・男たちはこう言っていたわ。『これで国王様に褒美がもらえる』って・・・」
「なるほど・・・国王が加担するような国は一つしかないわね」
「やはりイエッツェ王国ですね」
リンは急に立ち上がり、外に走っていった。
カインとベルネットは何事かと思い、リンの後についていった。
「リン姐さん、大丈夫?」
ベルネットとカインが駆け寄るとリンは口から血を吐いていた。
「リン姐さん!!」
「大丈夫・・・これくらい問題ないから・・・」
ただでさえ真っ白い肌が、血の気を失ったように青ざめていた。
「あの子たちのことを思い出したら、申し訳なくて・・・なぜ、あんなことをしたのだろうと・・・ハナ、カイン君。どうか・・・どうか・・・仲間を助けて」
リンの後悔の念は、二人に痛いほど伝わった。
「リンさん、大丈夫です。僕が必ず、リンさんの仲間を助けますから」
目の前にいる七歳の子供が、リンには誰よりも頼もしく見えた。
「ありがとう・・・カイン君・・・」
リンはカインを抱きしめ、森の鳥たちが驚いて飛び立つほどの大きな声で泣いていた。
(さて・・・これからどう動いていくのか、考えないとな・・・)
カインはリンが泣き止むまで、今後この問題をどう解決していくか考えていた。
(・・・なんだろう・・・身体が急に・・・熱くなってきた)
カインは急に身体の火照りを感じはじめていた。
カインの異常に気付いたベルネットがニヤニヤしながらこう告げた。
「あぁ・・・一つ言い忘れていたけど・・・あの野菜ジュース、ただの野菜ジュースじゃないよ」
「どういうことですか?」
「うーん・・・エルフが飲めば普通の野菜ジュースだけど・・・人族が飲んだら・・・精力剤かな?」
「!!!」
(七歳の子供に何飲ませているんだよ)
子供とは言え、身体は正直に反応している。
「ベルネット先生はなぜそんなに平気なんですか!?」
「私は自分の身体も実験台の一部なの。今の私にとってエルフの野菜ジュースは、ただの野菜ジュースと変わらないわ」
「騙しましたね」
「子供が飲んだらどんな反応するのかちょっと興味が湧いちゃって」
リンは胸も大きく、容姿端麗である。カインにとっては地獄のような試練だった。
(あとで覚えてろよ・・・)
カインは煩悩を打ち消すために、心を無にし、効力が切れるまで、自分と戦っていた。
アーサーが戻ってきたころにはザインは落ち着きを取り戻していた。
「ザイン様、落ち着きましたか?」
「申し訳ございませんでした」
「いえ、いいのですよ。それより、一つ確認したいことがあります」
「はい・・・」
ザインは冷や汗をかきながら、身構えていた。
「ガドから断られた後に国王様の目の前に現れたのは・・・スチアート王国の宰相ハワード・フォックスだったのではありませんか?」
「なぜそれを!?」
「えっ!?フォックス宰相?」
アルバートは信じられなかった。話の流れからすると、スチアート王国宰相ハワード・フォックスがスチアート王国を裏切り、イエッツェ王国の悪事に加担したこととなる。
(なるほど・・・段々わかってきたぞ・・・)
「どういうことなのですか?そんなはずはありません。宰相が国を裏切るだなんて。アーサー様!」
問い詰めてくるアルバートにアーサーは勝ち誇ったかのような笑顔を見せていた。




