81 蒔いたものは必ず刈り取りますが、大丈夫ですか?
「しかし、今の状況を考えると、弟のガドとの交渉は上手くいかなかったということですか?」
「その通りです」
イエッツェ王国の国王はイエッツェ側からの提案にガドは従うと思っていた。しかし、実際は違った。
ガドはなぜか逆上し、これ以上関わるなら、イエッツェ王国を滅ぼすとまでいった。
「国王様は大変怒りを露わにされていました。ガドが断るとは思わなかったからです。それで、国王様もまさかの展開に悩んでいました。次の手を考えていなかったからです・・・しかし、その時、私たちの前に、ある者が現れました」
「それは誰だ?」
アーサーとアルバートがザインの返答を待っていたが、ザインは申し訳ない表情をしながら、首を横に振った。
アーサーとアルバートは顔を見合わせて、首を傾げた。
「ん?ザイン様はその方と会ったんですよね?」
「・・・はい。お会いしたのは、お会いしたのですが・・・何と言いますか・・・」
ザインのはっきりしない言い方にアーサーは少し苛立っていた。それを感じたアルバートはすかさずこう言い放った。
「ザイン様、はっきり言いまして、私たちがイエッツェ王国に協力する義理はありません。今回のバルチャの件そうです。国王様は抗議さえしていません。なぜだかわかりますか?そうすれば一番苦しむのはイエッツェ王国の民だからです。正直に申しますが、イエッツェ王国はとても裕福な国とはいえません。あなたもわかっているはずです。その原因が何かを。その原因の一人にあなたがいることも私たちは知っているのですよ」
ザインはアルバートの言葉に顔を上げることができなかった。
「アーサー様はフードを被った男があなただと気づいても家に招き、話しを聞いてくださっているのですよ。その意味が分かりますか?」
「もういい。アルバート」
アルバートの訴えかけるような言葉を聞き、苛立っていたアーサーも冷静さを取り戻していた。
「わかっています・・・私は自分と自分の家族を守るために・・・苦しむ民を・・・見て見ぬふりをしていました。しかし、わかったのです。いずれ、蒔いたものは刈り取ります。私は・・・もう見ていられないのです。苦しんで路頭に迷う子供たちも・・・魔族に言いなりになる国王様も」
アーサーはザインの最後の言葉が引っかかっていた。魔族の言いなりになる国王は庇う必要のない者である。しかし、ザインの言葉の端々から国王への崇拝にも近い忠誠心を感じていた。
「ザイン様・・・何か国王様に弱みでも握られているのですか?」
「・・・いえ・・・何も?・・・なぜそのような事を聞くのですか?」
「私からすれば、イエッツェの国王は・・・死に値するほどの罪を犯していると思います。民を守らなければいけない立場であるのに、魔族と手を組み、反対に苦しめ続けています。しかも・・・とにかく国王に相応しい人ではありません。しかし、あなたの言葉からは国王への尊敬や信頼が滲み出ています。今のあなたを完全に信用することができません」
ザインはアーサーの話を聞きながら、何度も頷いていた。
「・・・違うのです。元々国王様はもっと立派な思想をお持ちの方でした。本当に尊敬に値する人で、私はあの方の宰相になりたいと思い、ずっと努力してきました。私が宰相になった時、国王様は・・・『私と一緒にこの国を、民の笑顔で溢れる国にしよう』そう言って、手を差し伸べてくれました。ですが・・・しばらくすると人が変わったように・・・私は夢でも見ているのかと思っていました。しかし、現実でした。国王は民を笑顔にするどころか・・・貴族たちからの賞賛を得るため、民を・・・民を・・・」
ザインは泣き崩れてしまい、何もできなかった自分への怒りだろうか、泣きながら何度も拳で膝を殴っていた。
アーサーとアルバートはザインが落ち着くまでじっと待っていた。
アーサーはザインの話からある仮説を立てていた。
(なるほど・・・その時から国王は・・・これは、セヴァスに聞いた方が早いな)
アーサーは立ち上がり、アルバートにこう告げた。
「ちょっと確かめたいことがある。ザインが落ち着くまでそっとしてやってくれ。すぐ戻ってくる」
「はい」
自室に戻ったアーサーはセヴァスを呼び出した。
「はい。お呼びでしょうか?」
「わぁ!」
アーサーが振り向くと、セヴァスの顔が目の前にあった。
「セヴァス、脅かすなよ」
「あはは、申し訳ございません。やはりこうでないと。カイン坊ちゃまに同じことをしても全く驚かないのですよ。期待通りのリアクションをありがとうございます」
「あぁ・・・」
(本当にこの男は魔族なのか?)
赤い瞳以外は人族と何ら変わらない上品な執事である。魔族は悪、という概念を根本から覆しそうな存在のセヴァスはアーサーにとって興味深い存在だった。
「セヴァス、聞きたいことがあって呼び出したんだが・・・」
アーサーの質問に答えたセヴァスの答えはアーサーの予想通りだった。
「なるほど・・・これで辻褄があった」
「お役に立てて光栄です」
アーサーの疑念が確信へと変わった。




