78 失礼なことを言っていたことに今頃気付いたのですが、大丈夫ですか?
療養していたヴェルナーも回復し、ようやく動けるようになっていた。
「ジェイダン理事長、ご迷惑おかけした上に、保護までしてもらい、本当に申し訳ございません」
「いいんだよ。子供を守ることも私の役割だからね。スチアートだろうとイエッツェだろうと関係ないさ」
「ありがとうございます・・・それで、これから僕はどこに行くのでしょうか?もしかして・・・イエッツェ王国に返されるのでしょうか・・・」
ヴェルナーは穏やかな口調とは裏腹に、震えていた。イエッツェ王国に帰国すればどういう結末になるのか、十二歳のヴェルナーにも予測できていた。
「まさか、そんなことするはずないだろう。国王様にも言われてる。君を保護しないさと」
「本当ですか?」
ジェイダンは優しく微笑みかけ、頭をなでた。ヴェルナーは頭をなでていたジェイダンの手をつかみ、泣きながらお礼を言っていた。
「えっ?僕がデイヴィス家に居候するのですか?」
勇者アーサーの家で保護されるなど予想もしていなかった。
「君を守れるのは勇者アーサーぐらいだよ。一応、このスチアート学院に転入することも検討したのだが・・・ここにはイエッツェ王国第一王子ライラン君もいる。王子の取り巻きの生徒も。彼らの存在は君のとって大変危険だ。だから、まずはデイヴィス家の下働きとして働くといい。デイヴィス家の者は教育されている。きっと働きやすいし、学べることも多いと思うよ」
今まで受けたことない扱いにヴェルナーは正直どう感謝を伝えればいいのかわからなかった。イエッツェ王国にいた頃は、心からの感謝など一度も述べたことはなかった。父親は侯爵階級。上級貴族ではあるが、イエッツェ王国は国王からの信頼がないとやっていけない。たとえ、身分が高くても、国王から見限られれば、一瞬で破滅する。幼い時からヴェルナーは自分の置かれている状況を理解していた。それゆえ、今の自分の状況も理解している。デイヴィス家に守られなければ、暗殺されるのを待つのみである。
「ヴェルナー君、君はまだ若い。今からでも遅くない。アーサーから学ぶといい」
「・・・はい」
ヴェルナーが泣くのにはもう一つ理由があった。それは、自分の家族が今頃どうなっているのか、悟っていたからだった。イエッツェ王国に帰っても、すでに家族がいないことを。
「ドワーフの国は小さいから半日でエルフの国に着くよ」
カインはジゼからもらったミスリルの剣を大事に手入れしながら、ふと疑問に思ったことを口にした。
「ジゼお爺さんとベルネット先生はどんな関係なのですか?」
「初めてドワーフの国に来た時、財布失くしてしまってね。途方に暮れて、適当に歩いていたんだよね。気づいたら暗闇の路地裏で。その時、ジゼ爺さんから声をかけられたんだ。ジゼ爺さんのところに来る人は、訳ありの人ばかりで。ジゼ爺さんは他の人との関りもないし、無口で、口も堅い。だから、色んな情報が入るんだよね。情報をもらう代わりに、私がジゼ爺さんの作る物を売って、お金を渡しているってわけさ。今考えたら、初めて会った時、奥さんを亡くしたばっかりだったのかもしれない。ジゼ爺さんから生きる気力を全く感じなくて・・・見るに見かねてね。今のような感じになったってわけよ。娘までいるとは思わなかったけど」
「ジゼお爺さんの娘は僕のお兄様と同じぐらいでしたよね?一体、ジゼお爺さんはいくつ何ですか?」
ベルネットはカインの質問に笑いながら答えた。
「ジゼ爺さんと呼んでいるけど、ドワーフの中ではまだ若いんだよ。だいたい・・・アーサー様と同じくらいの年じゃないかな?」
「えっ?お父様と同じ?」
ドワーフ族は見た目と年齢が必ずしも一致しない。ドワーフの寿命の平均寿命は五百歳である。人族から見ると年寄りにしか見えないが、百五十歳のジゼはドワーフの中ではまだまだ若年層となる。
しかし、年寄りに見えるとはいえ、父親と同じぐらいの人を”爺さん”と呼ぶのは、失礼な話である。カインは知らなかったとはいえ、申し訳なくなく思っていた。
(今度、会った時、謝ろう・・・それにしても、本当な失礼な人だよな。爺さんって・・・まぁ、ベルネット先生らしいけど)
「カイン君、ついでにジゼ爺さんの武器を売って来るから、ちょっと待ってて」
ベルネットはジゼから預かった武器を売りに馬車から降りた。
戻って来ると、武器が大量の食材に変わっていた。
「ベルネット先生、それはどうしたんですか?」
「ジゼ爺さんからお金は使えと言われたんだけど、ドワーフのお金は他では使えないろう?どうせなら、食べるものに変えようと思って」
「それはいいのですが、二人で食べきれますか?」
ベルネットは籠いっぱいに野菜と肉、魚、甘いお菓子までも持っていた。
「・・・カイン君、保存できる魔法とかできない?」
後先考えないベルネットの行動に呆れながら、食材はセヴァスに保管してもらうこととなった。




