76 高価な剣をタダでもらったのですが、大丈夫ですか?
二日かけて獣人の国を出、ドワーフの国に入ると、一気に景色が変わった。獣人の国はどこもかしこも食欲を湧き立たせる香ばしい肉の香りが漂っていたが、一歩ドワーフの国に入ると金属が焦げるような臭いが鼻に飛び込んできた。
もちろん、食べ物を提供している出店もあるが、どちらかというと鉱石や宝石、魔石などを取引している人たちが多かった。
ドワーフの特徴は目が大きく、耳の形もエルフに近い。肌の色は褐色。背も低く、七歳のカインより少し高いくらいだ。そして、基本的に使える魔法は土か地属性である。火属性も持ち合わせている者も多く、鉱石を加工するのに重宝する属性である。他の属性を持っていることもあるがドワーフ族の中では極めて稀である。
「ベルネット先生、これからどうするのですか?」
「爺さんに会いに行くよ」
「爺さん?もしかして、アンドラさんと話していた時に言っていた、ジゼ爺さん?のことですか?」
「よく覚えているねー。その通り」
馬車は裏通りに入り、人気のないところで停まった。まだお昼だというのに、その通りは暗く、灯りが必要なほどだった。
「カイン君はちょっと待っててね」
ベルネットはランプを手にすると、馬車を降り、建物と建物の間の隙間に消えていった。
「セヴァスはドワーフのこととか知っているの?」
ベルネットがいない間、カインはセヴァスと話しながら暇をつぶしていた。
「私はずっとベザレル様にお仕えしていましたし、魔族というものは、この赤い瞳で気づかれてしまします。たとえ、危害を加えようとしていないと訴えても信じてもらえませんしね。基本的に他種族とは交流を持つことはありませんでした」
「魔族は魔族で大変なんだね・・・でも、そう考えると・・・僕の母親は誰なんだろうね・・・」
「ベザレル様は紳士で誠実な方でした。複数、妻を持っていることが当たり前な魔族の世界で、ベザレル様は一人の人しか愛さないと決めておられました。どんなに魅力的な女性が目の前に現れても、見向きもしませんでした。ですから、カイン坊ちゃまを初めて見た時は、とてもうれしかったです。やっと、あのベザレル様にも愛する方ができたのかと・・・カイン坊ちゃまはベザレル様のようにはいかないでしょけどね」
「どういう意味?」
「大人になれば理解できますよ」
「セヴァスは毎回そればかり」
カインがわざとふくれっ面をしていると、ベルネットが馬車に戻ってきた。
「カイン君、一緒に行くよ・・・それと、セヴァスさん。一応、魔族なのですから、馬車の中であっても気を付けてくださいよ。見つかったら大変ですから」
「ご忠告ありがとうございます。承知しました・・・ベルネット様は本当にお優しい方ですね」
セヴァスは執事らしく丁寧に一礼して、カインの影に吸い込まれていった。
「・・・ねぇ、カイン君。セヴァスさんは本当に魔族なの?」
「はい。そうですけど?」
「いやー・・・・魔族でもあんなに優しくてできた人がいるもんなんだね」
「そうですね・・・初めて会った時から、セヴァスは優しかったです。一応、僕の執事をしていますが、本当のおじい様のようです。お父様の両親は亡くなっていますし、お母様の両親は遠くに住んでいるので、赤子の時に会ったぐらいで・・・僕は全く覚えていませんが」
「セヴァスを見る限り、カイン君のお父様もきっといい魔族だったんだろうね」
「そうですね」
「さて、行こうか」
カインはベルネットに手を引かれつつ、暗闇の細い路地へと入っていった。
「この人がジゼ爺さん、無口で無愛想だけど、悪い人じゃないよ」
「・・・」
「はじめまして。僕はカインと言います」
「・・・よろしく」
ベルネットに前もってファミリーネームを名乗らないよう言われていたため、カインとだけ名乗った。
デイヴィス家の名は他種族の間でも有名な名である。カインが勇者の子であると知られると何が起こるかわからない。それに加え、カインは特殊な血筋である。厄介事を避けるため、ベルネットは前もってカインに忠告していた。
さすが、ドワーフ。小さな工房ではあるが、立派な剣や盾が置いてある。きっと良質なものではあるとは思うが、驚くほど無造作に置かれていた。
「ジゼ爺さん、ちゃんと片づけないと。この剣、小さいけどミスリルで作った剣だろう?一体いくらで取引されると思っているの。ガラクタのように置いてあるけど」
「・・・そいつは失敗作だ・・・刃も小さい・・・」
ベルネットはカインに剣を渡すように投げた。
「えっ?」
カインは戸惑いながらも、剣を振ってみた。
「これが、ミスリルの剣・・・軽い」
初めてミスリルの剣を握ったカインは、衝撃を受けた。想像以上に軽く、子供のカインでもあまり力を使わず、振り回すことができた。
「・・・坊主、気に入ったか・・・」
「えっ?あっ、はい。僕にはちょうど良い剣です。ミスリル鉱石という名前は知っていましたが、人族にはミスリルは流通していません。値段が高いですので。初めて見ました。すごく体に馴染みます」
「・・・そうか・・・それなら、もってけ」
「いいのですか?これ、かなり高価ですよね?」
「そうだねー。スチアート王国で換算すると・・・一番高い剣の百倍の値段はするね」
「百倍!?そんな剣もらえませんよ」
「・・・ここにあってもただのガラクタだ・・・剣が坊主を選んでいる。もってけ」
「ありがとうございます!」
顔には出さなかったものの、カインは非常に喜んでいた。ジゼは鞘とそれを固定するベルトまでくれた。
「カッコいいね、カイン君。ますます男前度が上がったね」
「ジゼさん、ありがとうございます」
「・・・ジゼ爺さんでいい。この変人娘もそう呼んでいるだろう」
「変人は余計だよ」
「はい、わかりました。ジゼお爺さん」
(何でジゼ爺さん、カイン君にこんなに優しいのだろう・・・)
ベルネットはカインに対するジゼの態度に疑問を感じたが、まずはそれよりも解決しなければ問題が先だった。
「ジゼ爺さん、魔族とイエッツェ王国、そして、ドワーフの誘拐事件とか何か知っていることはないか?」
作業をしていたジゼの手が止まった。
「・・・おい、変人娘・・・何をしようとしている」
ドワーフの特有の大きな黒い瞳が、ベルネットを睨みつけていた。
多少怖さもあったがそれよりもその言葉の声調からは、苦しさが滲み出ていた。




