73 国をも揺るがす闇に子供が首を突っ込んでいますが、大丈夫ですか?
「いやー、カイン君と旅行ができるだなんてうれしいなー」
「ベルネット先生、これは旅行ではないですよ。あくまでも調査をしに行くのですから」
「わかってるって」
カインとベルネットは商人を装った馬車に乗り、獣人族の住む町へと向かっていた。
二人の護衛としてついていったのはセヴァスだけであった。
人族以外で魔族領と接している国は西のエルフ族である。ドワーフ族と獣人族の国は大陸の南側に位置し、魔族領との境は広大な森と砂漠で阻まれているため、割と安全な国でもある。
まずは隣国でもある獣人族の町へと向かっていたのであった。
「それにしてもよくあの勇者様が許可を出したね。勇者様って子供を溺愛しているって有名だったし、子供の君に、他種族と魔族、そしてイエッツェ王国との闇の部分の調査を託したのでしょう?」
「反対されるとは思いましたが、セヴァスの存在を明かすことができましたので、何とか説得できました。お父様は僕の実力を大体わかっているでしょうし、セヴァスは優秀な護衛兼執事です。それに、ベルネット先生もいてくれます。この調査はこの大陸に住んでいる全ての種族に関わることです。誰にでも頼めるような話でもありません。それに、僕はまだ子供ですし、まさか子供が国をも巻き込む大きな話の調査に来ているとは、誰も思わないでしょ。僕の存在はスチアート以外にはあまり知られていませんので」
「カイン坊ちゃま。アーサー様を見る限り、不本意だったと思われますよ。あんなに大号泣していたのですから」
「あぁ・・・あれはさすがに引いたね・・・」
カインが密かに王宮を出る日、アーサーは見送りに駆け付けた。カインが調査に赴くことは国王ダタン、宰相ハワード、父アーサー、スチアート学院理事長ジェイダン、そして侍女マリー以外知らなかった。
「カイン、絶対に無茶はするなよ。セヴァスに毎日報告を頼んでいるからな。もし、一日でもセヴァスが来なくなったら、騎士団を率いて、捜しに行くぞ」
「わかっています。セヴァスには毎夜に報告させに行きますから。それにベルネット先生もいますから、大丈夫ですよ」
アーサーは心配を拭いきれなかった。ベルネットはスチアート学院の先生の中でも優秀とはいえ、かなりの変わり者である。真面目な調査であるのも関わらず、緊張感もなく、まるで旅行に今から行くのかと思うほど、ウキウキしていた。
「ベルネット先生・・・くれぐれもカインのことを頼みますよ」
「大丈夫ですよ。むしろ、私の方が守られる側かもしれません。カイン君は私より強いですから」
「それはそうなんだが・・・」
「・・・大丈夫ですよ。アーサー様。カイン君はアーサー様の息子なのですから」
今まで心配で仕方がなかったが、ベルネットのその言葉と微笑みでなぜか安心してしまった。
「そうだったな・・・カインは私の息子だ・・・カイン、気を付けて」
「はい、お父様。いってきます」
「カイン・・・カイン・・・」
涙一つ見せないカインと比べ、アーサーは鼻水まで流しながら泣いていた。
「お父様、そんなに泣かないでくださいよ」
「わかっている・・・わかっているんだが・・・」
相変わらず笑顔の一つも見せない息子に寂しく思いながら、最後は明るく見送った。
「アーサー様、そろそろ行きましょうか」
「あぁ・・・そうだな」
見えなくなったはずの馬車をいつまでも目で追い続けていたアーサーだったが、アルバートの声でようやく涙をぬぐい、気持ちに区切りをつけ、その場を後にした。
「カイン君、外を見てごらん!久しぶりに来たけど、やっぱりいいね」
興奮しているベルネットを見ながら、大袈裟だなと思っていたカインだったが、実際に、見てみると、カインも初めて見る世界に感動していた。
「ここが・・・獣人族の町・・・」
獣人族は見た目は人族に近い。しかし、猫であったり、犬であったり、獣特有の容貌をしている。獣人族の言語は獣人語なのだが、ほとんどの人が人族の言葉の話せる。これは、地理的に人族領に隣接していることも理由の一つである。
道沿いには様々な店が出ているが、多くの獣人族が肉食のためが、香ばしい焼けた肉の香りが漂ってくる。カインたちもその香りにつられ、お腹が空いてきていた。
「カイン君、ここら辺で一旦食事にしない?私、いい店知っているから」
「はい。そうしましょうか」
カインとベルネットは一旦馬車から降りて、食事をとることにした。
「Καλωσροισμα!」
「Γεια σοu!」
(獣人語?何を言っているんだろう?)
流暢に獣人語を操るベルネットに感心しながら、カインは緊張しつつ、ベルネットについていった。
「ハナ、この子は何?もしかして、隠し子?」
「そんなわけないでしょ?この子はカイン君。私の弟みたいなものよ」
「こんにちは、カイン君」
「こんにちは」
ようやくカインにも理解できる言葉で話しはじめたので、緊張がほぐれた。
「今日は・・・予約していた、あれを食べたいのだけど」
「あぁ、そうだったわね。予約席にご案内しますね」
その後、ベルネットはウエイトレスの虎のお姉さんとひそひそと話ながら、店の二階に案内された。
「個室?ベルネット先生、予約をしてくださったのですか?」
「まぁね」
しばらくすると、美味しそうな香りがする肉料理と飲み物をさっきの虎のお姉さんが持ってきた。
「ベルネットはワインでいいかしら?カイン君はオレンジジュースね。今日はブラック・ボアの煮込みとソーセージ、ヤギのミルクで作ったチーズよ」
虎のお姉さんは食事を並べると一緒に椅子に座った。
「それで、ハナ。何の情報を聞きたいの?それより、カイン君はここにいて大丈夫なの?」
「アンドラ、大丈夫よ。この子は、あの勇者アーサー様の息子なのだから」
「えっ!?あの英雄の息子?」
どうやら勇者アーサーは他種族の中では、神のように崇められているということをカインは初めて知ることとなった。




