71 蔓延っている闇についての話を七歳の子供が聞いても、大丈夫ですか?
涙を出し切ったのか、ようやく落ち着いたヴェルナーが、スチアート学院に来る前に何があったのかをアーサーに話しはじめた。
「イエッツェ王国では、バルチャが始まる前に決起会という名のパーティーが王宮で行われたのですが、そこで父上から・・・何と言ったらいいのでしょうか・・・気味の悪い男の人を紹介されまして」
「気味が悪い?」
「はい。黒眼鏡をかけていたのですが・・・たぶん、目が見えないのだと思います」
「なぜそう思ったのだ?」
「一瞬だけ、目が見えたのですが、目が開いていませんでした。でも、人の位置は正確に把握しているのだと思います。父上が話しかけた時、私がいることも気づいていましたので。それで、顔色も青白くて・・・正直、生きている人間には見えませんでした」
「それで、その男と何の話をした?君のお父様とその男の人の関係は?」
「話は・・・大した話ではなかったです。バルチャ、頑張ってねとだけ・・・その時に何かを見たような気がしたのですが、何も覚えていないのです。私の記憶が曖昧なのはそこからだと思います。父とはそのパーティー以降会っていませんので、父とその男との関係は・・・よくわからないです」
ヴェルナーの様子から父親との関係は上手くいってないように見えた。
「先程、アーサー様はイエッツェ王国はどう思うかとおっしゃっていましたよね?」
「あぁ」
「・・・」
ヴェルナーはアルバートの方をチラチラ見ながら、話すのをためらっているようだった。
「ヴェルナー、安心しろ。アルバートは口の堅い男だ。もし話したいことがあるのなら、気にせず話せばいい」
「・・・アーサー様、私を守ってくれますか?」
「・・・わかった。安心しろ」
アーサーの穏やかな表情と優しい声でヴェルナーは決心したのか、イエッツェ王国に蔓延っている闇について話しをはじめた。
「今から話すことはここだけの話にしてください。そうでなければ・・・私は国王の反逆者として、斬首されます」
ヴェルナーの話を聞いた後のアーサーは、ヴェルナーにかける言葉が見つからなかった。
十二歳の少年はとてつもない重圧を抱えて、これまで生きていたのだ。アーサーは自分の息子アベルとヴェルナーが重なり、イエッツェ王国に対して憎しみにも近い感情が湧きあがってきた。
「イエッツェ・・・」
アーサーは泣くのを堪えながら、ヴェルナーの頭を優しく撫でることしかできなかった。
心の中で蹲っていたものがやっと解き放たれたのだろう。ヴェルナーは子供らしい無邪気な笑顔で笑っていた。
「これって七歳の僕が聞いていい話なの?」
カインはセヴァスの報告を聞きながら、鳥肌が立っていた。
「そうですね。普通の七歳の子供でしたら、こんな話はしませんね」
「僕は普通の七歳の子供でしょう?」
「何をご冗談を。魔王ベザレル様のご子息が普通の子供なわけないでしょ。それに、今は勇者様のご子息でもあります。それでも普通の子供だと言えますか?」
「僕の話はやめよう。しかし・・・イエッツェ王国の魔族とのつながりは、ヴェルナーの話で確信に変わったね・・・となると、他種族も・・・セヴァス、ベルネット先生に他種族の状況の調査をお願いできるかな?ベルネット先生のことだからこの話には食いつくと思うけど」
「よい提案だとは思いますが、いささか危険だと思いますよ。相手は魔族なのですから」
「うーん・・・セヴァスは使える手下とかいないの?」
「いませんよ」
「何で?」
「何でと言われましても・・・」
「まぁ、ベルネット先生だし、大丈夫かな」
「それならば一つご提案が・・・」
部屋には二人しかいないのにセヴァスはなぜかコソコソと小声で話していた。
「・・・というのはどうでしょう」
「それは名案だね。でも、お父様が承認してくれるかな?」
「そうですね。まずは私の存在をお父様に知らせないといけませんね」
「はぁ・・・そうだよな・・・今の感じだと、アルバートはまだお父様に言っていなさそうだし。ヴェルナーの件が落ち着いたら、お父様にセヴァスを紹介するか」
セヴァスの存在を知った父アーサーがどのような反応をするのかカインには予想ができなかった。
しかし、セヴァスの存在と強さを認めてもらわなければ、カインとセヴァスが考えている作戦を実行することができなかった。




