70 二つの組織から魔王にされそうなのですが、大丈夫ですか?
「カイン坊ちゃま・・・そんなにボロボロになってどうされたのですか?お顔も赤く腫れて・・・男前が台無しですよ」
いつもマリーによって整えられている白髪の髪がぼさぼさになっており、服もしわだらけだった。おまけに左頬が赤く腫れあがっていた。
「セヴァス・・・わかっていて質問しているだろう?」
「相変わらずおモテになりますね。なるほど・・・それでマリー様の機嫌も悪いのでございますね」
「えっ?マリーは関係ないでしょ」
カインがマリーの方を見ると、ぷぃっとそっぽを向き、口を尖らせていた。
(なぜマリーまで怒っているんだ?・・・女の人ってわからないな)
アイビーからキスされた後、レアは同じようにキスしようとするし、ダリアはなぜか怒ってカインの頬をビンタするし、アイビーは抱きついて離れないしで、カオス状態になっていた。
ミディアンとルーシーで何とかその場を収めたが、その後のマリーの機嫌も良くなかった。
「僕のことはもういいよ。それで、ウィロウから何か聞き出せた?」
「はい。良い話と悪い話と・・・良い話は魔族は王宮の中には入れないようです。カイン坊ちゃまが王宮に住んでいることは把握していたようですが、どうやら、ダタン国王様が王宮全体に結界を張っているらしく、何を試しても入れなかったそうです。つまり、カイン坊ちゃまは王宮にいる限りは安心でしょう。悪い話は・・・イエッツェ王国が魔族とつながりを持とうとしているようです。イエッツェ王国は奴隷として他種族を攫ったり、買ったりしています。これは、魔族との関りに関係しているようです。今回の魔獣の件は知らなかったようですが、ウィロウの話では、ガド様と他にもう一つの魔族の組織が暗躍しているそうです。この組織の主は私が推測しているあの仮面の男の兄でしょう・・・二つの組織に共通して言えることが、どちらもカイン坊ちゃまを魔王にしようとしていることです」
「話が大きくなりすぎて、よくわからないな・・・なぜそこまで僕を魔王にしようとするのかな」
七歳のカインにはスケールの大きな話で、事が重大過ぎて、頭で整理するのに時間がかかっていた。
「それよりも、カイン坊ちゃま。王女様たちの件は大丈夫なのですか?」
「その件は今は考えたくない・・・」
「羨ましい悩みですな」
「いやいや、これにアイラが加わったらもっと大事になっていたよ・・・それで、ウィロウはどうしたの?」
「私が支配する影の中に閉じ込めています。私が亡くなったとしても永遠に生きたまま閉じ込められます」
「何かの役に立つかもしれないから、そのままにしておいて」
「承知しました」
(あとは・・・ヴェルナー・ズオンがどうなったかだな)
「セヴァス、お父様のところに行ってヴェルナー・ズオンがどうなったのか見て来てくれない?」
「承知しました・・・では、カイン坊ちゃま、後は言い訳を頑張ってくださいね」
「ん?」
セヴァスの言った言葉の意味がわからないまま、影に吸い込まれるセヴァスを見送った。
(セヴァスは何のことを言いたかったのだろう・・・)
「マリー、僕、疲れたから寝るね」
「そうですか。どうぞご勝手に」
「何怒っているの?」
「別に怒っていませんけど」
なぜマリーがツンツンした態度を取っているのか、カインには理解できなかった。
「ここは・・・」
「目が覚めたか」
「・・・あなたは勇者アーサー様?」
「そうだ」
ヴェルナーはゆっくりと起き上がり、自分が今どこにいるのか把握するため周りを見渡していた。
「ここはどこですか?」
「スチアート学院内にある医務室だ。何でここにいるのかわかるか?」
ヴェルナーは自分の身に何が起きたのか、必死に思い出していた。
「たしか・・・私は・・・だめだ。頭が痛い」
ヴェルナーが思い出そうとすればするほど、頭痛がひどくなっていった。
「無理やり思い出さなくてよい」
「・・・私が最後に覚えている記憶は・・・スチアート王国に来る前です」
「スチアート王国来る前?ということは、ここに来てからの記憶はないのか?」
「・・・はい」
「こんなことを聞くのはどうかと思うが・・・君はイエッツェ王国のことをどう思っている?」
「・・・」
ヴェルナーは何か言いたそうな表情をしていたが、上手く口に出せないでいた。
「話したくないなら、話さなくていい。身体が治ったら、何があったのか話してやるから。まずは、身体を治せ」
アーサーの温かい言葉にヴェルナーは涙した。
「どうした?」
(よく考えればこの子はアベルと同じ年の子だ。まだ子供だ。きっと俺たちスチアートの者にはわからない苦しみがあるのだろう)
アーサーはヴェルナーを優しく包み込み、抱きしめた。
「よく・・・頑張ったな」
緊張の糸が切れたヴェルナーはアーサーを抱きしめながら、大粒の涙を流した。アーサーの服はヴェルナーの涙で大雨に降られた後のように濡れていた。




