69 無理やり言わされているような気がしますが、大丈夫ですか?
「カイン様、やっとお会いできました」
アイビーの他に、ミディアン、レア、マリー、そして、ダリアとルーシーの姿もあった。
「皆さん、どうして僕の部屋にいるのですか?」
「バルチャが中止になったでしょう?それで、領へ戻らないといけなくなったのだけど、最後にカインに会おうと思ってレアと来たのよ。そしたら、偶然、王女殿下たちとお会いして。カインが来るまで、ここでお茶会していたのよ」
「なるほど・・・そうですか」
「カイン、また、無茶なことをしたそうね。お願いだから、母さんを心配させないで」
ミディアンの目は心の底から心配して訴えている目をしていた。
「そうよ、カインちゃん、お母様も私も、とーっても心配だったのだから」
「ごめんなさい。お母様、お姉様」
相変わらず棒読みのような言葉だったが、ミディアンとレアにはカインの真意が伝わっていた。
「アイビー、いい加減カインを放したらどうですか?」
アイビーの堂々としたカインとのイチャつきが我慢できなくなったのか、冷めた口調ではあったが、ダリアは気になっているようだった。
「嫌ですよ。ん?お姉様・・・いつからカイン様のことを呼び捨てで呼ぶようになったのですか?」
「えっ?いや・・・それは・・・それは置いといて、結局、あの猛獣?は何だったの?」
「それはお父様とアルバートが調べています。今はすでに元のヴェルナー・ズオンに戻っています。いずれ回復するとは思います。どこまで記憶があるのかは知りませんが・・・」
(この子は・・・また首を突っ込んで・・・)
ミディアンはカインの才能と行動力に恐れを感じていた。一度、子を失っているミディアンにとってはカインは神から与えられた宝のような子だった。もう二度とあんな悲しい思いはしたくなかった。
「カイン、あなたはまだ七歳なのよ。お父様の手助けをするのもいいけど、危険な真似はしないで。私が最も怖ろしいのはカインを失うことなの。だから・・・」
「わかっていますよ、お母様。大丈夫ですよ。負けると思ったら、逃げますから。足速いので。でも、僕も男です。僕にもお母様とお姉様を守らせてください」
「カイン・・・」
「さすが、私のカインちゃん」
レアはアイビーからカインを奪うように抱きついた。アイビーに向かって、カインに見えないように、舌を出して挑発していた。
アイビーはレアの挑発に乗りそうになったが、冷静だった。なぜならば、レアはカインにとっては実の姉であるため、いくら愛情があったとしても、将来、カインと結ばれることは絶対にない。カインと結ばれるのは自分であるという確信があった。
「レア様、カイン様は私の許嫁です。将来、レア様は私の義姉様になるのですから。これから仲良くしましょうね」
横目でアイビーの微笑みを見ていたカインは背筋がゾッとしていた。
(あの魔獣より怖ろしいかも・・・)
その様子を黙って見ているダリアだったが、内心は心穏やかではなかった。
(心がもやもやする・・・まさか、妹がライバルになるだなんて思いも寄らなかったわ)
「レア、カインは疲れているのよ。もう、離してあげなさい」
「はーい」
「さぁ、カインもお菓子があるから食べなさい。お腹空いたでしょう」
ミディアンの声掛けで再びお茶会がはじまろうとしていた。
アイビーはカインの服も裾を引っ張り、ある質問をしてきた。
「カイン様・・・私のこと・・・好きですか?」
「えっ?」
カインは一瞬返答に困った。
(嫌いではないけど・・・好きかと言われれば、好きなのかな・・・でもこの好きは・・・)
「カイン様、私のこと・・・好きではないのですか・・・?」
(そんな目で見ないでくれよ)
アイビーの悲しく潤んだ瞳は一つの答えを言うしか他なかった。
「好きですよ」
カインは遠い細い目をして、答えていた。
カインはガッっと両頬をつかまれ、無理やりアイビーの顔の方に向けられた。
「私の目を見て言ってください」
「・・・アイビーのことが好きです・・・」
(これって半ば強制的に言わされているような気がするけど・・・アイビーってこんな感じの子だったっけ?)
カインのこれまでのアイビーの印象は、大人しく、お淑やかで、絵にかいたような王女様。分け隔てなく人に接し、慈愛に満ちている。八歳ながら、すでに、王宮で良い評判を得ていた。
「私もカイン様のことが大好きですよ。これからもずっと大好きです。ずっとおそばにいます」
そう言い終わると、カインの唇に何かが触れた。
(えっ?)
アイビーの勇気を出した行為は最大限の将来の約束と誓いの証だった。
この後、カインの部屋が修羅場と化したことは言うまでもない。




