68 勇者の父親が魔王の息子に助けを求めて、大丈夫ですか?
「やっぱり来たのか、カイン」
「アーサー様、申し訳ございません」
「いや、こうなると思っていたよ。それに、正直、カインがいないとこいつはどうにもならないしな」
アーサーは七歳の息子に頼らないといけないことに、父としては情けなく思いながらも、カインを頼もしく思っていた。
「カイン、あいつを殺さずに、捕らえることはできるか?」
「うーん・・・やったことはないですが、やってみます」
「頼む」
カインは走りながら両手を広げ、魔獣の足元を凍らせ、足止めした。
「いいか、カイン!殺すなよ!」
「わかっていますよ」
そのまま魔獣の頭上まで高く飛び上がった。
「カイン・・・いつも間に嵐属性の魔法まで覚えたんだ」
カインは飛び上がった反動で頭部目がけて何発か拳と蹴りで攻撃した。強化魔法を使ったのか、その威力はとても七歳とは思えないほど、ダメージを与えていた。
それを見てアルバートが笑っていた。
「アルバート、何を笑っているんだ?」
「いや、あの・・・あの時のアーサー様を見ているようで・・・やはり、カイン様はアーサー様の息子ですね。そっくりです」
「当たり前だ」
アーサーとアルバートの二人がかりであれほど苦戦していた魔獣との戦闘を、カインは数分で気絶するまで追い込んでいた。
「お父様、少し試してみてもよろしいですか?」
「ん?いいぞ。何をするのか知らないが、好きにしろ」
頭の周りに星が回り、ふらふらしている魔獣を前に、カインは額に両手をかざし、ぶつぶつ呪文のようなものを唱えていた。
「アーサー様、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫。カインのことだ。何か考えがあるのだろう」
カインの周りの空気が震え出し、カインの魔力が溢れ出していた。
「リジャルレーション」
カインの声と共に小さな光の粒が魔獣を覆いつくした。
魔獣は段々と縮んでいき、ついに、元の人間のサイズになった。
「よかった・・・上手くいった。お父様、もう大丈夫ですよ」
アーサーとアルバートが魔獣に駆け寄ると、そこにはもう魔獣の姿はなく、ヴェルナー・ズオンが倒れていた。
「意識を失っているだけだと思います」
「そうか、よかった。アルバート、この件を国王様に報告を。あと、侍医を呼んで来い。医務室に来るよう伝えてくれ」
「承知しました」
アルバートが走り去った後、アーサーは大笑いをしながら、腰を抜かすように座った。
「カイン、一体、どこでそんな魔法を覚えたんだ?父さんは何も知らなかったぞ。それに剣術だけでなくて武術も。さては、隠れて誰かに教えてもらっているな」
「はっはっはっ・・・お父様、とりあえず、この人を医務室に連れて行ってはどうですか?」
「あぁ、そうだな」
アーサーはヴェルナーを肩に担ぎ、カインと共に医務室へと向かった。
「アーサー、カイン。今回は本当に助かった。礼を言う」
アーサーとカインは今回、バルチャで起きた事件を解決したとして、国王から褒賞を受けていた。
バルチャは事件が起きたため、中止となり、他国の者たちは速やかに帰国した。
「それと、アルバート。お前も良い働きをした。褒美をやろう」
「・・・感謝いたします。国王様・・・」
アルバートは国王ダタンに礼を述べながら、ある事柄について、いい出すべきかどうか考えていた。
(カイン様の仕えるあの魔族の執事については・・・どう説明したらよいのだろうか・・・)
アルバートは言い出す機会がなく、アーサーにもまだセヴァスの存在を明かしていなかった。
しかし、今回はその時ではなかった。公の褒賞だったため、他の貴族たちも参加していた。国王がカインがどうやって倒したのか追及しないのもカインの力を公にしないためだった。
(今ではないよな・・・アーサー様と二人きりになった時に話してみよう)
「アルバート、顔色が悪いがどうかしたのか?」
「・・・いいえ。何もございません」
チラッとカインを見ると、今は言うなよと念を送っているような冷たい視線を感じた。
たかが七歳の子どもなのにアルバートはなぜか恐怖を感じていた。
(何だこの寒気は・・・)
アーサーはアルバートの様子がおかしいことに気が付いていたが、そのことには触れなかった。
アルバートが国王の前で申さないといことはデイヴィス公爵家とスチアート王国に関わる大事なことに違いないと確信していた。
国王との謁見が終わり、カインは部屋に戻ろうとしていた。
(ウィロウはどうなったのかな・・・セヴァスがどこまで問い詰めているか・・・早く聞かないと)
カインはセヴァスからその後の展開を聞きたかったので、一刻も早く部屋に帰りたかった。
カインはアルバートに視線で合図を送っていた。
(すぐに部屋に帰ってあの魔族を処理しないと)
(アーサー様に話さなくていいのですか)
(もう少し待ってください)
(しかし・・・)
「おい、カインとアルバート、何、変な顔し合っているんだ?」
「いいえ、何でもありません。お父様、僕、疲れましたので、部屋に戻っていいですか?」
「そうだな。私とアルバートはヴェルナーを尋問しなければならない。アルバート、マリーを呼んで来い」
「お父様、僕は一人で大丈夫ですよ。もう何ヶ月も王宮にいるのですから」
「そうだったな。帰る前にミディアンたちには寄るように言っておく」
「わかりました」
(よしっ、急ごう)
カインはジェスチャーで、セヴァスのことはまだ言わないよう、アルバートに念押しして、部屋に戻っていった。
(さて、セヴァスの方はどうなったのかな)
カインの部屋に近づくにつれ、ざわざわ声が聞こえいた。
(あれ?ここ、僕の部屋だよね?)
明らかに騒がしい声が聞こえていたため、ゆっくりと扉を開けた。
「カイン様ー!」
カインを見るなり、アイビーがカインの胸に飛び込んできた。




