67 戦闘中に昔話をしていても、大丈夫ですか?
次々と先生たちが限界を迎え、後ろに退く中、アーサーは本領を発揮していた。ある時は魔法で、接近戦になれば、剣や拳を使い、アーサーの目の前に来るものは次々と倒れていった。
初めてアーサーの実力を目の当たりにしたアルバートは驚愕していた。
(これが・・・アーサー様の本当の実力・・・)
アルバートは一瞬で理解した。アーサーよりも三歳も年上で自分の才能を誇っていたが、アーサーの実力は自分よりもはるかも上にいることを。
(私は馬鹿だ・・・こんなに素晴らしい方に仕えていたのに、自分の才能を鼻にかけ、アーサー様の実力を見ようとも、確かめようともしなかった。勝手にただの子供のお守りだと・・・)
アルバートは深く反省していた。
「アルバート君、前!」
アルバートは油断していた。コールの叫び声で我に返ると、目と鼻の先には刃が光っていた。
(だめだ・・・間に合わない・・・)
アルバートはかわすことすらできないことを悟り、死を覚悟し、目を瞑った。
「うぐっ・・・」
妙な声が聞こえ、目を開けると、目の前で剣を振りかざしていた男はあっさりとアーサーに倒されていた。
「アルバート、ぼーっとするなよ。焦ったじゃないか」
アーサーをよく見ると右手から血が滴り落ちていた。
「・・・アーサー・・・様、その血・・・」
「気にするな」
「それはいけません」
アルバートは自分の腕の服を破り、アーサーの手を見た。
アーサー手のひらはザックリ斬れており、その時、アーサーが自分をどのように守ったのか理解した。
「なぜ・・・なぜ素手で剣をつかんで、私を庇ったのですか?」
アルバートは泣くのを我慢しながら、アーサーの手に自分の破いた服を巻いた。止血のため少し強めに巻いた。
「痛てててて・・・アルバートは僕の側近だろ?僕の言うことを聞いてくれる人がいなくなったら、困るだろ?」
アーサーがアルバートを守ったのがそんな理由ではないことを、アルバートはわかっていた。
「そうですね・・・アーサー様。今まで申し訳ございませんでした。これからは・・・一生、アーサー様にお仕えします」
「えー、今さらかよ。僕はずっと前からそう思っていたけどね」
「ありがとうございます・・・」
アルバートはアーサーの心の広さに感銘を受けた。
「それより、アルバート。あとあの三人だけだから、さっさと終わらせて帰ろう。これを天に向かって打ち上げて」
アーサーから手渡されたのは例の発煙筒だった。
「えっ?まだ、決着ついていませんよ?」
「大丈夫、大丈夫。すぐ終わるから」
「わかりました」
アルバートが天向かって発煙筒を放った。空には青い煙が漂っていた。
「さて、私も気合いをいれて・・・えっ・・・」
アルバートが参戦しようと前を向いた時には、すでに全員地に倒れていた。
「アーサー様・・・私の分まで残してくれなかったのですか?」
「ごめん、ごめん。つい体が勝手に」
アルバートは堪えきれず笑いはじめた。それを見てアーサーも笑いはじめた。
先生たちは驚いていた。二人で倒したことももちろんだが、アルバートが笑っているところを初めて見たのであった。
「あの子もあんな風に笑うのね・・・」
コールは笑い合っている二人を見ながら、無事イエッツェ王国との攻防戦を勝利したことに安堵していた。
「アーサー、アルバート、大丈夫か?」
話を聞きつけてジェイスとドリューが駆けつけていた。
「お父様、僕たちは大丈夫です。僕にはアルバートがついていますから」
「アーサー、手を怪我しているではないか」
「こんなのかすり傷ですよ」
「旦那様、申し訳ございませんでした」
アルバートはジェイスの前で跪き、謝罪した。ジェイスとドリューは何に対してアルバートが謝っているのかわからず、顔を見合わせ困惑していた。
「アルバート、何に対して謝っているんだ」
「旦那様、私はアーサー様のことをずっと見下していました。名ばかりの公爵家の息子だと」
「アルバート!」
ドリューは息子の告白に頬を叩こうとしたが、ジェイスが止めた。
「そうか・・・まぁ、否定もできない部分もあるが」
「お父様ー」
「いえ、そんなことはありません。今日の戦いで思い知らされました。私はまだアーサー様の足元にも及ばないと。これからはもっと鍛錬します。そして、アーサー様と肩を並べられるような男になります。ですから、これからもアーサー様の側近としてお仕えさせてください」
ジェイスがアーサーを見ると嬉しそうに頷いていた。
「アルバート、顔を上げろ。アルバート。私がなぜアルバートをアーサーの側近にしたかわかるか?私はワイアットではなく、アルバートを側近にしたいとドリューに言ったんだ。ドリューは私がなぜアルバートを選んだのかわかっていたよ。アルバートがアーサーに対して良くない感情を持っていたことは知っていた。でも、アルバートはそんな感情を持っていてもアーサーには逆らわなかった。私は確信していた。いつかアーサーとアルバートはいいコンビになると。私の目は間違っていなかった。アーサー、良い友を得たな」
「はい、お父様」
ドリューは屈んで息子の肩に手を置いた。
「アルバート、すまなかった。お前の気持ちも考えずに、勝手にいろいろ決めてしまって・・・私も寂しかったのだ。お前の母が亡くなって・・・実は言うと、カヤは子を産めない身体なのだ」
「えっ?」
アルバートは初めて聞く衝撃的な事実に、驚いた顔でドリューの目をじっと見つめていた。
「カヤは子が産めないからと虐げられていてね・・・初めて会った時も親から虐待を受けていて・・・私は息子たちには母親が必要だと思って、カヤと結婚した・・・それがアルバートを悩ますとも思わず・・・カヤはワイアットもアルバートのことも本当の息子だと思っている。本当に。だから、本当の母親だと思えと言わないが、少しずつでもカヤと話してみないか?」
初めて父親の想いを知ったアルバートは泣き崩れた。
アルバートがカヤを本当の母親のように慕うのに、そう時間はかからなかった。
「そう言えばあの後、イエッツェ王国の奴らはどうなったのですか?」
「勝手に自害したんだよ。国王が問い詰めてもイエッツェ王国の国王は知らんの一点張り。物流の制裁を何か月かしただけだったかな。ってか、戦いながら話す話じゃないだろ?結構こいつ面倒くさいだぞ」
「わかっていますよ」
アルバートが加わったことでアーサーも少しは動きやすくなった。しかし、決定打にはまだ何かが足らなかった。
「このままじゃ埒が明かない。しかし、殺すわけにもいかないしな」
「どうしましょうか・・・」
「お父様ー!!」
二人が悩んでいるところに、小さな救世主が現れた。




