66 体力温存などと言って他人任せにしていますが、大丈夫ですか?
先程のワクワクしていた態度はどこにいったのかと思うほどアーサーは一切戦わず、傍観しており、チームの者が率先して戦っていた。
(この子供・・・本当にあのデイヴィス公爵家の子供なのか?)
代々勇者の家系であるデイヴィス公爵家は王族に次ぐ地位を有してきた。アーサー・デイヴィスは一人息子であるため、彼以外デイヴィス公爵家を継げるものはいなかった。そのため、父ジェイスは厳しく息子を育ててきた。アーサーはそれに応えるように逞しく育っていった。
魔法の才能もあったため、同年代の子供に比べたら、使える魔法もレベルも高かった。それに加え、剣術、武術も卒なく自分のものにしていった。
本来ならば積極的に戦うべきアーサーなのだが、何を考えているのか、皆が戦っている様子をただひたすら見ているだけだった。
そんなアーサーの態度にアルバートは苛立ちを隠せなかった。
「アーサー様、戦う気がないのなら、帰ってもらえますか?」
「いや・・・今は、体力を温存しておかないと」
「はっ?」
何のために体力を温存するんだよとアルバートは思いながら、注意しても戦う気のないアーサーを無視することにした。
「何か様子がおかしいな・・・」
しばらくすると敵役の先生たちが姿を見せなくなった。
「えっ?終わったのか?」
「そんなはずはない。まだ、十分もたっていないぞ」
皆が不思議に思いながら、前に進んでいると、一人の先生が血だらけでこちらに向かってきた。
「先生?どうしたのですか?その血は?」
「・・・みんな・・・逃げろ・・・」
そう一言いい残し、先生は意識を失った。
アルバートは先生の怪我の状況を確認した。
「命には別条ない怪我だが、早く治療した方がいいな。それにしても・・・先生はなぜこんな怪我を・・・」
「皆は先生と一緒に最初の集合場所に行ってください。きっとハリス先生がいるはずですから。僕とアルバートは先生が走ってきた方向に行って様子を見てきます。赤色の発煙筒の煙が見えたら、危険の合図です。王宮の魔導士団か冒険者の方の助けが必要だと思ってください。青色の発煙筒の煙が見えたら、解決していて、何も問題ないということです。僕たちが帰って来るのを待っていてください」
今まで一切やる気を見せなかったアーサーが急に真剣な表情で的確に指示をしはじめた。アルバートの目から見ても、とても十二歳とは思えないほどだった。
皆が返事をしてアーサーの指示に従う中、アルバートだけは反対した。
「おいおいおい、ちょっと待てよ。二人で行くのか?先生が傷だらけになって、意識も失っているんだぞ。私たち二人で倒せる敵ではないかもしれないぞ」
アルバートは興奮のあまりアーサーへ敬語を使うことを忘れてしまっていた。しかし、アーサーはそんなことは気にせず、笑いながらこう言った。
「僕たち二人で十分だよ」
アルバートは呆れた顔で、それ以上何を無駄だと理解し、嫌々ながらではあったが、一応、主には間違いないので従うことにした。
「もう知らないぞ」
もしアーサーが怪我でもしたら、父ドリューからの叱責という名の雷が落ちる。
(守りたくはないが、意地でも守って帰らないと)
「行くよ、アルバート」
(体力温存って・・・もしかしてこうなることがわかっていたのか?・・・いや、考えすぎか。こんな子供にそんなことができるはずがない)
アルバートは自分の頬を叩き、気持ちを切り替え、アーサーと共にイエッツェ王国の国境へ向かい、走っていった。
「イエッツェ王国もやってくれましたね」
アーサーとアルバートが行きついた先には、恰好は盗賊のようだが、使う魔法と武術は盗賊とは思えないほど高レベルな男たちと先生たちが戦っていた。スチアート学院の先生は優秀な先生たちしかいないのだが、さすがに人数差には勝てない。ギリギリの戦いをしていた。
「先生!」
アーサーの声に気が付き、向かってきたのはカーラ・コールだった。
「アーサー君、アルバート君、なぜここに来たの?」
「先生たちを助けに来たのですが、これはどういう状況ですか?」
「イエッツェ王国が仕掛けてきたのよ。あの男たち盗賊に扮しているけど、おそらくは私たちと同レベルの魔法を使える集団だわ。それに厄介な武術を使ってくるし・・・生徒たちの前でこんなことは言いたくないけど・・・結構限界がきてるのよ」
見た目では傷一つないように見えるコールだが、魔力も体力も枯渇しかけていた。
「先生たちは休んでいてください。僕とアルバートで何とかしますから」
「何を言っているの?アーサー君たちは理事長にこのことを伝えて。そうしたら、王宮魔導士団が来てくれると思うから」
「王宮魔導士団を待っていたら、日が暮れてしまいますよ。それに、待っている間に先生たちは全滅してしまいます。安心してください。すでに僕のチームの仲間が異常事態が起きていることを知らせてくれています」
「それはありがたいわ。でも、あなたたちは逃げないさい」
「コール先生、僕を誰だと思っているんですか?アルバート、行くぞ!」
「えっ?」
「ちょっと、アーサー君!」
アーサーはコールの制止も聞かず、戦闘中の先生たちのところへ突っ込んでいった。
「アーサー君ったら・・・一体誰に似たのだか・・・。アルバート君も戦う気でしょ?」
「えぇ、一応これでもアーサー様の側近ですから」
「なら行くわよ」
「はい!」
先に戦いはじめたアーサーの後を追い、アルバートも参戦した。
アルバートは自分の実力を過信していた。学院ではいつももてはやされ、中等部でありながら、高等部の生徒との対人模擬戦でも余裕で勝利していた。
自分がまだ十五歳の子供であり、実力は大人に比べたらまだまだであることを自覚していなかった。




