65 お父様の側近は昔尖っていたようですが、大丈夫ですか?
「おいおいおい、聞いてないぞ。こんな猛獣?いや、これは、魔獣だな」
人族に中でも随一の強さを誇る勇者アーサーだが、そのアーサーでさえ、魔獣に変化したヴェルナーを無力化するのに苦労していた。
一瞬の隙をつき、鋭い爪をしたアーサーの顔の三倍はありそうなヴェルナーの手が、アーサーの目の前にあった。
(まずい、避けきれない)
アーサーが覚悟した時、そこに頼もしい助っ人が表れた。
「助かったぞ。アルバート」
「間に合ってよかったです」
魔獣撃退にアルバートも参戦した。
「久しぶりだな。こうやって一緒に戦うのは」
「そうですね。あの時以来ですかね」
今でこそ公私ともに名コンビのアーサーとアルバートだが、父の命でアーサーの側近となったばかりの頃は、アルバートは反抗的であり、アーサーを主として慕っていなかった。
「アーサー、これからお前の右腕となるアルバート・ヘンダーソンだ。お前より三つほど年上だ。兄のように慕うといい」
アーサーの父ジェイス・デイヴィスは、自分の側近、ドリュー・ヘンダーソンの息子、アルバートを息子の側近にした。
当時のアルバートは今では考えられないくらい不愛想かつ誰に対しても心を開いていなかった。その原因は母親が亡くなったことと、もう一つの主な原因はアルバートに新しい母親ができたことだった。
アルバートの母親はアルバートが五歳の時に病気で亡くなった。それからは、ドリューはアルバートとアルバートの兄ワイアットを男手ひとつで育ててきた。
そして、三年後、ドリューは新しい妻を家に迎え入れた。この国に限らず、男性が複数の妻を娶ることは少なくない。そのため、ドリューが新しい妻を屋敷に連れてきても、祝福する者しかいなかった。たった一人を除いて。
兄のワイアットは新しい母親にも好意的で問題なく接していた。しかし、アルバートは新しい母親を受け入れることができなかった。
新しい母親であるカヤはアルバートの心を開こうと努力したが、その努力も虚しく、ことごとく拒絶された。
「カヤ、申し訳ない。アルバートは亡くなった妻のことが大好きだったんだ。別にカヤのことが嫌いなわけではないんだ。あの子は母親の死も受け入れるのに時間がかかった。あの時から、一切笑わなくなった。いつも笑顔を絶やさなかった子が。だから、あの子も大人になれば、カヤのことも母親として受け入れてくれるはずだ」
「・・・私も頑張るわ。だって、ワイアットもアルバートも、私の中ではすでに、実の息子同然だもの」
そして、アルバートが十五歳になった時、十二歳になったアーサーの側近となった。
(なんで俺が子供のお守りをしなければならないんだよ)
十二歳になったアーサーはスチアート学院に入学した。先に入学していたアルバートは、授業以外では常にアーサーの側でお世話をするように命じられていた。元は真面目な性格なため、嫌々ながらでも言われた通りにしていた。
アルバートはアーサーの強さを認識していなかった。学院では初等部と中等部と別れており、一緒にいる時は、登下校か食事をするとき、あとはお世話をするときぐらいだった。アーサーが実際に魔法を使っているところを見たことがなかった。
「僕の属性は炎属性だよ」
「そうですか。私は嵐属性ですよ」
(炎か・・・俺の方が強いな)
アルバートは主であるはずのアーサーを見下していた。それは態度にも表れていた。アーサーはそれを父にも母にも、ましてやドリューにも報告することはなかった。
スチアート学院では学院の外に出て、模擬戦を行うことがある。初等部、中等部、高等部、それぞれのクラスで、例えばSクラスはSクラス同士でチームを組む、といった具合に合同で訓練することとなる。それぞれの学年から二名ずつ、計六名でチームが組まれる。場所はスチアート王国とイエッツェ王国との国境にあるインディゴの森。先生が敵役となり、攻撃してくる。先生を倒すか降参させれば、そのチームの勝ちである。
「アルバートがいてくれて心を強いよ」
アーサーはうれしそうにアルバートに笑顔を見せていた。
「そうですね。私もうれしいですよ」
全く感情の伴わない上辺だけの言葉だということは、同じチームになった生徒たちは気づいていた。
「アルバート、アーサー様に向かってその態度は何だよ・・・お前、それでもアーサー様の側近かよ。申し訳ございませんね。アーサー様」
「アーサー様、同じチームになれて光栄です」
「本当ですね。私もうれしいです。よろしくお願いいたします」
「皆さん、アーサーと呼んでください。僕は年下なのですから。では、自己紹介でもしましょうか?」
皆が自己紹介をし、和気あいあいとしている中、アルバートだけは馴染めないでいた。
(とっとと終わらせて帰りたい)
「・・・アルバート、アルバート!」
同じクラスの男子が何度も呼びかけている声にようやく気が付いた。
「何だよ」
「だから、アルバート、リーダーになったぞ」
「は?何の話だ」
「えっ?いやいや、今みんなでリーダーを決めようという話になって、俺が、『アルバートでいいよな?』って言ったら、みんな賛成してくれたし、お前も『うん』って、言ったじゃないか」
(しまった。あれは、そういう話だったのか・・・適当に返事してしまった)
アルバートはため息をつき、適当に聞き流した自分を恨んだ。
「わかったよ。やるよ」
「ヘンダーソンチーム。次だぞ。用意しろ」
先生の声掛けでワクワクしているアーサーとは対照的にどんよりした空気を身にまとっているアルバートのチームの模擬戦が始まった。
この模擬戦でアルバートは後に、アーサーを主とし、忠誠を誓うこととなる。




