64 禁忌に手を染め殺されたはずの魔族が復活しているようですが、大丈夫ですか?
アルバートは試合会場で起きている出来事を説明しようとしたが、アルバート自身は実は詳しくは知らなかった。目的の人物グレイス・リーを見つけることができず、アーサーに指示を仰ぎに試合会場に戻ったが、会場は大混乱だった。何が起きたのかはわからなかったが、重大な事件が起こったことは理解した。ミディアン、レア、二人の侍女の姿はあったが、カインとマリーの姿がなかった。アベルが合流したため、カインとマリーを探しに行くことにした。そこでマリーと遭遇し、ベルネットの研究室にアルバートとマリーが来たのであった。
アルバートが説明に困っていると、セヴァスが帰って来た。
「セヴァス、どうだった?」
「カイン坊ちゃま、私も見たことのない魔族が試合会場で暴れているようです。お兄様はすでに逃げておられますが、お父上がお一人で戦っておられます」
「セヴァスも知らないってどういうこと?」
「わたくしも驚いております。それよりお父上を助けに行った方がよろしいかと。そこのお方、カイン坊ちゃまとこの魔族のことは私に任せて、早く行きなさい」
セヴァスはアルバートに対し、アーサーの手助けをするよう促した。
アルバートが元々ここに来た理由は、カインとマリーを探し出し、安全な場所へ誘導することだった。
アルバートはセヴァスのカインへの忠誠を肌で感じ、危険な人物ではないと判断し、セヴァスに任せることにした。
「わかった。よろしく頼む」
アルバートはアーサーを助けに試合会場へ向かった。
「セヴァス、僕もお父様のところに行くよ。その前に・・・」
カインが指を鳴らすとウィロウは声を発せるようになった。
「さて、正直に答えてください。もしかしてあなたは、ガドという男に言われてここに来たのですか?」
「・・・そうよ。ガド様がカインがここにいると教えてくれたの。息子をこんな人間臭いところに置いておけるわけないでしょ?」
「それで、試合会場にいる魔族に関して知っていることを教えてください」
「知らないわよ」
「あのカイン様、よろしいでしょうか?」
遠巻きでカインを見守っていたマリーが衝撃的な情報を話した。
「あの魔族はどうやらイエッツェ王国代表、ヴェルナー・ズオンという生徒らしいです」
「どういうこと?人間が魔族になったってこと?」
「そのようです」
「セヴァス、そんなことがあり得るの?」
セヴァスは目を瞑り昔の記憶を呼び起こしているようだった。セヴァスは何かを思い出したのか、眉間にしわを寄せ、いつになく険しい顔をしていた。
「セヴァス?」
「カイン坊ちゃま・・・一人だけ思い浮かぶのですが・・・私が思い浮かべている人物は、もう何十年も前に死んでいるはずです。ベザレル様から殺されたはずです・・・生きているとしたら、非常に厄介です」
「お父様に殺されたって・・・どういう魔族なの?」
「カイン坊ちゃま、一度操られたことがありましたね?」
「あぁ、叔父様と一緒にいた、あの仮面の男のこと?」
「そうです。あの男には兄がいたのですが、弟も人を操る魔法を使いますが、兄の方は弟よりも膨大な魔力を持っています。そして、その兄は禁忌に手を染めたのです」
「それがもしかして・・・」
「そうです。魔族以外の種族を・・・魔族にすることです」
「そんなことができるの?」
セヴァスは黙って頷いた。
もしそんな魔族が生きていたら、人族だけでなく、他種族も魔族化する危険がある。なぜ、何十年も経ってそんな魔族が表れたのか?そもそもその魔族はなぜ禁忌を犯したのか?
もちろん、カインも想像し、恐怖を感じたが、それよりもその魔族に対し、興味が湧いていた。カインと同じように口角が少し上がっていたのは、ベルネットだった。
「それはぜひ会ってみたいね」
「ハナ・・・」
ベルネットが興奮状態になりそうだったが、ゼイン神官長が冷たい目で諫めた。
「その魔族のことも気になるけど・・・まずはバルチャで大暴れしている猛獣?魔族?を何とかしないと。セヴァス、ウィロウのことを任せる。僕はお父様のところに行く。マリーもここにいて」
「承知しました」
「・・・承知しました」
マリーは納得いっていないのか、しぶしぶ承諾しているようだった。
「カイン君、私も行くよ」
「ちょっと、ハナ、待って!」
飛び出したカインの後を、ベルネットとゼイン神官長が追いかけていった。
「さて、どうしましょうか?」
「セヴァス、仲間でしょ?」
「さぁ?誰だったでしょうか?最近物忘れが激しくてですね・・・歳ですかね」
セヴァスの不敵な笑みを見たマリーの背筋は凍りついていた。




