7 お父様と戦っていますが、大丈夫ですか?
セヴァスと共にガドの部屋に来たカインであったが、ガドは怒りを物に当たり散らしていた。
「セヴァス、叔父様はどうしてあんなに怒っているのですか?」
「さぁ、どうしたのでしょうか」
「セヴァスは叔父様のお世話はしていないのですか?」
「私は主と決めた方だけに仕えています。私の主は魔王様とそのご子息のカイン坊ちゃまだけですよ」
「僕?」
二人がこそこそと話している間にも、ガドの怒りはさらにエスカレートしていった。
「カイン、俺についてこい」
ガドは無理やりカインの手を引っ張り、どこかに連れて行っていた。
カインは特に慌てる様子も驚く様子もなく素直に手を引かれていた。
カインがセヴァスに視線を送ると、セヴァスはカインを安心させるような笑顔で頷いた。
(私がお守りしなければ・・・)
黙って見送っていたセヴァスは影諸共どこかに消え去った。
カインが連れてこられた部屋は王宮のパーティー会場にも匹敵するほどの広さだった。
部屋の奥には数段の階段があり、その上にはいかにも王座らしい立派な金の装飾と深紅が輝く椅子がポツンと寂しく置いてあった。
「カイン、あの王座に座るのはお前だ」
「叔父様、叔父様は王になりたくないのですか?」
「そりゃあ、なりたいさ。でも、俺はなれない。あの王座は座る者を選ぶ。俺は一度試したが、近づくことさえできなかった。その時思った。あの王座に座れるのは兄貴の子だけだと。俺はお前を王にし、この大陸を魔族が従えるようにしようと考えている。お前は兄貴の子だ。お前だって王になってこの大陸を思うがままにしたいと思わないか?」
カインは内心、このおじさんは五歳になったばかりの子供に何を言っているんだろうと思いながらも、王座に座ってみたいという好奇心が湧いていた。
「たしかに・・・座ってみたい気もします」
「はっはっはっ、さすが兄貴の子だ。座ってみろ」
カインの心の中では好奇心と緊張が入り混じっていた。
一歩ずつ階段を上り、椅子に座ろうとした瞬間だった。
「カインー!」
部屋の扉を突き破って来たのは、父アーサーと勇者パーティーのメンバーだった。
「お父様!」
カインはアーサーに駆け寄ろうとしたが、ガドが止めた。
「おい、勇者。まだこいつが自分の息子だと言っているのか?こいつはもう知っているよ。自分の本当の父親が魔王ベザレルだってことをな!」
それを聞いたアーサーはショックを受けていた。
「カイン・・・知ってしまったのか?」
「はい・・・」
返事をしたカインの顔を見た時、アーサーは息子が遠くに行ったような、何とも言えない感情が心に渦巻いていた。
「勇者、お前はもうカインの父親でも何でもない。カインはいずれ魔族の王になる子だ。人族なんかに渡すものか」
ガドが指を鳴らすと、ガドの腹心のような男が現れた。その男はガドを見るや否や跪いた。仮面で顔を覆ってはいたが、頭からは牛のような角が生えており、全身黒ずくめの服を着て、マントを羽織っていた。
「ガド様、わたくしは何をすればよいでしょうか」
「カインに人族の父親など不要だ・・・あとはわかるよな?」
「はい。承知しました」
ガドはうれしそうな顔をしながら、カインの頭上を指さした。すると、頭の上から真っ逆さまに剣が落ちてきていた。
つい反射的に剣を握った途端、カインの身体の中に溢れ出るほどのエネルギーを感じた。
「カイン、それは兄貴の剣、つまり、お前の父親の剣だ。さすがカインだな、一か八かだったが、剣がカインを受け入れたな。その剣は魔剣で意志を持っている。剣が主と認めた者以外触ることさえできない」
剣には黒い渦のようなものがまとわりついており、五歳の耐えられないほど膨大な力が身体中に流れていた。
アーサーも含め勇者パーティーの者たちは険しい顔でカインを見ていたが、当事者であるカインはいたって冷静だった。
(すごいこの剣・・・自分がまるで最強であるかのような錯覚を起こしてしまう)
カインは感心した表情で剣を見ていた。
「カイン、大丈夫か!」
「お父様、大丈夫ですよ。それよりこの剣すごい・・・」
ドクンッ
一瞬カインは心臓が跳ね上がる感覚を覚えた。
(何だ?この感じは?)
次の瞬間、カインの目の色が変わった。美しい金色の瞳が血で染められたような赤い瞳に変わった。
アーサーは一瞬でカインに何かが起こったことを感じた。よく見ると、カインの瞳の色が魔族特有の赤い瞳に変わっていた。
「カイン・・・心配するな!父様が助ける!」
「お父様・・・早く・・・逃げて・・・」
「カイン」
カインが剣を構え、気づけばアーサーに斬りかかっていた。
「アーサー!」
「危なかった・・・さすが私の息子だな。五歳にしてこの強さとは」
アーサーはカインの剣を斬られる寸前でかわしていた。
「カイン、大丈夫か?身体はどうもないか?」
緊迫した状況で息子に斬られそうになったにもかかわらず、アーサーはカインのことを心配していた。
「お父様・・・身体が・・・いうこと聞きません。お父様を・・・殺してしまいます」
アーサーはカインの言葉に笑っていた。
「大丈夫だ、カイン。私は勇者だ。それに、お前の父親だ。安心しろ。必ず家に連れて帰ってやる」
カインは初めて恐怖というものを感じていた。
(あの男・・・なるほど。あの仮面の男は遠くからこの剣を操っているのか)
アーサーはカインの剣をかわす最中、仮面の男を見ると、仮面の男の手の動きに合わせて、剣が動いていた。
剣に操られているとはいえ、五歳にして剣についていける身体能力は通常の五歳児の能力を凌駕していた。
勇者パーティーの者たちもアーサーに加勢したかったが、相手がアーサーの息子であるため、下手に手出しはできなかった。
オリーブの聖属性の魔法により何度も回復はしていたが、それを上回る攻撃にアーサーの体力も限界に近づいていた。
「よし、カイン。とどめを刺せ」
アーサーはカインのとんでもない能力に気づいていた。
(私は何度か斬りつけられそうになっていた。しかし、寸前で剣がずれていた。カインは必死に抵抗している。さすが・・・俺の息子だな)
カインは剣に操られながらも、辛うじて抵抗していた。そのおかげでアーサーも体力が削られるだけで、無傷ですんでいた。
(もう・・・限界だ・・・何とかしないと・・・本当にお父様を)
カインは限界だった。一瞬の隙を仮面の男は見逃さなかった。
カインは少しだけ反応が遅れた。
「お父様・・・逃げて!」
「アーサー!」
カインの目の前にはアーサーの右腕が落ちていた。




